先程からうるさい己を呼ぶ声に、清正も負けじと返事をした。返事といってもぞんざいなもので、「んなでかい声じゃなくても聞こえるぞ馬鹿!」と怒鳴り返しただけだ。それでも声の主は満足だったのか、「なら返事しろよなー」とのん気な声を(もちろん大声だ!)発している。
 遠い遠い距離を詰めて清正は正則に合流したのだが、正則の隣りには九州の美丈夫の姿があった。清正が思わず顔を顰めたのを目敏く発見して、女であれば見惚れるほどの鮮やかな笑みを浮かべた。残念ながら清正は女でもなければ、そちらの気もなかったので、更に顔を険しくさせることとなってしまった。彼の笑顔は、どうも胡散臭くて駄目だ。何を企んでいる?とつい問い詰めたくなる。これだから、腹に一物も二物もある奴は油断ならない。
 今も開口一番、
「幸村は強敵だな」
 と、例のあの笑顔と共に呟くものだから、清正は胡乱げな眼を向けた。互いのことで注意力散漫になっていたことは否定できないが、まさかあの場を目撃していたのだろうか。尋問するような凶悪面を浮かべた清正は、
「覗き見か?悪趣味だな」
 そう宗茂をなじったのだが、当の本人は何処吹く風。その胡散臭い爽やかさのまま、
「お前が幸村に殴りかかっては大事と思い、見張っていたのだ」
 そう開き直るものだから、清正も「そりゃあどうも」と素っ気無い相槌を打った。二人の陰険ないつものやり取りを眺めていた正則が、「え、清正そんなこと仕出かしたのか!清正でもそれは許しておけねー!」と宗茂の余計な一言に過剰反応したものだから、彼をなだめなければならなかった。下手な噂が城内に広がって、彼の狂信者たちに白い眼で見られるのは、流石の清正もつらい。きっと最上級にえげつない嫌がらせが待っていることだろう。
「馬鹿、んなわけあるか」
「そうだよなー、お前幸村のこと好きだもんなー」
 正則は馬鹿なのだが、馬鹿だからこそ単純に人を見ているせいで、意外かな物事の核心を突くことも決して珍しくはない。咄嗟に返す言葉が思いつかず、僅かに空いた間を埋めるように、横からひょいと顔を出した宗茂が、またもや余計な一言を発した。
「好きすぎて、幸村を押し倒したぐらいだからな」
「ええー、マジでか清正!」
「お前らもう喋るな!宗茂!この馬鹿に嘘を教えるな!お前もだこの大馬鹿!こいつの言うことを一々真に受けてんじゃねぇ!」
 正則にも負けぬ大音声である。あまりの剣幕に、「あ?嘘なのか?」と正則がきょとんとした顔で宗茂を振り返った。そこで宗茂に同意を求めてどうする!と清正が怒鳴りつける前に、宗茂の方が、そういうことにしておいてやれ、と物分りの良さそうな表情で正則の言に頷いている。清正の態度に、仕方がないやつめ、と薄く笑う宗茂の表情を、宗茂が期待した通りに勘違いした正則が珍しく(本当に奇跡のような確立で)気を利かせてくれたようで、「お、おう!これは他言無用ってやつだな!」と高らかに宣言した。馬鹿な癖に、妙なところで侮れないのが正則だ。いつもだったら、宗茂の表情の機微になど気付きもしないだろうに!宗茂が実に楽しそうに笑っている。清正の怒号はしばらくやみそうになかった。











このトリオ楽しいなー。清正さんは、そのうち血管が切れると思う(…)
正則と清正には、マジでかーって言ってほしい。

10/04/25