……本編があまりにあんまりだったので(日本語難しいネ!)、ちょっとライトなその後の話です。
あ、幸村討死後です。(ラ、ライト…?)
そりゃあハッピーエンドがいいに決まってるんですけどね、幸村的ハッピーエンドは討死エンドだと思うので。
政宗以外ほぼ出せなかった腹いせに、兄上で遊んでます。
本編の雰囲気ぶち壊しです。





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 真田幸村が討死をした大坂の陣から早数年、幸村の兄である信之の気分はこれ以上ない程に沈んでいた。一時は戦後の忙しさにその嘆きも忘れていたが、治世も落ち着き日々の暮らしに余裕が生まれると、幸村のことばかり考えてしまうようだった。稲の励ましも功を奏さず、気鬱に苛まれていた。
 そんな信之の様子を見かねた稲が相談相手に選んだのは、伊達政宗だった。家康からの信頼も篤く、信之とも個人同士の文のやり取りもあった。どうか伊達様、知恵をお貸しください、と藁にも縋る想いで綴られた文に、政宗も思案した。哀しみを癒す方法をあれやこれやと考え込んでいる内に、元々の性質はどちらかと言えば根暗な政宗は、信之につられてずぶずぶと気分が落ち込んだ。数年が経っているというに、鮮明に残っている半ば美化された憧れが胸を焦がし胃もたれを起こした。これではいかぬ、と追い詰められた中で選び取った手法は、幸村を追悼するという名目で、ただひたすらに幸村のことを語るという、なんともおかしな集まりが出来上がったのだった。

 そ信之並とは言わずとも、多分に参ってしまった政宗によって集められた面々は、生前幸村と少なからず親交のあった者たちだ。信之・政宗を筆頭に、直江兼続や立花宗茂、そこには高虎の姿もあった。
 何故自分が、と高虎が思うのも無理はなかった。通称・幸村会と略されたこの集まりは、高虎とその他大勢の温度があまりにも違い過ぎた。今回で既に三回を迎えようとしているにも関わらず、幸村の話題は尽きることを知らない。最初は一人一人順番に幸村との思い出を語っていたが、高虎は早々にネタ切れした。そう言えばあんなこともあったなあ程度の記憶しか留まっていない高虎にとって、他人様の前で熱く語れる程の話題はなかったのだ。そもそも、彼らのように、ああなんて死んでしまったんだ幸村、と嘆いたことは残念ながら一度とてない。どのような選考基準があったかは分からないが、もしもこれが公開面接を経ての集まりであったなら、高虎は一次審査どころか、書類選考で落選していることだろう。まったく、そうであったらよかったものを。

 幸村との思い出話となると、そこは兄の独壇場である。兼続や政宗も中々に粘っていたが、あまりに年季が違い過ぎた。元々が信之の為に設えられた会でもあるので、それは全く問題はない。ただ三回目にして高虎は、既にこの会に同席することが辛かった。いや、辛さで言えば、一回目からそれは変わらず抱え続けているものだ。とにかく、信之の熱量はすごかった。過保護な兄などという表現では表しきれない。溺愛という言葉ですら足りない程だ。よくこの兄が、幸村が人質となることを許し、手元からいなくなることを受け入れ、そしてそして、あの日ちゃんと死なせてやったものだ、と思わずにはいられなかった。話題の軸が妻の話であれば、呆れはあるものの納得できなくはなかったが、この兄が毎度一刻二刻と構わず喋り倒すのは、弟の話なのだ。血の繋がった、いい年した男兄弟の話なのだ。高虎がうんざりするのも仕方がないはずなのだが、この場では高虎の方が異常であるらしく、高虎以外の人間は、信之に対して苦情のくの字もないようだった。政宗や兼続などは、長時間の信之の語りにも、さも興味深そうにうんうんと頷いているし(この二人は仲の悪いふりをしているが、大層仲が良いと高虎は思う)、宗茂は聞いているのか分からぬ様子ながらも、時折的確な合いの手が入る。なんだこの幸村大好き人間の集まりは、と高虎がげんなりしていることなど、ちっとも見えていないだろう。

 このような席で、酒の力は偉大だ。最初はじめじめと語っていた信之が、酒が進むにつれて、いかにも楽し気に喋っている。会結成の目論見は成功していると言えるだろう。だが、何故だかこの場に同席し、何故だか一度として誰一人欠席をしたことがない会で、高虎は初日からこちら、聞き役に徹しており、ただひたすら酒を口に運ぶしか、この場でやることがない。口を挟もうにも、場を壊すような愚痴しか飛び出しそうにない為、酒を消費するのを己が使命と定めて淡々と呑み続けているのだ。そんな、高虎にとっては拷問のような時間の中、酔っ払い特有の話題があっちこっちへ飛んだ状態の信之が、酒を一口含み、ふと一言を漏らした。
「ああ、これは焼酎か。そう言えば、幸村は焼酎が一番好きだったんだ」
 へぇ、と声を漏らすのは、政宗と兼続だ。高虎は、既に興味を失っている。この苦行が早く終わらぬものかと、面々が早く解散の合図を出さぬものかと、様子を注意深く窺っているだけだ。
「だが、私はあの子が呑んでいるところを見たことがないが」
 兼続の言である。上杉へ人質として送られてから豊臣へと渡るまで、兼続は幸村を弟のように可愛がっていたと聞く。その後も三成と三人で、理由を付けては集まっていたらしい。この場の誰よりも幸村と酒を呑む機会が多かっただろうに、幸村の酒の好みを初めて聞いたような口振りだった。
「あの子は他の酒ならば大概強いが、どうも焼酎にだけは笑ってしまう程弱くて」
「確かに、一口でふにゃふにゃになっていたな」
 やけになって自分の許容量を考えずに呑んでいた高虎の口が、つるりと言葉を滑らせた。滑らせてしまった、と言うべきか。一斉に向けられた視線に、高虎は酔いも冷める勢いでたじろいだ。宗茂の興味深そうな眼に、政宗と兼続の羨望の眼差し、そしてそして、信之の刺すような絶対零度の視線は、高虎の体温を一気に下げた。
「見たのか。お前は、ふにゃふにゃになった幸村を!」
 なにこの男、超こわい。
 言っておくが、こんなことを前提にするのは不謹慎極まりないことは分かってはいるが、死んだ男のことだ。俺が幸村のどんな痴態を知っていようが、いくら兄とて関係ないだろう。死んだ男に向かって土下座して謝れとでも言うのだろうか。そりゃあ、多少強引に呑ませた非が、ないとは言わない。ただ、あれは自己管理の問題だろう。自覚していたのならば、そう言って断れば良かったのだ。そうだ、そうだ。俺ばかりが非難されるのは如何なものか。思えば、俺はあの男を情愛をもって抱いてやったというのに、あまりにも素っ気ない態度ではなかったか。失礼ない奴だ、失礼極まりない奴だ。抵抗する隙だってちゃんと与えていた、厭なら厭だと言えば、俺も無理強いはしなかった。あんなもの、同意だ同意!
 高虎も大概酔っ払っている。心の声が漏れていれば、信之を頭に、場の全員からぼこぼこにされているに決まっている。無関係の他人が聞いたとしても、顰蹙を買うのは間違いがない。それでも高虎の脳内では、あの時の行為は半ば正当化されていた。確かに俺たちは愛し合っていたわけではないが、それなりに好意を持って行為を行ったのだ。
 正直言って、当時の高虎にそのような想いはなかったが、人の記憶とは恐ろしいもので、高虎の脳内ですら幸村という存在が美化されていた。得体の知れぬ男だったが、いつも変わらず澄んでいる眸は、確かに美しかったかもしれない、と、思えるようにはなっていた。

 今にも掴みかからんばかりの殺気を放つ信之に、今までの鬱憤が爆発した。ぎゃふんと言わせたかったのだ、と、後に高虎は己をそう分析するが、方法は他にもあっただろうに、と思わざるを得なかった。俺は、死んでも奴に振り回されっぱなしだ、と自分だけが貧乏くじを引いたような気分になったからかもしれない。
「ああ見たぞ。確かに、お前が禁止したくなるのも分かる」
「ふにゃふにゃになるとは、具体的には?」
 これ以上突かずともよいものを、分かっていながら火に油を注ぐことが大好きな宗茂が、余計な手を入れる。一人一人に見せびらかすように、にやりといかにも性格悪く笑った高虎は、場の面々にとどめを刺した。


「一言で言えば、とてつもなく色っぽかった」


 とてつもなくは言い過ぎだ。ちょっとぐらっとくるぐらいには、が妥当だろうが、高虎はついつい話を盛ってしまった。酔っていたのだ、不毛な集まりに嫌気が差していたのだ、ちょっとどころではなく疲れていたのだ。高虎は勝ち誇ったかのように強めの焼酎を一気に飲み干し、寝落ちした。

 その後、幸村会なるものが続いたかは、脱会を食らった高虎には知り得ぬことである。











お馬鹿な最後ですいません。反動でこういう話書きたくなっちゃって。幸村が死んだ後も、みんな頑張って生きてるよっていうのが言いたくて(…)
これで、本当の本当におしまいです。お付き合いくださり、ありがとうございました。
15/01/19