『あゝ成り難し恋』


 孫市は幸村の肩を貸してもらって、どうにか皆の輪から逃げ出すことが出来た。酒をしこたま飲まされた孫市は、自力では立てぬ程酔っ払っていたからだ。ちなみに、幸村は孫市が摂取した量の倍は飲んでいたが、けろりとしていた。流石に見兼ねた幸村が、孫市に休むよう呼び掛ければ、誰かに助けられるのを待っていたのか、すぐさま彼は頷いた。そうして、ほとんど幸村に担がれるようにして天幕に戻ってきたのだ。酒宴はまだまだ続いており、天幕内には二人以外はいなかった。

「一緒に寝るか?」
 先程まで会話がまるで繋がらなかったはずだ。それなのに、幸村が整えた敷き布の上に転がった孫市は、はっきりとした調子でそう訊ねた。幸村は顔色一つ変えず、
「酔っ払いの戯言には聞き耳を持ちません」
 と、彼の言葉を突っぱねた。
「酔っ払いの戯言なら、諦めもつくだろ?酔っ払いに理屈は通用しねぇぜ」
 ほら、と孫市が幸村に手を伸ばす。幸村は軽くその手をはたいた。そのやり取りが楽しかったのか、孫市はその動作を数度繰り返した。幸村はその度に、同じように孫市の手を払っている。
「孫市どの、本当は意識がはっきりしてらっしゃいますよね?」
「俺は酔っ払いだぞー」
「孫市どの」
「よぅく考えてもみろよ。酔った勢いでも借りなきゃあ、こんなこたぁ、言えないだろ?」
 だから俺は酔っ払いだ!
 そう叫んでわははと笑うものだから、幸村は困ったようにため息を吐くのだった。











12/01/14