ナッツ入りのチョコレートを パティシエ×ボーイ


「差し入れでーす。」
 そう言って甘い匂いの充満した厨房へと、トレーを持って入ってきたのは幸村だった。政宗も丁度椅子に腰掛け休憩しており、ああ、と片手を上げて彼を出迎えた。政宗は今度開かれる世界的規模のパティシエの大会に日本の代表として出場することになっている。今のその練習で遅くまで残っているのだ。厨房には各国の極上品がところ狭しと並んでいる。隠れ甘党の幸村が、この宝石が散りばめられているような状態に何を思うかと、にやにやとその表情を見つめているのだが、彼はこの宝石たちに目を輝かせてはくれなかった。いつもと変わらぬ様子で、「お夜食、こっちに置いときますねー。」と、ベネズエラから取り寄せたチョコレートの袋を押しのけて、強引にトレーを台に乗せた。その反応が面白くない政宗は、「試食してくか?食いたいもん、食っていいぞ。」と先ほど完成させたミルフィーユやザッハトルテなどなど、見た目も味も政宗の工夫がふんだんに仕込まれているケーキを示してみたものの、幸村の反応は今一つだった。それにかちんと来たのは政宗だ。プライドも自信も有り余っている政宗は、彼の素っ気なさが悔しくて仕方がないのだ。
「並んでも中々手に入らねぇ俺の作品だぞ?いらねーのか?」
 幸村は、まるで芸術品のようなケーキ達をぐるりと見回して、こくりと政宗に遠慮することなく頷いた。
「可愛らしすぎて、崩すの、勿体ないです。それにわたし、やっぱり大きなチョコの中にマカダミアナッツ入ってるのが一番好きですし。あんまり手の込んだものって、わたしには合わないみたいなんです。」
 あははと笑いながら幸村は無情にも言い放った。幸村には、政宗が己の持っているもの全てを捧げて作り上げた芸術品よりも、ハワイ土産のチョコの方が嬉しいとでも言うのか!政宗は怒りに震える手を押さえ込んで、巨大な冷蔵庫の前に立った。知っているとも知っているとも!彼が善い人の仮面をかぶった人でなしだと言うことぐらいは!だから政宗も、彼のために、彼の口に合うために、ランクを一つも二つも落としたチョコレートを仕入れて、ナッツも仕入れて、見た目もそうそう作り込まずに、専門家が見ようもんなら、これがかの有名な政宗が作り上げたものなのか…!と震撼させずにはいられないブツをせっせと作ってしまうのだ。政宗は重い冷蔵庫の扉を開ける。冷気が顔に襲い掛かる。政宗は腕を伸ばして、銀のトレーをその中から摘み取った。見た目も全く可愛げがない面白味がない。
「幸村、幸村、」
 台の影にしゃがみ込んだ政宗は、手を上げて幸村を手招きした。幸村は「何ですかー。」と間延びした声で近付く。しゃがめ、と視線で示せば、幸村は政宗が促すままに、政宗の正面にしゃがみ込んだ。
「これで満足か?」
 何がですか?と問われる前に、ゆるい彼の口許を強引にねじ開けて、銀のトレーから一粒の大きめのチョコをつまみ上げて、彼の口に放り込んだ。大きいが、一口で収まるサイズだ。もごもごと口の中を転がっているのは、冷蔵庫から取り出したばかりのせいで硬いからだろう。幸村は丁寧にチョコを咀嚼したかと思うと、今度は自分からトレーに手を伸ばして、もう一粒口の中に放り込んだ。流石、36個入りマカダミアナッツチョコ一箱を一人で平らげただけはある。二粒やそこらで満足するわけもなく、トレーの中のチョコは瞬く間に消えて行った。
「うまいか?」
「おいひぃれす。」
 何とかその一言を、お下品な妄想で補おうとした政宗だったが、至極切実な、悲壮感すら感じさせる声で「大変です政宗さん!もうチョコがありません!!」とのセリフを吐き出した日には、政宗のよこしまな妄想もストップしてしまったのだった。











B伊達ってどんなんでしたっけ?
とりあえず、B伊達は幸村と名のつくもの全てに振り回されてればいいと思います。
ちなみにこの二人、付き合ってます。多分、おそらく。
09/06/14