泣かないで  as far as I know


な 涙じゃない雨粒だよ、泣いてるって証拠でもあるの 三成と幸村
か 渇いた頬にキスをして、濡らしてやりたかった 兼幸
な 慣れない事はするもんじゃない、わたしも、あなたも 左近と幸村
い 祈るように君の涙を拭う、それはただの我が儘 三幸
で 出来損ないの泣き顔を、わたしはずっと持て余してた 左近と幸村






























涙じゃない雨粒だよ、泣いてるって証拠でもあるの


先の戦で、幸村が負傷したという。三成はその報告を受けると、居ても立っても居られなくなり、足早に幸村にあてがわれている部屋へと向かった。幸村の部屋の障子は隙間なくぴたりと閉まっていたが、三成は一瞬躊躇ったものの、すぐに首を振って戸をがらりと開けた。幸村は、髪を振り乱して親の仇を睨みつけるような鋭い眼光に目を丸くして、突然の来訪者を見た。腕から肩にかけて巻かれた包帯が、三成の目に鮮やかさを覚えさせた。大袈裟とも言ってしまえる程の手当てに、痛々しさを覚えたほどだが、幸村がどれだけ動いても傷に響くだろうに表情を崩さないものだから、手当ての者が大袈裟にしすぎただけではないだろうか、と三成に思わせる程だった。

「傷の具合はどうだ。」
「大分、いいですよ。」
「何針縫った?十か、二十か?それとも、それ以上か?」
三成が詰め寄る。あまりにも必死な顔をしていたのだろうか、幸村は苦笑を漏らした。
「忘れてしまいました。」
三成は幸村の返答など最初から信用していない。そっと、触れていることすら分からないほど丁寧な動作で、三成は幸村の包帯の上を撫でた。透けて見えるわけではないのに、三成は目を細めて、じっと包帯が巻かれた腕を見つめる。
「あと少しでもずれていたのなら、使い物にならなくなっていた、と、聞いた。」
戦場での打ち合いは、ほとんどが感覚に任せたものだ。特に幸村のように敵の前線に立つような者には、一人が二人も三人も相手にしなければならない。文字通り四方八方から攻撃を受けるのだ。
「そう、ですか、」
「恐ろしくはないのか、お前は、もしあの瞬間の決断が間違っていたのならば、二度と槍が振るえぬかもしれぬのだぞ。」
「いえ、」
幸村は静かに首を振った。
「もし、この腕を失ったとて、私は槍を捨てぬでしょう。もう一方の手を失ったのであれば、その時は違う武器を取るでしょう。私はそうして、戦の為に生きるのです。そうすることでしか、生きられぬのです。私はきっと、死ぬ為に生きる術を探しているに過ぎないのです。」
幸村はそして、すいません、と本当に申し訳なさそうに頭を下げた。なにがだ、お前は別に謝るようなことはしていないではないか。三成がそう投げつけるように言うと、幸村は頭を上げて、悲しそうに笑った。
「三成殿に、そのような顔をさせてしまっているので、」
どんな顔だ。言ってみろ、俺は今どんな顔をしてお前を見つめている。お前は俺の表情から、どんな感情を読み取ったというのだ。
「泣きそうな、お顔をしていらっしゃいます。」
幸村はそう言って三成の頬に手を伸ばしたが、その一瞬、幸村が穏やかに悲しく三成を見上げた為、きっとこの男に触れられたら、自分は幸村の言葉に取り憑かれたように泣いてしまうのだろう、と衝動的に感じ、幸村の手を払ってしまった。
(痛いのは苦しいのは、俺ではない。それなのにお前は、)
三成は案外に強く幸村の手を打ってしまったようで、三成の手もじんじんんと熱を持っていた。三成は謝罪の言葉をたった一つでもいいから言ってしまいたかったが、その前に幸村は寂しそうに顔を伏せてしまった。





***
きっと私が書く話は、誰かが怪我することで、何とかネタになってる気がします。
06/06/14






























渇いた頬にキスをして、濡らしてやりたかった


目が突然に見えなくなる。それは言葉にする限り、ものすごい恐怖だ。今まで見えていたものが、全て闇に閉ざされてしまう、自分の世界が失くなってしまう。
けれど幸村は、その恐怖の世界に居るはずなのに、何故だか普通に談笑をしている。自分でも分からないのだけれど、確かに視界は闇一色で一向に晴れる気配すらないのだけれど、それでも、自分は笑うことが出来る。確かに目が見えないから、壁にはぶつかるし障子に穴は開けるし、何もないところで転んでしまうし、食事は不便だし(着替えは手探りで案外どうにかなるものだった)、槍の手入れも出来ないし(やろうとしたら、全力で止められて、あまつさえ槍を没収されてしまった)、書だって読めない。それでも、何故か恐怖はなかった。不便だと思うのだけれど、こわいという感覚が付いては来ない。
「こわくは、ないのか?」
ふと途切れた会話の合間に、目の前の気配はそう問った。何がですか?幸村は首を傾げながら、目の前の兼続の気配に視線を向ける。見えないはずなのに、自分の目が兼続に向けられているような気がした。兼続は"何"には答えず、静かに幸村の近くに膝を進め、そっと幸村の頬に触れた。幸村は思わず笑い出しそうになってしまった。だってあの直江兼続が、壊れ物を扱うかのような手つきで、幸村の頬に手を添えているのだから。
「私が見えるか。」
「いえ。」
見えません。されど、分かります。きっと、兼続殿の顔に浮かんでいる表情すら、私には分かります。見えません。見えませんけれど、分かる気がします。
「こわいか?」
兼続の気配がとても近くに感じられた。まるで、自分の鼓動と同化してしまいそうな程、近くに。





***
『真/田/大/戦/記』で幸村が失明したりもするので。
ちなみに、この話では一時的なものですが。
これを兼幸って言ったら詐欺だろうか。
06/06/14






























慣れない事はするもんじゃない、わたしも、あなたも


時々分からなくなるのです。私の感覚がどこかでおかしくなってしまったのか、それとも神経がきれてしまったのか。それでも私は痛いという感情も悲しいという感情も嬉しいという感情も平等に知っているのだと思います。それなのに時々分からなくなってしまうのです。頭では、これはきっと苦しいことなのだろう痛いことなのだろうと分かるのですが、どうも感覚がついていかないのです。実感することができないのです。以前ならばどう表現していたのか、それすら分からないのです。痛いという感覚をもちろん知っています。それなのに私はそれを実感することができなくなっているような気がするのです。

ですから考えるのですが、どうも答えは出てこないのです。私が彼らに一線を引いているのは、失うことがこわいのか、失った時に何も感情が溢れてこないことを恐れているのか、それとも、失うことに慣れて笑うことしか出来なくなる自分がこわいのか、分からなくなってしまうのです。私は誰かを失うのと同時に、何かを失っているような気がするのです。

どうして左近殿に話しているのかそれすら分かりません。けれど三成殿や兼続殿には言えませんでした。きっときっとあの方々には言えません。あの方たちは私が嫌悪している部分を背負おうとしてしまう。他人の闇の部分はとても重たいのです。ですから私は彼らに背負わせてはいけないと思うのです。

優しい方ばかりです。どのお人も個々にお優しさをお持ちです。私は左近殿の一線を引いた話の聞き方にすごく助かっていると感じています。あの方たちはそういう優しさではありません。共有することを望んでいる方たちです。私は彼らの心に救われていますが、それでもこのままではいけないと思うのです。

「苦しいか?」
「分かりません。けれどきっと、…どうなのでしょうか?」
幸村は苦しいです、と呟いたが、心が反応することを止めてしまったものだから、諦めたように微笑んだのだった。





***
これだけ。
何も考えずに書き出すとどうしても長文になるから、と書きたいところだけ書いてみたら、今度は自己満になった。そういうサイトだからいいんだけれども(よくねぇよ)
06/06/14































祈るように君の涙を拭う、それはただの我が儘


三成の手が、幸村の鎧の上をすべっていった。幸村は三成の心は読めなかったが、この人はこんなにも切実とした表情を持っているのだなあとは思った。盲目的なまでに真っ直ぐなその眼差しは、自分に向けられていることすら忘れてしまいそうな程揺れていた。

「生きろ。」
と、必死さを覆うことなく、彼は呟く。こんな声をさせているのは自分なのだと思うと、どうしようもない自責の念にかられた。
(生きています、私は生きています。それでもあなたは、私がそれを望んでいないのだと、見透かしている。)
「誰かの為ではなく、何かの為でもなく、ただ生きていてくれさえすれば、いいのだ。命を削るな、感情を捨てるな、生きろ生きろ。貪欲なまでに、ただ生きることを望め。」
幸村は静かに、はい、と頷いたものの、彼の顔はあまりにも寂しそうに笑うものだから、ああきっと、彼は生きる術を知らないのだろう、と思わざるを得なかった。この男は、三成の嘆きに首を振ることすら知らぬのだ。




***
視点がごっちゃになってます、よ。(まあいつもですが)
06/06/15






























出来損ないの泣き顔を、わたしはずっと持て余してた


左近は、庭の隅でうずくまって何かをしている幸村に気付いて、近付いた。幸村は困ったような表情で、庭の隅にある木の下の土をいじっていた。左近が隣にしゃがみ込んで幸村を手の内を覗くと、幸村はその困った顔を左近に向けて、おはようございます、と困ったような顔のまま微笑した。何をしてるんだ、と訊こうとして、左近は土の上に横たわっている雀に気付き合点した。その雀は不自然な格好をしたまま、ぴくりとも動かなかった。風が時折その固くなってしまった羽を撫でていくが、どこかぎこちなく揺れるばかりである。
「死んでしまったんです。先日怪我をしているところを見つけて手当てをしてみたのですが、手遅れだったらしくて…。ここ数日で段々と衰弱していってしまいました。」
そして今朝、庭に出たら、この雀が転がっていたという。幸村はこの憐れな雀を埋めるための穴を掘りながら言う。日陰だからだろうか、土は湿っていた。幸村が一掻き二掻きしていく度に、彼の爪に土が食い込んでいく。
「昔も、同じようなことがありました。やはりその動物は死んでしまって、私は三日間共に居ただけなのに、すごく泣いてしまって。今思うと、情けない限りですが、」
小鳥一羽分のスペースはそれほど大きくはない。ほどなくして幸村は手を止めて、土だらけの手を払った。
「今回は泣かないのか?」
左近は言いながら、幸村の手を掴んだ。汚れてしまいますよ、と幸村は言ったが左近はあえて聞こえていないふりをして、爪に土が入ってる、と幸村の親指をぴんと指で弾いた。気付いてなかったのか?と左近が問うと、あ、はいそうですね、そうです、とどこか繋がっていない返事をした。
左近が手を離すと、幸村は自分の手をしばらく見つめていたが、思い出したように作業を再開させた。そっと雀を持ち上げて、掘った穴の中に入れる。あとは土をかけるだけなのだが、幸村はその一瞬を長く長く見つめていた。
「幸村、」
「泣きません。死んでしまうのはとても悲しいことですが、私は泣きません。きっときっとこれから先も、私は泣きません。」
そう言ったまま微動だにしない幸村に左近は小さくため息をついて、幸村の代わりに土をかぶせてやるのだった。左近の行動に、幸村は再び困った顔で笑い、すいません、と顔を伏せた。





***
左近と幸村の距離感がつかめてないので、いっつもどこか荒があります。
左幸にしようと思ったんですが、どうもこの二人だとコンビ色が強くなります。
06/06/17