ようやく、幸村指揮のもと建設されていた出丸が完成した。清正は幸村に案内されて、中身をぐるりと一回りして、余った時間を持て余している。想像していたよりも、あまりに小さかったのだ。更に言うなら、配置されている人間があまりに少ない。出丸が小さいとはいえ、これでは守りきれぬだろうに。
 一通りの案内を受けた清正は、出丸の中でも一番の高所に位置する物見やぐらの上で、腰を落ち着けた。幸村は手摺に背を預け、清正と向かい合っている。座っている清正と、立ったままの幸村とでは視線の高低差はあったが。
「なあ、ここにも少し人を回そうか。別に人手が余ってるわけじゃないが、五十人程度だったら出来なくもない」
 それは、清正の思いを直接言及することを避けた、遠まわしな言葉だった。だが、敏い幸村は、その物言いに清正が本当は言いたかったことに気付いてしまったようで、ふふ、といかにものんびりとした様子で笑ってみせた。甲斐辺りは、流石幸村様、泰然としてらっしゃるわ!と感心しているようだが、清正にしてみればただただ、のん気なだけだ。
「わたしの手の者の人数で守れるよう、出丸を小ぶりにしましたので、大丈夫ですよ。確かに、一国の主たる清正どのにとって、この出丸は小さくて頼りないものに見えてしまうかもしれませんが、わたしには丁度良いのです」
 それはまるで、己は小さな世界で満足しているのだとでも言っているようだった。
「別に、お前にはお前の考えあってのことだろうし、俺が一々文句を言うつもりはねぇよ。ただ、お前の隊に配属して欲しいって奴も結構いるからな、出来る限り、そういった奴らの希望を聞いてやりたいだけだ」
 幸村はぱちぱちと瞬きを繰り返して、ありがたいことです、と笑みを深くした。けれど、と。幸村は清正に背を向けて、もたれかかっていた手摺を愛おしそうにそっと撫でた。剥き出しの木目は、職人の腕がよかったようで、ささくれ一つない。
「けれど、これは真田の城です、わたしの、城、なのです。出来うることなら、真田の者たちだけで守りたいと思うのは、わたしの我儘でしょうか。ちっぽけな矜持でしょうか」
 そう呟いて、幸村はようやく振り返った。清正が、既に見慣れてしまった笑顔がそこにはあった。温かく穏やかで、虫一匹殺せなさそうな優男。そんな男が、戦場では誰よりも貪欲に敵を屠ることを、清正は知っている。
「あなたには、小さな頼りのない出丸に見えるかもしれません。でも、この出丸は、間違いなく、わたしの生涯で初めての、わたしだけの城なのです」
 初めて、と言われてしまえば、清正はそれ以上口出しは出来なかった。今でも、初めて領地を任せられた日のことを覚えている。初めて城を縄張りし、己の城をこの手で作り上げたあの喜びを誇らしさを。

「いい城だ、うだうだ文句を言って悪かったな」
「いえ。清正どのにそう言っていただけて、嬉しいです。ありがとうございます」
 幸村はそう言って、いかにものん気そうに笑ったのだった。







『のんきなしゅぼうしゃ』











真田丸が好きなのです。

12/06/10