一、ぶれる愛撫
「隊を三つに分ける。佐助、才蔵。お前たちは私と来てくれ。」
幸村の命に二人が頷いた。元より幸村の為に死ぬ覚悟は仕えた時からついていた。
「小助、伊佐どの、鎌之助。右側から迂回して敵をかき回してくれ。」
そろそろ伊達軍が再び攻め寄せてくるだろう。小助の役割は幸村の影となり、幸村として伊達軍をひきつけることだ。
「望月の六郎、清海どの、海野の六郎。左側で踏ん張ってくれ。」
本陣へと進軍する隊があれば、左翼に比べて分厚い、右翼を担っている隊が救援に駆けつけるだろう。望月六郎もまた幸村の影となり、まるで幸村がそこに居るように彼らの足を止めなければならない。
「甚八、十蔵は遊軍だ。撤退する隊の援護に回れ。」
崩れてしまった隊の退却には多大なる犠牲が伴う。二人の役目はその被害を出来る限り減らすことである。
幸村は皆を見回した。幸村が下した命は、幸村が家康を討ち取る為だけに導かれたものである。幸村が家康を討つその時間を稼ぐ為だけに機能していると言っても過言ではない。
しかし誰一人として死を悲観している者はない。むしろこの負け戦においてどの隊よりも生き生きとしていた。
幸村は悲観すらしない面々を一人一人を見つめていくと、くのいちの呆れた顔と目が合った。仕方ないな〜幸村さまはぁ。そう言って肩をすくめているような気がして、幸村も苦笑した。くのいちには持ち場を与えなかったが、くのいちならば幸村の心読んで、どこに居るべきなのかを分かっているだろう。
目を閉じ、ゆっくりとまぶたを開ける。絞りだすように、すがるように、どうかどうかと祈るように、幸村は短く、言葉を吐き出した。
「 ゆ く ぞ 。 」