キスの甘さ as far as I know様
キ 軋む音がする 左近と幸村
ス 裾を掴んでた 左幸
の 残らずあげる 石田主従
あ 新たな陶酔 左近と幸村
ま 睫毛が濡れて 兼続と幸村
さ 醒めない夢 左幸
軋む音がする
目が合った。
幸村は心底気まずそうな顔をして、さり気なく視線をそらした。
「お久しぶりです、左近殿。」
「久しぶりって、さっき一緒に太閤殿の陣に居たでしょう。それとも、気付いてなかったのか?」
左近の、少しだけ皮肉交じりの言葉に、幸村はすみませんッとひどく慌てた様子で頭を下げた。左近はそんな彼が見たかったわけではないから、おいおい大袈裟な、と笑う。
「本当にすいません。どうもぼんやりとしていたようで。申し訳ありません。」
「そういうところは全然変わってないな。あんたは、いっつも馬鹿正直に真っ直ぐだったからな。」
確かに表情が柔らかくなったし、雰囲気も以前と比較すると随分と取っ付きやすくなった。笑顔が自然とこぼれるようになったのは、大層な進歩だ。それでも、彼の性格そのものと言える、その不器用なまでの清廉さは変わらない。
幸村は昔と比較するように、じろじろと眺めてくる左近の視線に居心地の悪さを感じたのか、身じろぎをした。いや、先ほどから、どうも幸村に落ち着きがない。久しぶりの戦で気が昂ぶっているのとは、わずかに違う。
幸村もそれを自覚しているのか、左近がどう指摘しようか言葉を選んでいるのを見、小さく笑った。それは確かに笑みだったが、どこか影のある、少しだけ胸が苦しくなるような笑顔だった。
「大切な人が出来ました。」
幸村は微笑む。左近は、どうして自分にそれを言うのだろう、と思ったが口には出さなかった。
「武田を失った私に、また、失くしたくはないものが出来てしまいました。」
幸村は頭を垂れて失礼します、と言ったが、左近は彼の背を目を細めて見送るしか出来なかった。
***
何かが崩れてしまいそうな、そんな雰囲気、が欲しかっただけです。
左近と幸村は小田原で再会したんじゃないかな、っていう、そんな感じで。この幸村、政宗様が「遅参の段、御免なれ。」とかやってる間もぼーっとしてたってことですよね。うわっ伊達可哀想!(結局そこに行き着く/ホンットすいませんネ!)
06/06/06
裾を掴んでた
「…幸村、」
放して欲しいんだが。と左近の言葉が続いた。幸村は困った顔で振り返った左近の言葉の意味がわからず、小首をかしげた。
「…裾、放して欲しいんだが。」
再び左近の声。幸村に意味は通じなかったが、言葉は理解できたから、ゆっくりと裾へと視線を転じる。重力に逆らって、横に伸びているかと思えば、それが幸村の指に繋がっていた。
「あ、あの、これは、あの、すいませんッ」
慌てて裾を放したが、案外に強い力で掴んでいたようで、少しだけ跡が残っていた。幸村はその無残な様子に、ひどく申し訳ない思いに駆られ、しどろもどろに声を発する。が、一つとして意味を成していなかった。左近はというと、自分の着衣の心配よりも、幸村の背後から感じる、痛いほどの視線に、どう言い訳しようかと思考を巡らすのだった。
***
左←幸 みたい。
きっと背後の視線は、くそぅ左近のくせに…!と思ってる殿が大半を占めてるといいなと思います。幸ちゃんは西軍のアイドル希望!激しく!
06/06/06
残らずあげる
「殿、ここは左近が敵の目を引き付けます。その隙に、どうか。」
三成は左近を一瞥した。左近は彼に浮かんでいる表情に苦笑を漏らす。
「死ぬのか、お前は。」
「さあ、どうでしょうかね?俺の働き次第でしょうが、」
「そうか、死ぬのか。」
三成は極力感情を表さないように、静かに言った。分かっているなら一々言葉に出さずともいいものを、と左近は思った。余計な一言が多い御仁なのだ。
「左近、一つだけ訊く。お前は、武田に戻りたいと思ったことが一度でもあったか?」
「確かにあの軍は居心地のいい場所でしたけどね。ありませんよ。殿は心配なさっていたようですが、幸村もきっとそうだったんじゃないですかね。あいつは、もう手に入らないものを求めたがるような、そんな性分ではないでしょう。」
お前は、幸村こそを護ってやりたかったのではないか、幸村の失ってしまった何かを、今でも護りたかったと後悔しているのではないか。お前は幸村を好いているのではないか。いや、きっとお前の感情は暗がりに一人残されてしまった幼子を憐れむような想いと、そう変わりはしないだろうが、それでも。
「左近、お前は、」
「さあ、殿。早く撤退してくださいよ。今は時間が何より惜しい。」
三成の言葉を遮って、左近が三成の背を押した。強い力だった。三成は思わずよろけたが、左近はそんな三成を見て笑っていた。そう笑っていた。
「早くさがってくださいよ。
(別に幸村の大切な人だから殿を護りたいとか、そういう遠回しな意味ではないが。)
いい加減、護らせてくださいよ。」
***
一番重要なことは、お題に沿ってないことだと思います。幸村が全く登場しない、珍しい話でした。
(関ヶ原ですよ。)
06/06/07
新たな陶酔
今夜酒でも呑まないか?
滅多にない左近の誘いに、幸村は考える仕種を見せた。けれど幸村はぺこりと頭を下げて、すいません、と言う。
そして、
「私があのお方たちの思い出を語れるようになったら、その時は是非とも同席させてください。」
と再度頭を下げたのだった。
***
書きたい話を突き詰めてったらこうなった。ホントにそこだけ!って感じで、分かりにくいですね。
睫毛が濡れて
「あなたはきっと、これからの生を、後悔しながら生きていくのでしょう。生き方の違う私では、到底救う術など持ってはいませんが、それでも私は言います。あなたは私にとって、あの人と同じように、とてもとても大切な人なのです。」
温かく、優しすぎて涙を誘うほどに温かく、彼は微笑んだ。けれどその笑顔を直視できるわけもなく、彼に縋りつくようにして添えられた手の力を、無意識に強めたのだった。
(それでも彼は笑うのだ。その先には絶望しかないと分かっていながら、彼は笑顔を絶やさず、その先へと旅立ってゆくのだろう。)
***
色々考えたけど、そこだけ!って話(二回目)
06/06/07
醒めない夢
丁度良い洞窟を見つけた二人は、これ以上雨がひどくなる前にそこへと駆け込んだ。どうにか火を焚いて暖を確保し、身体が冷えないよう、処置は済んだ。二人は焚火を挟んで向かい会って座っているのだが、会話はなかった。ひどく自然な流れで、そこには沈黙がうずくまっていたのだ。
左近は目を閉じて雨音を聞いていたのだけれど、ふと幸村のことが気になって目を開いた。幸村は槍を抱えたままちろちろと燃える炎を見つめていた。幸村の顔が橙色を受けて朱色が落ちていた。視線に気付かれないように、さり気なく幸村の顔を見る。重い鎧は脱いでいる。鉢巻は半ば濡れてしまったから、くたりとしている。幸村の頬に、濡れた髪が張り付いていた。あ、と思った左近は、自分が何をしようとしたのかを理解するよりも早く、手を伸ばして幸村の頬に触れていた。本当は髪を除けてやるだけのつもりだったのだが、指先が頬を掠めてしまったのだ。幸村は一瞬何をされたのか分からずきょとんとしていたが、もう一度からかうように左近の指先が今度は故意に幸村の頬に触れてきたものだから、今度は小さな叫び声を上げた。段々と染まっていく頬の赤みは、どうやら炎のせいだと誤魔化すには、あまりにも鮮やかなものだった。
***
だから何?って言われたら、すいませんと土下座するしかないな。
話の前提とか前振りとか、そういう設定を考えると長くなってしまうので、全部はしょってみました。お題に沿ってないね。
私、左幸ならどこまでいっててもいいんですけど、どうも難しいですな。左近がいい男過ぎなんですよ。みっちゃんみたいに悶々すれば書きやすいのに。でもそんなの左近じゃないやい。
06/06/07
結局、左幸を真剣に考えよう、っていう目標は見事に玉砕しました。