既に乱戦の様相を呈している。敵味方入り乱れての槍合わせは膠着状態に陥っており、清正は舌打ちをした。どうも分が悪い。今はまだ勝敗ははっきりしていないが、時間が経つにつれて、戦力の劣る豊臣軍が押されるは確実だ。清正自身も襲い掛かる敵兵を薙ぎ払いながら、何かいい手はないだろうかと思案する。そこへ、乱戦の最中でも特に目の引く赤が駆け寄ってきた。幸村だ。
「清正どの、わたしは真田丸へ移ります」
 戦の最前線で戦っていた幸村だ、十文字槍だけでなく、鎧や頬にまで血や泥が飛び散っていたが、幸村の表情は明るい。まだまだ疲れるには早い、と鋭い槍さばきで、清正に話しかけながらも、敵兵を屠っている。おそろしい男だな、と冷静な部分が思う。平時との差がありすぎる男なのだ。
「確かに、この状態を打破するにはその手しかないが、……危険な賭けだな」
「無謀は承知です。ですが、ここで踏ん張らねば、ずるずると負けに引き摺られます」
「それはそうだが…」
 清正が結論に逡巡して、口ごもる。幸村は清正の承諾を待って、じっと彼の目を見つめていた。ぞっとする程底のない、やけに澄んだ目だった。血の滴る得物が不釣合いで、それなのに彼らしいと思ってしまった。清正の中の幸村は、どこかちぐはぐな男であったせいかもしれない。
「……いけるんだな?」
「無論です」
 幸村の目に根負けした清正が、ようやくその言葉を口にした。幸村は僅かに微笑んで、それでは、と踵を返す。待て、俺も援護する、と彼の腕を掴もうとしたその時だった。使い番が清正たちの元へ駆けてきた。旗印から見て、福島隊のもののようだった。
「福島隊、敵に囲まれて苦戦しております!」
 残された力でそう叫んだ使い番は、その場に崩れ落ちた。慌てて清正がその身体を支えて、近くの家臣にその身を預ける。
「あの馬鹿ッ、一人で突出しやがって!!」
 吐き捨てるように清正は毒づいたが、突然の報告にこの場を去るに去れなかった幸村は、苦笑とも言える表情で清正のその言葉を聞いていた。なんだ、俺もお前も、まだまだ余裕があるじゃないか。清正は今まで腹の中でうずくまっていた焦燥感が、途端みるみる消えて行った。こんな風に笑えるお前も、戦況の一々に腹を立てる俺も、まだまだ余裕があるじゃないか、と。
「清正どの、わたしは行きます。あなたは福島どのの援護へ」
「仕方ない。あの馬鹿、戦が終わった後、見てろよ。……あっちが片付いたら、すぐに向かう」
 ええ、と幸村が力強く頷く。清正はほとんど高さの変わらない彼の頭をぽんとはたいた。幸村は驚いたように目を見開いていたが、彼なりに納得する答えを見つけたのか一瞬笑みを浮かべただけで何も言わなかった。

「ご武運を」
「お前もな」











すらんぷー‥‥。日本語ってむずかしい。大坂のステージ、必ず正則が苦戦しますよね。

10/03/11