君に贈る7つの動揺 三幸 TV様
1 報われずとも幸せですか
2 知らないふりを続けられますか
3 すべてをさらけ出せますか
4 甘い憧憬を棄てられますか
5 どうして断定を避けるのですか
6 抑制されたそれは 果たして感情と呼べるものですか
7 本当に答えはひとつですか
1 報われずとも幸せですか
三成は、"幸せ"という言葉が嫌いだった。正確に言うなれば、その言葉に含まれている、どうしようもない適当さと、言葉だけが一人歩きをして、結局どういう意味なのか成していないところが、ひどく嫌いだった。
三成は大袈裟にため息をついて、開け放たれた障子にもたれかかった。視線の先には、この春の温かな日差しの中、正座をしたままこくりこくりと幸村が眠っている。起こしてしまうにはあまりにも気持ちよさそうな寝顔だったものだから、三成は声をかけることすら出来ず、けれども彼から離れていくことなどもっと出来ず、三成は何を思うでもなく、幸村に一歩近付いた。すると、困ったことに床板が小さく軋んで、三成は別に疚しいことをしているわけでもないのに、冗談みたいに肩がはねた。おそるおそる幸村を見ると、どうやら気付いた様子はないようだ。三成は胸をなでおろし、また一歩一歩幸村に近付く。しばらく幸村の、少し痛んでしまっている髪や、目を瞑ると案外に幼い顔を眺めていたのだけれど、穴があく程見つめていても、幸村に起きる兆しは見えない。三成は物音を立てないようにそっと幸村の隣に腰掛けた。春の温かな空気がなんとも心地よかった。
三成は"幸せ"という言葉が嫌いだ。その言葉で、この想い全てが表現されてしまうような気がして、ひどくひどく悔しく思うのだ。
(それでも、これを幸せと呼ぶのだろうな。)
中々目を覚まそうとしない幸村の名を小さく呼んだら、まるで返事をするように息を漏らしたものだから、三成は彼が起きるまでここから動けそうになかった。
***
自己満足な話ですが。色々盛り込もうとしたのに、最終的にははしょっちゃった。
06/05/15
2 知らないふりを続けられますか
幸村の睫毛が揺れた。三成は(あ。)と声を発してしまった。その横顔を見つめていた三成に幸村は向き直って、(どうかしましたか?)と幸村は少しだけ首をかしげた。三成は無意識のうちに伸ばされた手の行き場に困って、幸村の髪を無愛想な手つきで撫でた。(…?)(花びらが付いていた。)三成は手の平にあるはずのない花びらをぎゅっと握り締める。幸村は微笑んで言うのだ、(ありがとうございます。)と。また、睫毛が揺れた。三成は思わず口を飛び出しそうになった言葉を飲み込んで、またしてもふらふらと勝手気ままに振舞う手を、今度は幸村の鉢巻に持っていった。三成が少しだけ引っ張ったものだから、幸村の頭が少しだけカクンと後ろに倒れた。(…緩んでいる。直すからじっとしていろ。)(あ、はい。すいません。)また、睫毛が揺れた、気がした。三成は、自分の中を通り過ぎていった衝動のままに幸村の髪に顔を埋めた。
三成は当惑する幸村をそのままに、じっとじっと、春の風を感じていた。ふと、兼続に言われた言葉を思い出した。気付いていないのは幸村ばかりで、困ったことに恥ずかしいことに、三成はもしかしたら…?とは思っているのだ。けれど、今はまだ、この感情を曖昧なままにしておきたかった。
***
三成が女々しいネ!
06/05/15
3 すべてをさらけ出せますか
幸村は左近相手であっても、あまり武田の話をしたがらない。酒が入って何かのたがが外れてしまった時に、ぽつりぽつりと、左近ぐらいにしか通じない話をこぼすばかりだ。三成は他人の過去など知ったところでどうにもならないだろう、と思ってはいる。けれど、酒の席で幸村が実に嬉しそうに、"お館様"こと武田信玄の話を顔全てを使って喜んでしている幸村を見るたびに思う。
(あの時お前は何を感じ何を思い、今まで生きてきたのだろう。)
結局自分は、幸村の過去ではなく、その過去をどう感じながら生きてきたのか、幸村の心が知りたいのだと思った。
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三成には武田の話はしなさそう。
06/05/15
4 甘い憧憬を棄てられますか
時々、誰も見ていないと思わせるような静かな空気に一人佇んでいる時、幸村はどこか遠く遠くを見つめている。兼続や慶次であったのならば、懐かしむような悲しむようなその眼を励ます言葉を持っているだろうし、左近であったのならば、幸村のことを考えて見なかったふりをすることもできるだろう。けれど三成は彼らのような真似が出来ない。声をかけることも出来ず、何もなかったように振舞うことも出来ず、じっとその後ろ姿を見つめてしまう。そうしてしばらくすると、幸村のため息と共に彼が背負っていた重く沈んだ空気も少しずつ四散を始めて、三成はそこでようやく彼の名を呼ぶことが出来る。
「三成殿。いつからそこに?」
「たった今だが。それがどうした?」
「いえ、何でもありません。」
幸村は見られていなかったことに安堵して、いつもより緩んだ笑顔を見せてくれる。三成は少しだけ胸が痛んだが、彼にその事実を告げる勇気などどこにもなく、三成は幸村の隣に立って、幸村が先ほどまで眺めていた庭を見つめた。
「何をしていた?」
「…考え事ですよ。」
幸村は、そして、眉尻を少しだけ下げた笑みを浮かべた。三成はどうしていいのか分からず咄嗟に幸村の腕を掴んだ。幸村も同じように三成の腕を掴む。幸村は微かに笑って顔を伏せた。
「三成殿がここに居てくださって、よかった。」
三成にしか聞こえないような小さな声で幸村は呟いた。三成は彼を抱き締めたいと強く強く感じたが、自分達が纏っている空気を壊したくはなくて、少しだけ掴んでいる手の力を強めたのだった。
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06/05/15
5 どうして断定を避けるのですか
「で、殿は幸村とどういった関係になりたいんですか?」
左近は三成の、それはそれは情けない片思いの日々を知っている数少ない人間であるから、その問いは三成にしてみれば不本意であっても、問い自体は不自然ではない。むしろ、情けない姿を散々に見せてきたものだから、いつか三成に愛想を尽かすのではないか、とは兼続の談だ。誰だって自分の主には夢を持っていたいものなのだ。
「そ、それはだな、左近。…今出さねばならぬ答えか、?」
「早々に結論を出すべきだと、俺は思いますけどね。」
その時、夜とは思えない大きな足音が聞こえてきた。あああの足音は、と考えるよりも先にその足音は三成の部屋の前で止まった。やはり時間帯を考えていない大きな声が響く。
「三成!左近!いい酒が手に入ったのだが、一緒にどうだ!ちなみに幸村はもうここに居るぞ!」
そして、入るぞ!の声と共に障子が小気味良い音を立てて開いた。兼続は遠慮なく部屋に上がりこみ、二人の間にどかりと座った。その後に恐縮した幸村が、静かに障子を閉めて兼続と向き合う形で腰掛けた。
「すいません、お話の途中でしたのに…」
幸村は本当に申し訳なさそうに、身を小さくさせていた。
「別にいいですよね、殿。どうせどうでもいい話しかしてませんし。」
何?!俺の悩みはどうでもいいと言うのか?!三成はそう怒鳴ってやりたかったが、左近の言葉に助けられた幸村は、そうですか、と表情を和らげていた。横から突っつかれるのを感じてそちらを見ると、兼続が、お膳立てはしてやったぞ、後はお前次第だ、と親指を立てていたものだから、三成はほっといてくれ、と言う代わりに彼の親指をぐい、と反らせておいた。
「幸村。」
「はい。」
三成の呼び掛けに幸村は顔を向けた。三成がその先を切り出そうとしないものだから、しばし見詰め合いが続いた。が、三成が耐えられない!と顔をそらし、なんでもない、とぼやいた後、左近!何か芸をしろ!!と誤魔化し始めた。ああ今日も進展なしか、と思わずため息の漏れる兼続だった。(左近は三成を楽しませるための芸を考えるために必死だった。)
***
慶次登場させたくないわけじゃなくって、何かタイミング的なものが悪いんだと思いました。
これ、直江さんのキャラ激しく間違えてないですか?
06/05/15
6 抑制されたそれは 果たして感情と呼べるものですか
「幸村。」
「はい。」
「…なんでもない。」
「、ゆきむら 」
「はい?」
「…なんでもない。」
何度繰り返しただろうか。普通ならば苛々するこのやり取りも、幸村は嫌な顔一つせず、むしろ、「おかしな三成殿ですね。」と笑って三成に付き合っている。抱き締めたいと思った。この想いを告げてしまいたいと思った。けれど三成をあと一押しする何かが欠けていて、こうして無駄に時を消費してしまう。
三成は幸村の笑顔が好きだ。戦場では鋭いものに変わるその眼が、今は穏やかに柔らかく笑っている。三成は幸村のその、温かな笑みがとてもとても好きだ。戦など起きなければいい。戦は幸村から笑顔を奪い取ってしまう。
「幸村。」
「はい、」
三成が真っ直ぐに見つめると、幸村は三成の言葉を待って穏やかな表情で見つめ返してくる。ああ。三成の中の何かが今だ!と叫んでいる。それなのに、自分の中にしつこくも長年居座ってきた理性が、やめろやめておけ、と喚いている。
「お前の、
笑った顔が好きだ。」
幸村はその言葉に少しだけ困ったように首を傾けた。けれど三成のあまりの必死な顔に幸村はふわりと表情をほどいて、「ありがとうございます。」と、三成の好きで好きでたまらない顔で笑った。
***
こ、これが俗に言うヘタレってやつなんでしょうか?
06/05/16
7 本当に答えはひとつですか
三成は思う。左近を好ましく思うように、幸村のこともさっぱりとした好感で想えないことか、と。
三成は思う。兼続に惹かれるように、幸村のことも仕方がないヤツだと想えないことか、と。
認めてしまえば、それはとても単純なことで、それでいて複雑な心中だ。
(俺は、きっとどうしようもなく、幸村が好きなのだ。)
この想いはどうして最初から、彼らに向けるような"好き"になれなかったのだろうか。
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わ。色々考えてたはずなのに、要約しちゃうとこんな短くなっちゃうのか。
06/05/16