幸村の怪我もほぼ完治した。やっと槍を振り回せるのが嬉しいのか、表情も軽やかだ。だからだろう、余計な世話だとは思っていても、ついあそこまで関わった以上、彼らのその後が気になってはいたのだ。
「時に幸村、その後、清正とはどうだ?」
 槍を片手に、背筋を伸ばしたり、屈伸をしている幸村だったが、三成の声に振り返った。一瞬の沈黙があったものの、ああ!と表情を輝かせた。三成が期待する答えを発見したようで、自然三成も身を乗り出して待ち構えていたのだが、
「今日、村への視察ついでに、遠駆けに誘われました。楽しみです!」
 そう、告げられた。三成としては、結局二人は付き合うことになったのかどうかが知りたかったのだが。折角あそこまでお膳立てしたというのに、何なのだこの二人は!というのが本音だ。その三成の心を読んだのか、幸村はさっと三成との距離を詰めて、顔を覗き込んで来た。
「いいんです、現状で十分幸せですから」
 そう言う幸村の眸は澄んでいて、三成は咄嗟に反論する言葉を失ったのだった。



***



 数刻後。
「清正ぁああ!」
 と、迷惑な雄たけびと共にやってきた三成に、お引取り下さい、と思わず敬語を使ってしまった清正だが、門前払いを食らった程度で引っ込む三成ではない。片や襖を開けようと躍起になり、片や入らせまいと襖を必死になって支えている。しばしの攻防。結局決着はつかず、互いに息を切らす羽目になってしまった。
「…、で、何の用だ、」
 途切れ途切れの清正の言葉に、三成も同様、切れ切れに言葉を発する。体力では清正に勝てぬものの、腕力に意外に差はない。
「今日は幸村と遠駆けに行くそうだな」
「毎度耳ざといな、三成」
 言いながらも、幸村との遠駆けに浮かれているのか、思ったほどの反論はなかった。仲が良いのは結構だがな!
「で、まさかとは思うが、あれほどのお膳立てをさせておいて貴様、言っていないのか?」
「お膳立てはお前が勝手にやったことだろうが」
 うるさい馬鹿、馬鹿はお前だ、との言い合いに脱線をしたりもしたが、今日の目的はそれではないと、三成が無理矢理に軌道修正をした。清正も、それに倣う程度には付き合いが良い。
「それで、ちゃんと言ったのだろうな?」
「言ってない」
「はぁ?!」
「言う必要が、やはり見出せん。今のままで十分だろ」
 三成が、奇異なものでも眺めるかのような目で清正を見る。何だその目は、と負けじと清正も睨みつけるが、僅かに憐憫さをにじませたその視線には勝てなかった。
「お前、馬鹿だろう」
「馬鹿に馬鹿と言われたくはない」
「なら阿呆だ。それともへたれか?」
「それこそお前に言われたくはない」
「なんだと!」
「先に言い出したのはお前だろう!」
 こうなっては、話し合いにもなりはしない。つかみ合いの殴り合いになろうかと言うところで、通りかかった左近が仲裁に入り、何とか傷を負う前に終結したのだが。
「あいつらは何だ。俺の理解を超えているぞ!」
「まぁ、人の恋路に首を突っ込むなってことでしょう。あれはあれで幸せそうなんで、放っておいたらいかがです?知らないうちに、コロッとくっついてるかもしれませんよ」
 左近の癖に生意気な!ととりあえず手打ちにしつつ、もうこれ以上彼らの恋路に関わるのはやめようと決意する三成だった。


 ちなみに、遠駆けに行った二人に進展があったかどうかは、また別のお話。











お、おわったー!三成が出張りすぎて、あんまり清幸色出せませんでした。というか、くっ付いてないんだ…的脱力を少しでも感じて頂ければ、私の勝ちです。こういう悪ふざけが楽しくってねぇ(…)
新年一発目から、物凄く趣味に走ってしまった。反省。

10/01/04