猫が視力をなくす場所  あおいろスイム様  左近と幸村


時期は梅雨に入ったはずだが、今日という日はとても暑かった。連日の雨が、まるで降ることを忘れてしまったようにぱたりとやんで、太陽が今の内に!と輝いているようだった。降っては止んでの繰り返しをしている。今年はどうやら照り梅雨の傾向があるようだ。
左近は三成から幸村を呼んでくるように言われ、さぼりも兼ねて屋敷の中を歩いていた。戸はどこもかしこも開け放たれていたが、風が入ってくる気配はなかった。風のない日なのだ、今日は。
まだ日の高い時間帯だ。普通だったならば幸村は庭かどこかで鍛錬をしているはずだ。しかし左近が覗く場所に幸村の姿はなかった。珍しいこともあるものだ、と左近は幸村の部屋へと足を向けた。
幸村の部屋の障子は、隙間なくぴたりと閉められていた。暑くないのだろうか、左近は無防備な結界の強さに、無遠慮に開けることを躊躇って、廊下から幸村の名を呼んだ。二回、三回と呼んで、左近が諦めかけたその時、ようやく幸村は声を返した。気のない、呆けた声だった。左近はその声を了承だと判断し、すぱん!と小気味良い音を立てて障子を開いた。むっとした熱気が左近を襲って、思わず幸村を凝視してしまった。幸村は汗一つかいていない。いや、暑さに気付いていない、と言った感じだろうか。左近は障子を全開にして空気を入れ替える。こちらの頭までぼんやりしてきそうな暑さだったからだ。
「殿が呼んでましたよ。ま、急ぎじゃないらしいんで、俺もここらで休ませてもらうとするか。」
幸村は立ち上がろうとしたが、左近がどかりとあぐらをかいて、幸村の正面に座ったものだから、席を外せなくなってしまった。
「今日は蒸すな。」
「そうですね。」
「で、そんな暑い部屋にこもって、あんたは何してたんだ?」
幸村は困ったように笑って、書物を読もうと思いまして、と机の上に置かれた数冊の本を目で示した。
「障子全部閉めて?」
「静かになりますから。」
じっと幸村が左近を見つめる。まるで、この言葉に嘘偽りはない、と言っているようだった。左近はこの部屋に入ってからの彼の違和感に、心の中で首をかしげる。幸村の顔色が悪い。無理に笑っている、とは言わないが、どこか影のある笑みだ。
「あんた今疲れてるだろ。」
「……。」
幸村は自覚があるのか、視線をさ迷わせ、目のやり場に困って、最後には顔を伏せた。そうすると顔の翳りが濃くなり、顔色を更に悪く見せる。
「…空梅雨が、苦手なもので。」


「何故雨が降らないのだろうと、思うのです。」
あの日も今日のような晴れでした。干からびてしまうような、暑い日でした。何故、あの日あの瞬間、雨が降ってはくれなかったのだろうと。
幸村はぼんやりとした眼で言い、力なく笑った。乾いた声がやむと、小さく哀願するように、すいません…、と項垂れた。
左近は共有できる思い出の中にぽつんと浮いている、共有できない記憶の苦々しさにゆっくりと目を閉じたのだった。ああ本当に、今日という日は蒸すな。





***
左近、口調とかわかんねー。
ぐちゃぐちゃした雰囲気出そうとしたら、私の頭ん中がぐちゃぐちゃしちゃって、よく分からなくなったっていう。中途半端だけど終わるよ。
06/05/17