後ろを振り向く10のお題 Air.様
01.さよならは嫌い 義トリオ
02.あの日はもう過ぎた 武蔵と幸村
03.いなくならないで 三成と幸村
04.手を伸ばせば届く距離 三成と幸村
05.わかれみち 慶幸
06.風とすれ違う 義トリオ
07.ぬくもりが、まだ 左近と幸村
08.大切な人 兼幸
09.逃げちゃダメなのに おねね様と三幸
10.「待ってて」って、 武蔵と三幸
ちなみに書いた順番は01.03.08.06.04.02.07.05.10.09
01.さよならは嫌い
幸村は一人、関ヶ原に立っていた。戦が終わってしまえば、戦場となった場所にすら、何も残らない。この土は確かに人の汗と涙と血と、たくさんの想いと願望と欲望と、そこに渦巻く人の命すら吸い取ったはずなのに、何も言わず何も変わらずここに存在し続けている。
(あなたは別れの言葉などいらないとおっしゃった。自分は生きているから、必要ない、と。)
「さようなら。」
散っていった、たいせつな人たちよ。
「さようなら。」
(私はまた生き残ってしまったから、生きなければならないけれど。)
「さようなら。」
『さようなら』という言葉よ、さようなら。
***
勢いだけで書いてるんで、後から荒ばっかり見つかります。
06/05/21
02.あの日はもう過ぎた
「昔、人に言われたことがある。人を憎むことを覚えろ、と。そうすればそれだけで生きていけるから、と。」
幸村はそう言うと目を細めて遠くを見やり、そっと眼を伏せたのだった。武蔵は、この戦が終わった時にはきっと彼は生きていないのだと根拠もなく信じ、握られたこぶしをじっと見つめた。
(この男は、武田を滅ぼした織田の人間も、三成を討った家康も、理想を捨ててしまった兼続も、誰一人として憎みも恨みもしていないのだ。きっとそんな清らか過ぎる生き方では長生きできないだろう。なんて、不器用な男なのだろう。)
***
大阪夏の陣が好きすぎる。
06/05/27
03.いなくならないで
「あっ」
三成の声に重なるように、幸村も同じ音を発した。
手を伸ばしたけれど、下降を始めた彼には届かなくて、指先すら掠めることなく、彼は落ちていった。目の前には自分が立っているような地面はなく、崖になっていた。下を覗けば木々が生い茂っているばかりで、三成の姿はない。幸村は一瞬すら迷うことなく、三成が落ちていった崖下へと飛び込んだ。冷静そうな表情をしていたが、内心ひどく混乱していたのだ。たとえば、どれだけ深い崖なのか、だとか、落ちた自分が怪我をする危険性だとか、そういうものを考慮する冷静さを全くといっていいほど欠いていたのだ。幸運にも木の葉がクッションとなりほとんど怪我を負わなかったが。更に更に幸運なことに、幸村が落ちた近くに三成も、実に不機嫌そうに元気そうに立っていたのだ。
「何を考えているお前は!怪我をしたらどうする!」
三成が怒るのも当然だ。幸村は彼の顔を見るなり、頭の混乱が収まっていったようで、そうですね、私もそう思います、と返した。その返事に流石の三成もあきれてしまって、お前は馬鹿だ。と言った。はい、私もそう思います。幸村はさらに、
「私はあのように鮮やかに、突然、消えるようにいなくなってしまった人を知らなかったもので、ひどく混乱してしまったようです。」
と、笑った。
***
この二人はどこに居るんだろ。
幸村はああこの人は死んでしまうんだ、っていう整理がないと、なんか駄目な気がする。
今日本屋で、本のタイトル流し読みしてたら、『幸福村』を幸村と読み間違えた。
06/05/21
04.手を伸ばせば届く距離
血や泥で汚れたまま、幸村は足を引きずって本陣へと帰還した。戦は勝ったが、最前線で戦っている幸村が無傷というわけにはいかない。本陣へ足を踏み入れると、幸村の姿に先に戻っていた兼続や左近などが一斉に幸村を見、空気が一瞬だけ固まった。槍を杖代わりに立っているのがやっとのように見える彼は、誰がどう考えても報告に来れるような状態ではなかったからだ。幸村は、自分がもたらしてしまった空気の沈黙に、少しでも和やかにするために微笑んだ。
「お前は馬鹿だ!」
三成は幸村が微笑んだ途端にそう叫んで、幸村の身体を抱き締めた。幸村は身体を弛緩させて三成にもたれ掛かる。正直、身体を支えきれないのだ。
「無茶をするなと、いつも言っているだろう。」
不機嫌そうに三成は言い捨て、頬についている汚れをぬぐった。が、その血はすでに乾いていて、取れそうになかった。
すいません。幸村は消え入りそうな声で言った。三成はそうしてまた同じ事を繰り返すことを知っているから、今度こそはきつく言いつけてやろうと、幸村の眸を覗いた。
「けれど、」
幸村の眸が穏やかに力を放つ。
「私から、存在意義を奪わないで下さい。」
私は戦でしか、私の信念を貫けないのです。そこで力尽きたのか足元から崩れていった幸村を三成は慌てて支えて、大きくため息をついたのだった。
***
三成は、左近に殿(しんがり)任せられても、幸村には頑固反対しそう。信頼してないとかじゃなくって、ね。
06/05/26
05.わかれみち
あの日あの時あの瞬間、世界は赤と紅の気高さと醜さと、それ以上の鮮やさをもった、橙色に染まっていた。地平の彼方へと夕日が沈む、まさにその瞬間だったのだ。
「いつかの時が来た時は、どうかその旅路のお供をさせてください。」
幸村は笑って、それから顔を伏せた。慶次はたった一言の了承の重さに口をつぐみ、無言で幸村の肩に手を置いたのだった。
***
慶次はホントカッコ良すぎるから、どうしていいのか分からなくなります。
06/05/28
06.風とすれ違う
あたたかな、春の香りがした。
幸村は、風が運んできた、懐かしい香りを思い出すかのように目を細めた。
あれは数年前の春のことだった。
皆で花見をした。けれど、結局は皆酒を呑んで騒ぎたかっただけのようで、最後は誰も桜を見てはいなかった。
とても懐かしい香りがした。
幸村はあの日を思い出し、思わず口許に小さな笑みが浮かんだが、振り返った記憶が、すでに思い出となっている切なさに、見えない桜の花びらへと手を伸ばしたのだった。
***
大阪城のステージプレイする度に、無性に何か書きたくなります。
06/05/23
07.ぬくもりが、まだ
「久しぶりだな幸村。」
「はい、本当に。左近殿はお変わりないようで。」
「あんたもな、と言いたいが。変わったな幸村は。」
「色々なことがございましたから。」
「…変なことを訊くが、あんたの戦う理由はそれでいいのか?」
「いけませんか?」
「いや。だが、家臣の俺が言うのも妙な話だが、あのお人は周りに敵を作りすぎる。自覚はあるらしいんだが、どうも直らない。」
「それが?」
「だから、いいのかと訊いてるんだ。」
「三成殿は、優しい方です。ご自分の信念を持っているお方です。ですから、いいのです。失うことに怯えるよりは、失った時に絶望してしまうような素晴らしいお方のおそばに居ようと、思えるようになりました。 ですから、いいのです。」
「それに。
それに、左近殿が隣にいらっしゃいますから、きっと、きっと大丈夫ですよ。」
***
再会した時は、なんとなく気まずいといいな、っていう願望。見えなくても左近です。きっと小田原ぐらいだよ、うん。幸村はやめときゃいいのに、ってことに手を出しちゃうんだよ。
06/05/27
08.大切な人
燃え盛る炎の中、二人の決着はついた。幸村の槍が深々と貫いたわき腹からは、とめどなく血が流れている。間違いなく致命傷だった。幸村は仰向けに倒れこんでいる兼続に馬乗りになって、放り出されていた兼続の剣を掴んだ。兼続はとどめを刺されるのだと、静かに眼を閉じた。しかし兼続の希望に反して、兼続が使い慣れた剣は、兼続の頭のすぐ横の畳に突き刺さった。と同時に、幸村の身体の重みが、兼続から退いた。
「あなたを憎めたらよかった。」
幸村は静かに、兼続の呼吸を止めてしまう程穏やかに言った。
(ゆきむら。)
喉が焼けて声が出なかった。呼び止めたかったが、幸村はすでに立ち上がって、兼続に背を向けていた。
(ゆきむら、まて。まってくれ。)
「兼続どの。」
息を飲んだのは、果たしてどちらか。
「失礼します。」
さようなら、と言われている気がした。
(ゆきむら。)
幸村はまるで兼続の聞こえない声に応えるように、一度だけ振り返った。
「失礼します。失礼します兼続どの。」
(ああさようなら。最後の大切な人。)
***
武蔵の章の兼幸。武蔵は秀頼様護ってます、きっと。
前に武蔵の章で、例の兼続問題発言なステージやったら、早く到着し過ぎたのか幸村が閉め出されてて、兼続と幸村の会話が発生しなかった。めっちゃ笑った後、少しだけ切なくなった。
06/05/22
09.逃げちゃダメなのに
「大切にしなきゃダメだよ。」
ねねの視線の先には、一心不乱に槍を振るっている幸村の姿。
「好きなんでしょ。お前を見てれば誰だって分かるよ。」
何を言い出すんですか、俺をからかって楽しむのもやめてください。三成は、けれど言い返した先にある、お仕置きを思い出し、口をつぐんだ。
「とても真っ直ぐな子だもの、お前が好きになるのも分かるよ。あの子は逃げることを知らない。それは、とっても素晴らしいことだってあたしは思うよ。」
…知っていますよ。三成は幸村から視線を外さす、それだけを返した。ねねは、仕方のない子だねぇと苦笑した。
「お前もあの子の真っ直ぐな所を見習ったらどうだい?言葉にしないと、相手には伝わらないよ。」
…分かってます。三成はいよいよ居心地が悪くなってきて、思わずそっぽを向いた、が、すぐに幸村へと視線を戻してしまった。
「でも、あの子の強さは、お前が居るからでもあるんだよ。絶望を知ってる子は強いけれど、時々ひどく不安定になるからね。
だから、大切にしなさい。」
幸村も、三成、自分のこともね。諭すようなねねの口調に、思わず三成はねねに視線をやった。目が合って、三成がしまった!と思った時には遅かった。その目は母親のような面影はすでになく、お節介ないつものおねね様に戻っていたからだ。。
「幸村!ちょっとこっちにおいで!三成が話したいことがあるみたいなんだよ!」
はい、分かりました。幸村は呼吸を整えてからこちらに向かって歩き出した。え、ちょ、なんて余計なことしてくれたんですかおねね様!三成は段々と近付く幸村との距離に、縋るようにねねに手を伸ばしてみたものの、当のねねは、頑張ってね三成!と、いつの間に移動したのか遠くで手を振っていた。
***
おねね様と三成、幸村との関係が好きだ。史実のおねね様はこわいけど。あんなに二人仲良くても、子供いなかったんだよなあ。切ない。
06/05/28
10.「待ってて」って、
幸村が武蔵に語った戦略は、端的に言ってしまうと、大阪城を捨てることで成立していた。腐りきった大阪城を、人諸共壊してしまうことで、勝機を見出そうとしているのだ。もし、その策が成るのであれば、十分に大阪方にも勝ち目はある。だが幸村は、息を飲んで幸村の策を聞いている武蔵に、最後にこう締めくくった。
「画餅だ。」
と。大阪城は、豊臣の象徴でもある。それを捨てるなどと、言い出せるわけもない。それに、将にとって城は命をかける程の意味があるのだ。
「それに、私もこの城が捨てられない。」
夢をみたのだ。幸村は語る。昔、とある人と遠駆けをする約束をしたのだと。しかしその人は忙しい人で、約束の日にどうしても今日中に仕上げなければいけない仕事が入ってしまったのだと。その時、その人は忙しそうに手を動かしながら、先に行っていてくれ、と、自分もすぐに行くから待っていてくれ、と、そう言った。幸村は仕方がないから一人で遠駆けに行った。いつもの場所で待っていると、困ったことに雨が降り出してしまった。川べりの近くで屋根もない場所だった。幸村はさっさと帰ってしまうこともできたのに、その人の言葉を信じて待っていた。待って待って、日が段々と暮れてきても待った。雨は止む気配を見せず、幸村の全身を濡らして行った。それでも、幸村は待った。待った結果、その人は幸村と同じぐらいにびしょ濡れになって、幸村の目の前に現れたのだ。
「とても、懐かしい思い出だ。あの人は、私のことを馬鹿だ阿呆だと言って呆れていた。私からすれば、約束を律儀にあの人の方が変わっていると思った。」
あの人は、あの人はそうしてあの日も言ったのだ、待っていてくれ、と。
「だから私は待っているのだと思う。あの時は待ち合わせ場所がはっきりとわかったからいいのだが、今はどこで待っていればいいのか分からない。だから、私はここで待っているのだ。こんなにも華々しい戦場であれば、見つけてくれるだろうから。」
「三成殿は、もう居ないけれど。間抜けなことをやらかしたら、怒りながら現れてくれるような、そんな気がするのだ。」
***
書きたいものを見失ったのでここでストップ。
06/05/28