ちょっとした蛇足。

三成が幸村連れて清正宅にやってきた経緯とか。




 営業時間を終え、幸村が店の暖簾を下げている時だった。
「幸村」
 と、声がかかって、幸村は両手を挙げたままの状態で振り返った。そこには久しぶりに見る大学の先輩の姿があった。幸村は慌てて暖簾を店の中に押し込み、彼の許に駆け寄った。
「三成先輩!久しぶりです!」
「ああ。元気そうだな。仕事は順調か?」
「まだまだ未熟者ですが、楽しくやっています。先輩は、少し痩せられましたか?隈、できてますよ?」
「うん、まあ、癖のようなものだ。大事ない」
 他愛ない会話をしながら、幸村が家に上がるように促す。三成も慣れたもので、車は店の駐車場に置いて、幸村の家へと上がり込んだ。真田家は駅前に構えている和菓子屋の裏側にある、ちょっとした屋敷になっている。三成は真田家族全員と面識があり、大学時代は時間さえ合えば食卓を囲むことすらあった程だ。
 夕飯を終え、そろそろ帰ろうか、と三成が腰を上げた。見送る為に台所から幸村もやってきたが、その手には小ぶりな紙袋が握られていた。自然、三成の目がそちらに向かう。幸村はその紙袋を持ち上げながら、
「煮物を作りすぎてしまったんですが、先輩、いりませんか?」
 と、訊ねる。幸村の料理の腕を知っている三成としては喜んで受け取ってやりたいところだが、二十四時間いつでも開いている食堂が完備されている会社の寮で生活している三成には、自炊という考えがない。極度の下戸で晩酌をする習慣もない。部屋の冷蔵庫にはミネラルウォーターがぽつぽつと並んでいるだけの殺風景となっているから、煮物を貰っても処理に困るのだ。連日ニュースで、平年を上回る酷暑と取り上げられており、煮物といっても足が早いのだろう。
「幸村、悪いが、俺では消費しきれん」
「やっぱりそうですよね」
 一応包んではみたものの、三成の返答は予想済みだったようだ。どうしようか、と悩む可愛い後輩に、三成もまた悩む。数少ない知り合いで、自炊をしているやつはいただろうか。だがそれも、すぐに解決した。ぴったりの人間が、しかもこの近くに住んでいるではないか。
「俺は無理だが、丁度良いやつがいる。そいつに届けてやろう。なに、変なやつではないぞ。前に話したことがあるだろう、俺と兄弟のように育ったやつだ。そう言えば、おねね様の家にお前のところの菓子が置いてあったから、もしかしたらそいつが買ったのかもしれん。心当たりがないか?やたら目つきの悪い、お前と同じぐらいの背丈の男だ。年齢は、あーいくつだったか。お前と同じぐらいだったような気がする」
 幸村ほどの長身は珍しい部類に入る。しかも、客として訪れたことがある男、と言えば、幸村の記憶にあるのは一人だけだ。まさか、と思いながら、
「もしかして、清正さんのことですか?」
 そう名を告げる。三成は僅かに驚いた表情で、
「そうだ。なんだ面識があるなら話は早い。いくぞ」
 と、幸村の手を掴んだ。
「いえ、面識があると言う程ではありませんし、名前を知ったのもつい先日のことですので、」
 幸村はささやかな抵抗を試みてはみたものの、一度スイッチの入った三成を止めることは困難だ。
「顔を知っている、名前も知っている。ならば良いではないか。何の問題もない」
 そう言ってきかず、腕力だけは見かけによらず強い三成に引き摺られるようにして、幸村は三成の車に乗り込んだのだった。











蛇足だけど、書いちゃったからね(貧乏性)
11/09/25