※あんまり気持ちの良い話ではないので、ちょっと色々注意です。
グロ描写はないけれど、タイトルっぽいことに触れてます。
清正は幸村と二人で、堀の埋立作業を、物見やぐらから見下ろしている。早朝から毎日開始される総堀の埋め立ては、驚くべき速さで進んでいる。とにかく物を空堀の中に放り込んでいるだけなのだが、土砂の運搬が間に合っていないようで、木材の不要な破片や遠目では判別つかない、ごみにしか見えない物体、なんでもかんでもが積み上がっていく。流石に残飯や肥溜め扱いされていないだけ、マシと思うべきなのかもしれない。
ちなみに、当初は暇を持て余していた他の面子も一緒だったのだが、どうやら講和の条件で豊臣方が始末をつける予定になっていた堀まで幕府軍が作業にかかっていることが発覚し、正則と甲斐が鼻息荒く抗議に出掛けて行った。珍しく宗茂もそれに付き合っている。確かに、二人の大音声は迷惑そのものでしかなく、作業に取り掛かっている人工も手を止めるだろうが、それも長くは持たないだろう。結局、講和を結んでからこちら、徳川のいい様に踊らされているのだ。次の戦の構想に忙しい二人は、取り立てて騒ぎ立てることもせず、成り行きを見守るだけだ。
「まるで、鬱憤を晴らしてでもいるようですね」
幸村の視線の先でも、ぽいぽいと堀の上に土砂やら木片やら色々なものが山となっている。確かに、あそこまで無心に物を捨てられたら、気持ちが良いかもしれない。清正はおざなりに、そうだな、と相槌を打って、それきり押し黙った。けれども幸村は更に言葉を続ける。自分たちの城を守っている堀が目の前で埋め立てられているというのに、幸村は極めて穏やかだった。
「先日、埋め立てる物はないかと訊ねられまして、真田丸の取り壊した残骸を譲りました。そろそろそういった応急処置でも追いつかなくなる頃でしょう。大野どのに今の内から検討して頂きましょうか」
清正は、思わず幸村を見た。幸村は、やはりいつもの調子で笑っている。清正もそれに倣って、努めて感情を押し殺した表情を作った。自ら築いた城を、自ら取り壊さねばならぬ気持ちはどういったものだろう。清正は想像してみたものの、そうなってしまったのならば、自ら城に火をかけて自害した方が何倍もマシだとしか思えなかった。己は、幸村のように潔くはなれないのだ。
「折角埋めてしまうのなら、お互い処理に困っていた死体を使えば良いとわたしは思うのですけれど。多分、そういうことではないのでしょうね」
罰当たりなことを言うな、と咄嗟に出なかったのは、清正の中でもそういった思いがあったからだろう。けれど清正の外の皮は、そういった類の言葉は、戯言であっても受け入れがたいものであることを重々承知していた。二人きりの空間でよかったとも思ったが、二人きりだからこそ、幸村もそれを言ったのだろう。幸村は、人の質を読むことに長けていた。思考の中身が似通っていることを、幸村は無意識に感じ取っているのだろう。倫理や良心さえも除いた、効率だけを重視した考え方だ。
「幸村」
と、名を呼んだ。だが、そこから先の言葉が続かなかった。それでも幸村は特に不思議がる様子もなく、呼ばれたことに対して微笑んで、また視線を戻した。その視線の先では、相変わらず作業が進められている。いっそのこと、あの屍たちを利用するよう進言してやろうか。そうすれば、この作業に対するやる気も激減するに違いない。そんなことをぼんやりと考えてはいるものの、決して言外できないことを自覚している清正は、自嘲気味に表情を作ったのだった。
『したいしょりのさんだん』
色々と無茶のある話だけれども、妄想ですので、妄想。
あと、あったかもしれない一コマ、なので、うん。
12/06/10