朝から晩まで、大砲の音が響いている。決して命中率は高くはないが、休む間もなく上がる砲撃の音に城の人間は疲弊していた。慣れろというにはあまりにも大きな音であったし、女子が多いこの城では土台無理な話だろう。清正は幸村を伴って、城壁の被害状況を見て回っている。大砲が着弾している箇所は少ないが、それでも零ではない。命中率は低いといっても、威力は火縄銃とは比べ物にならぬ代物だ。見事な大穴が空いており、簡単に修復は出来そうにない。
「徳川の砲手は、あまり腕が良くないですね。あれだけの数を撃って、被弾しているのは極僅かです」
「助かったと思っておけばいい。それに、あっちの軍はどうも戦が下手だな。数で押せばどうにかなると思ってる」
「そんな相手に手足を封じられていると思うと、歯がゆい限りですね」
 徳川が大砲を撃ち始めてから、出撃命令はぱたりと止んでしまった。まるで貝の殻に閉じ籠るように、その身を縮めて大坂城内で大人しくしているよう厳命されている。
「これから、どうなると思う?」
 大穴が空いている城壁の周りは黒く焦げ付いており、未だに焼けたにおいが僅かに漂っていた。表面を撫でれば、漆喰がぱらぱらと崩れる。これは継ぎ接ぎするよりも、一旦壊して作り直した方が早い。幸村もその場に屈んで、城壁の残骸を摘み上げている。おそらく、考えていることは同じだろう。
「淀の方様の侍女が、徳川の陣営に向かったそうです。講和になるのも時間の問題でしょう。できれば、その前に大砲を破壊するなり、一泡吹かせるなり出来ればよかったのでしょうけど」
「自分たちの進退も侭ならんとは、悔しいな。これなら、戦が始まる前に治長をどうにかしておけばよかったか」
「誰が聞いているか分かりませんよ。冗談で済ませられぬ本音は、程々なさった方が良いですよ」
 丁度その時、放たれた砲弾が遠くの城壁にでも着弾したのか、ばりばりとつんざくような破壊音が響いた。耳の良い幸村が、間断なく放たれている大砲の音が飛び交う中、被弾した方へと顔を向けた。それが正確だった証拠に、城壁ではなく本丸から煙が上がっていた。思わず、清正から言葉が漏れる。
「嫌な予感しかしないな」
「ええ本当に」
 そう言って二人は顔を見合わせた。本丸内で上げられている悲鳴も怒号も、今のこの二人には全く届いてはいなかった。







『はくだくとしたほんね』











うちの清幸は結構ろくでなしなので、うん。

12/06/10