「剣豪よ、その場を退け、去ね!」
「どかねぇし、去らねぇし、逃げねぇし、死なねぇ!出来るもんならやってみやがれ!踏み潰せるもんなら、やってみやがれってんだ!」
「命捨てるが、貴様の誇りか?己の命すら踏み台に、先へと進むを良しとしたは、前時代の遺物よ!貴様はその器ではない!退け!去れ!逃げぬのであれば、その命無駄にすることになるぞ!」
「幸村は、過去の人間じゃねぇ!この前までここで俺に嫌味を聞かせてた幸村は、そんな立派なもん引っさげて死んだんじゃねぇ!幸村は幸村の意思でそれを選んじまっただけだ!」
「醜い、醜いわ!貴様もわしも、真田幸村ですら醜い生き物であった!だが、貴様はそれを見ようとしたか?幸村がいかに醜きものか、己がいかに醜きものか、貴様は見ることができたか?知ることができたか?馬鹿め!出来ておらぬゆえ、貴様はこの地に立ち、その醜さをわしに晒しておるのよ!貴様もわしも、幸村とて欲の塊じゃ!貴様はそれを見ようとはせなんだ。じゃが、幸村は違うぞ、わしも違うわ!幸村は矛に、わしは盾に、その欲を利用したに過ぎん。去れ、剣豪。逃げ帰ってとくとく、己の醜さを思い知るが良いわ。貴様が美化した幸村の醜さを、とくとくその身に刻み込め!」
「幸村は、俺ン中でいつまでも、ずるくって優しくってけちで悲しい奴で、でもってわがままな奴だって刻み込まれてんだよ!今更変えられるわけねぇだろうが!醜くなんかねぇ!あいつは、最後までずるくってわがままで、でも、ああもう!とにかく俺ン中の幸村は、醜くなんかねぇ!」

 政宗はいっそう笑みを深くさせ、得物の感触を確かめるように、強く手を握り締めた。武蔵がその一瞬の間に距離を詰める。互いの武器が交わる甲高い音が辺りに響き渡った。



 勝負の行方は、皆様がご存知の通りで御座います。





 これにて終幕。