君を想う5つの情景  TV


1 言葉を奪われる虹 三幸
2 花散る水面 義トリオ
3 高く澄んだ淡い空 義トリオ
4 黄昏に染められた部屋 三幸
5 星が溶けゆく明け方 義トリオ






























1 言葉を奪われる虹

雨が上がった。二人は遠駆けに出て、運悪く雨に降られてしまったものだから、この木の下で雨が止むのを待っていたのだ。しかし、手ごろなこの木を見つけるまでに、こっぴどく雨にやられてしまったものだから、二人ともびしょ濡れだった。
「帰るぞ、また降ってきたら面倒だ。」
三成は言って、繋いでいた馬の紐をほどく。幸村ははい、と言って三成にならったが、ふと空を見上げてそのまま手が止まってしまっていた。三成は出発する準備が出来たその時にようやく彼が空を見上げたまま動いていないことに気が付いた。
「どうした、幸村?」
訊ねながら空を見上げると、
「虹です。」
幸村の声が重なった。思わず無言でしばし魅入る。中々にくっきりとした輪郭を彩っており、三成は素直に綺麗だ、と思った。口に出てしまっていたようで、幸村はくすくすと微笑しながら、そうですね、と一点を見つめたまま言った。
幸村はそこから動く気配を全く見せなかったから、三成が、行くぞ、と再び声を発した。はい、と幸村は確かに返事をしたのだが、やはり見つめたまま、手は動かない。
ゆきむら、と。三成はその名を呼ぼうとして幸村を見た。幸村の髪は自分と同じように濡れていて、短い髪の毛先からはぽたぽた、とまだ雫が垂れていた。
「幸村。」
好きだ、と思った。それがどんな想いを含んだものなのか、そんなことすらわからなかった。ただ、好きだと思ったし、今この瞬間に伝えたいと強く強く思った。
「ゆきむら、」
好きだ。と言葉が続けられることはなかった。幸村は視線を虹に向けたまま、その雨に濡れて冷たい手で三成の腕を掴んだからだ。
「きれいですね、三成殿。」
言ってしまわないでください、と言われた気がして、三成はそうだな、と視線を落としたのだった。





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三幸のみっちゃんは、ヘタレて何ぼだと思います。
06/06/05






























2 花散る水面

咲いていた花びらがひらひらと風に遊ばれて流れて、そして、池の水面にそっと落ちた。広がった波紋は僅かなもので、じっと目を凝らしていないと見つけられないぐらいの、些細な変化だった。
幸村は鍛錬の合間の休憩に庭を眺めていたのだけれど、庭の片隅に咲く、色鮮やかな花に目を奪われて、思わず見入ってしまっていた。散るにはまだ早い、生き生きとした花が、踊るように落ちていった。幸村はその情景を素直に綺麗だ、と思ったが、同時にとても悲しい気分になった。

(あの人は、きっと私を置いていってしまうのだろう。一枚の花びらを失った花は、もう以前と同じように美しく咲くことはかなわない。きっとあの人がいなくなってしまったら、もう何も取り戻すことができなくなってしまうのだろう。)

(それでも、あの人は私を、私たちを置いていってしまうのだろう。)

それは、予感だった。





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幸村視点。みっちゃんが関ヶ原で負けることは、きっと兼続も幸村もなんとなく分かってたと思うんですよね。
06/06/05






























3 高く澄んだ淡い空

また会いましょう、と幸村は笑った。
ああ必ずだ。必ず皆で勝利を分かち合おう。兼続の言葉が続く。
けれど三成は、何か自分では抗えることの出来ない、心の中の箍によって、彼らの言葉を繋いでやることが出来なかった。どうすることも出来ず、思わず見上げた空の、あまりにも清い姿に、思わず涙が出そうになった。

(俺が泣きたいと感じたのは、この空のせいなのだ。決して感傷に浸っているわけでも、感情的な何かのせいではない。ただこの空が、いつまでもいつまでも、こうして清く透明で居てくれるような気がしたのだ。)

(それはあまりにも優しすぎるのだ。自分には少ししみてしまう。)

「幸村。兼続。」
二人は三成に呼ばれて視線をよこした。三成は何も言わず表情を隠すように空を見上げていたものだから、二人も三成に倣い、空を見上げた。ただ、それだけのことだったが、三成は自分の想いが届いた気がして、それが更に涙を誘った。

(俺はきっと、清らかなこの時を失わぬために戦うのだろう。)





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仲良しさんだといいな、っていう話。をしんみり系で。
06/06/05






























4 黄昏に染められた部屋

「幸村。」
と三成の声がした。けれどそこに居るはずの幸村は何も言わず、三成には見えないのだけれど、心底困ったような表情で、座っていた。誰そ彼とはよく言ったもので、灯りの点っていない座敷では、相手の気配を感じることが出来ても、そこに誰が座っているのかまでは分からない。
三成はもう一度、「幸村。」と名を呼んだ。幸村からの返事はやはりなかった。どうしようもない不安に駆られた三成は、手探りで幸村の手を握った。人の手の感触など判別できないだろうに、三成は疑うことなくこの手を幸村のものだと思った。
「幸村、」
「何も、言わないでください。この関係を終わらせないでください。どうかどうか、お願いです。」
幸村の声がした。三成は何を言われたのかよく分からない。彼の言葉が自分の中で分解されない。澱んで沈殿していってしまう。
「ゆきむら、」
「お願いです。私とあなたの友情を、変えてしまわないでください。」
縋るような声の幸村に、三成は衝動的に幸村の身体を引き寄せたのだった。





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二人の恋は苦しいのです、とか言ってみる。
06/06/05






























5 星が溶けゆく明け方

いなくなってしまう
いなくなってしまう

今日と言う日を境に、
昨日と言う日を繋いで、
明日と言う日を紡ぐために。

この思いは昨夜死に、朝に生まれてしまったのだ。

いなくなってしまう
いなくなってしまう

僕が愛した君と、君が愛した僕との、暗闇の中ですら浮かび上がっていた、きらきらとした時間が。

いなくなってしまう
いなくなってしまう





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全体的にニュアンスで雰囲気なやつばっかですね。書きたいことだけ書いてるとこうなる。
06/06/05