誰もきっとわたしよりは賢い女 BASARA政宗×無双幸村 ※女体化


 一人しかいない家に、携帯電話の着信音が鳴り響いた。藤次郎はそれに気付いていながら、机の上に置かれているそれを一瞥しただけで、手に取らなかった。着信の相手は、政宗だったからだ。時計をちらりと眺めて、ため息をつく。幸村をここから送り出して、移動分を差し引いたとしても、そう時間は経過していない。気の短い兄にしては、珍しく根気良く相手が出るのを待っていたが、十コールが限界だったようで、ぶつりと切れてしまった。藤次郎は、そこでようやく携帯電話を持ち上げて、ぱかりと画面を開いた。すぐにまた掛ってくるだろう、と思っていたら案の定、藤次郎が居留守を使っていること見抜いている政宗が、再度通話ボタンを押したようだった。藤次郎は仕方がないと言わんばかりにため息をついて、五コール目で素知らぬ振りを装って電話口に出た。
『おいお前、ホント何考えてんだよ』
 不機嫌そうな声だった。予想通りでつまらん、と藤次郎は思ったが、それをおくびにも出さずに、しれっとした声を出した。
「なんじゃ、もう幸村は帰ったのか。ヘタレ、ヘタレ兄貴」
 藤次郎が兄貴と呼ぶのは、大体がこういった場面だけだ。似た性格をしているせいか、あまり兄として敬ったことはなかった。ただ単に、藤次郎よりも早く生まれただけの存在だ。元々沸点の低い兄弟だ、幼い頃は掴み合いの喧嘩をすることもしばしばあったが、成長するにつれて、その方法は口喧嘩へと移行した。だからといってその頻度が減ったかと言えばそうでもなく、お互いに理論武装を身に付けた今となっては、更に過激になったと言っても過言ではない。
 政宗は、ヘタレと言われたことに自覚でもしているのか、いつもならばテンポよく返される反撃はなかった。いつからこの兄は、こんなにも恋愛下手になったのか。いや、元から恋愛は下手だったか。そうでなければ、あのように見境なく女に手が出せるものか。兄といえども他人であるから、藤次郎には関係のないことではあるものの、女を侍らせている兄の姿は、いささか滑稽に見えた。来るものを拒まぬから、そんなおかしなことになるのだ。何でもかんでも受け入れる姿は、藤次郎には、寛大というよりも物臭に見えて仕方がなかった。
「幸村がクッキーを置いていったじゃろう。どうであった?わしの好みに作らせたからな、うまかったろう」
『……』
 この兄は、都合が悪くなると黙ってしまうという、分かりやすい癖があった。藤次郎は笑い出したくてたまらなかったが、それをなんとか我慢した。本当にこの男は、藤次郎の為だけに幸村が菓子作りにまで精を出していると思っているのか。バレンタインの時期には、決して甘いものを受け取らぬ政宗だ。どうして、藤次郎に試食を頼んだ、とは考え付かないのだろうか。他の女であったなら、その女の意図も下心も余すことなく察する、妙な特技を心得ているくせに。間違いなく藤次郎に嫉妬しているだろう政宗を笑ってやりたかったが、そこは気付かぬ振りをして、政宗の次の言葉を待った。

『クソガキにはまだ分かんねぇと思うがな、女一人で、一人暮らしの男の家に寄越す馬鹿がどこにいんだよ』
「何も出来ぬくせに、偉そうな口を叩くでないわ」
『ガキのくせして、知ったような口をきくな。幸村に何かあったらどうすんだ』
「何もなかったのだから、問題なかろう。我が兄上は、まっこと紳士的じゃからのう」
 けらけらと笑ってみせれば、政宗の逆鱗を簡単に触れられることも知っている。自尊心が高い男だ。まさに、男の意地ばかりを気にするような男なのだ。
『うるせぇよ、このマセガキ!俺だってなぁ、出来るもんならとっくに、』
「ほぉ、出来るもんなら、なんじゃ?」
 挑発したところで、この恋愛に臆病な男が何かを仕出かすなど出来ないと分かっている。藤次郎にからかわれることが我慢が出来なくなった政宗は、
『…っ、とにかく!もう勝手な真似すんじゃねぇぞ!』
 と、怒鳴るように言って、乱暴に通話を切った。散々兄をおもちゃに出来た藤次郎は、一頻り笑みを作って、深々とため息をついた。

(やはり、この愚兄に幸村は勿体なかろうて)











ここでの伊達兄弟は、結構な似た者兄弟です。
12/08/16