ゆっくりとゆっくりと、沈んでいくような、


「兼続殿、最近無理をしていませんか?」
幸村はぼんやりと灯りのともっているだけの室内で、兼続に詰め寄る。兼続は疲労と睡眠不足でどうも思うように働かない頭を抱えて、にごった目を幸村に向ける。疲れていないはずはない。けれどもこの人は、この激務を自分のしなければならないことだと、自分に課しているものだから、幸村が何を言っても大丈夫の一点張りだ。
「幸村、私はお前が思っているより、やわではないよ。」
つかれた、よどんだ瞳が笑う。幸村はそんな彼の笑顔が見ていられなくて、そっと兼続に手を伸ばす。頬に手をやると、やはり、冷たい。
「無理に笑顔を作らないで下さい。どうか、辛い時には辛いと、苦しい時には苦しいと、仰ってください。」
「幸村。我らは幸せにならねばならないのだ。三成の分も、三成に希望を託して死んでいった者たちの分も、みなの為にも。」
兼続どの、と幸村の優しすぎる声が、とても近くから聞こえた。そのあまりにも穏やかすぎる、まるで壊れ物に触れるかのような吐息に、兼続は胸が痛く熱く疼いた。涙が、出そうだと、思った。
「幸村、もう休んだ方がいい。疲れているだろう。」
「兼続殿は、」
「私はもう少しやることがあるからな、先に休んでいてくれ。」
背を向けてしまう、この人は、こんなにも近い距離に居ながら、どこかで一線を引いている。気負っている、それに気付いていない。危険だ、けれど自分が触れてしまっては、そのあまりにも曖昧な均衡を保っているそのバランスを崩してしまいそうで、むしろ自分も染まってしまうかもしれない。否、すでに染まっているのか、囚われているのか。
「兼続どの、」
兼続は振り返らず、声だけを返した。
「どうか、幸せという言葉に取り憑かれるのだけは、おやめください。幸せにならなければ、と手を伸ばしたところで、手にできるものは、果たして本当に幸せと呼べるものでしょうか。」
ふと幸村は、三成が言葉を嫌う本質はここにあるのではないか、と今更になって思ったのだった。





***
幸村ED、かな。
義トリオは、一人でも欠けちゃったら、バランスがとれなさそうだな、と思ったので。
兼続は思いつめるタイプだと思う。
06/07/03