政宗は二の腕の、殊の外、日に焼けにくい裏側に口付けを落とすことが多くなった。幸村は押し倒された体勢のまま、政宗の儀式めいた接吻を無関心に眺めている。彼は、たとえその相手が幸村だったとしても、己の集中している最中に邪魔されることを嫌う。彼の儀式に介入してしまえば、彼の上機嫌は一気に最低値に急落下して、常の状態に引き上げることすら一苦労なのだ。幸村はただじっと、彼の祈りにも似た愛撫を享受し、彼が満足がいくまで待つしかない。

「幸村、」
 幸村の名を呼んだということは、彼の面倒な儀式が終わった合図だ。政宗は幸村の腕を掴み、己の背に導く。濃密な時を望む政宗の相手に、幸村は些か物足りないだろう。情事の経験もさることながら、幸村の"そういった行為"は、常以上にいっそう淡白になるらしい。こうして政宗が誘導せねば、ただ黙って寝転がっている、という事態になりかねない。何度か身体を繋げるにつれて、幸村も、政宗が望んでいるらしい熱い行為を知ることになったが、どうも自主性が欠けているのか、反応は今ひとつだ。それでも背をきつく抱き締めることを覚えたし、彼の首筋に顔を埋めて良いのだということも覚った。幸村などは、首や鎖骨辺りを舐められると、どうも性的興奮を覚える前に、生き物として当然の悪寒を感じてしまうのだが、政宗や、おそらく世間一般の人はそうではないらしい。

 と、つらつらとそんなことを考えている間にも、政宗の手は器用に幸村の着物を剥がしている。こんな行為にふけるよりも、政宗の爛々と輝く狡猾な眸に見つめられている方が、余程幸村の中に快感が走るものなのだが、残念ながら政宗はその事実を知らないようだ。残念だ、非常に、残念だ。何度か心の中で繰り返せば、何かを感じ取ったのだろうか、政宗は手を止めた。がばり、と幸村を引き剥がした政宗は苦笑しながら、先程まで幸村が埋めていた首筋を押さえている。
「馬鹿め!舐めるならまだしも、噛むではないわ!そなたの犬歯は鋭いのじゃぞ!」
 え?と幸村が首を傾げれば、無意識か馬鹿め!性質の悪い!と一見不機嫌そうに、(だが幸村はこの顔が実は嬉しい時のそれだと知っている)叫ぶ。
 あぐらをかいた政宗に覆い被さるように、幸村は慌てて傷口を隠している政宗の手を剥ぎ取った。傷口は小さいが、急所であるせいか、出血は冗談で済むような量ではない。す、すいません!と大声で謝る幸村は、どうしようと逡巡していたが、己が指先を傷付けた時のことを思い出し、再び政宗の首筋に顔を埋めた。傷口を舐める、というよりは、血を吸われているような錯覚を味わいながら、政宗もまた、不埒な手の動きを再開させるのだった。










腕と首なら欲望