恋とは果たしてこれ程までに焦燥を感じるものか


『あの方は、私のきれいなところしか見ていません。』
『あいつは、俺のきたない部分を決して見てはいない。』

『それでもあの方は、私に想いを語ります。』
『だがあいつは、それでも俺を慕っていると言う。』

『あの方は、私を美化し過ぎているのです。』
『あいつは俺を買いかぶり過ぎだ。』

『果たしてそれは、私の全てをしっていると言えるのでしょうか。』
『果たしてこれは、俺の全てを理解していると言えるのだろうか。』


兼続は、先刻訪ねてきた幸村と、全く同じことを語った三成に視線をやった。どうせお前に言っても仕方のないことだ、と三成は不機嫌そうに顔を顰めていた。兼続は二人が互いに強く想い合っていることも、その想いが互いを慈しむものであることも、重々に知っていた。兼続は密かにため息をこぼしたが、目ざとく三成はそれに気付き、お前に相談した俺がばかだった!と怒鳴る。ああ三成そうではないのだ、と兼続はすかさず口を挟んだが、疲れたように見えたのか、うんざりした風に三成の目には映ったらしい。お前にはもう相談などせん!三成は顔を真っ赤にして立ち上がる。兼続はやれやれといった様子で肩をすくめて、三成の着物の裾を掴む。
「私が悪かった。とりあえず座れ。これでは話をすることもままならないではないか。」
他に相談する適任者が見つからない三成は、渋々と言った様子で再び座り込んだ。

兼続は、二人の恋が実ってしまったら、その瞬間からそれが恋ではなくなってしまうことを、悟っていた。幸村は三成の人としての欠点を決して認めはしない。同時に、三成はどこまでも幸村を神聖化し、最低な部分を見つけられない。見えないのではなく、見ないのでもなく、見つけられないのだ。互いが互いに夢を見ているのだ。これは、きっと周りよりも本人達がもどかしいだろう。始めの頃はなんとなく引っかかっていた不安が、時間と共に増大していく。こんなにも情をもって接している相手が、決して自分を見てはくれない。

「三成、私が言えることは一つだけだ。」
何?と三成は身を乗り出す。兼続は出来るだけ三成と目を合わせないように、庭へと視線を向けた。夕日がもたらす鮮やかな光が、淋しそうに庭の木々を照らしていた。
「幸村と別れろ。もしくは、そのような感情を持って幸村に接するな。」
何を言う!と三成は膝を立てた。

「お前の想いでは、幸村を幸せにできぬ。」
「お前達の恋は、幸せになれぬよ。」





***
アリプロの『apres le noir』の

あなたは
かがやく私しか
見てない

のフレーズより。

かねっつがひどい人ですいません。
06/08/05