伊達政宗が真田幸村と初めて出会ったのは、真田の兵の徴集に加わった折のことだった。優に自軍の倍する兵力が城をぐるりと取り囲んでいるにも関わらず、真田幸村は涼しげな風貌のままで、焦りや死に対する恐怖などはその表情からはうかがい知ることは出来なかった。残念ながら政宗は、彼が生と死の葛藤の恐怖に嘆き悲しみ怒り狂う様を見たことがない。そういう感情がないのではないのではないか、とすら思っている。あの男は、激しやすい、激することを演じる政宗とは対極で、いつも至って物静かな男だった。ただ、やけに生きたにおいの薄い男ではあった。燃えかすすら残らぬよう高くのぼる炎のように鮮やかでありながらも、踊り狂う炎の輪郭がつかめぬように気配が薄ぼんやりとしていて淡かった。燃え盛った跡ばかりが苛烈なのだ。

『死地へようこそ』
 そう言って手をそろえて頭を垂れた、あの男の指先が未だに脳裏をちらつく。武芸の鍛錬のし過ぎで手にはマメの痕が痛々しい程であったが、政宗はあの指先のしなやかな線の美しさを思わずにはいられない。研いだばかりで刃こぼれ一つない刀の切っ先のような男だった。一々の仕草がやけに整っていて、隙がない。清廉されている、という言葉とは些か意味がずれているように思う。鉢巻をつける、長い裾を端折る、衣服についた塵を払う。たったそれだけの、彼以外の仕草であったのなら意識すら上らないような他愛ない動作が、一々眼を引いた。政宗は、彼以上にうつくしい存在を知らない。姿形ではない。魂の純度が高いのだ。研いだばかりの切っ先のように鋭く尖っていて、凛と張り詰めている。前を歩く幸村の名を呼べば、彼は立ち止まって、一瞬の空白の後に振り返る。そのたかが仕草一つにしても、つい眼で追わずにはいられない。政宗の様子に、幸村は僅かに首を傾けながら、政宗どの?と呼びかける。政宗はその声にようやく呪縛を解いて、何でもないわ、と彼の横をすり抜けていく。背筋がぴんと伸びている。型にはめられた、それなのに堅苦しくない彼自身が己の形に昇華した姿勢に、政宗は眼を細める。政宗は幸村以上にうつくしい生き物を知らない。











10/02/14