つなぎとめる
背後に、慣れた気配を感じた。幸村は振り返ろうと身体を反転させる、が、背後の気配はその幸村の身体を後ろから抱きしめて、身動きをきかなくしてしまった。
(ゆきむら、)
耳元で囁かれた声はあまりに切なくて、幸村は反射的にすいません、と謝ってしまった。
(振り返るな、お前は、ただ前を見て歩いて行け。でないと、お前は駄目になってしまう、囚われてしまう。振り返ったその先に、お前は絶望しか見ることが出来ない。たとえそこに希望が落ちていようとも、お前の眸には絶望としか写らない。だから、お前は前だけを見ていてくれ。亡霊になど、取り憑かせてなるものか。)
三成はそう言うと、いっそう強く幸村を抱き締めた。幸村は三成の身体越しに伸ばされる、たくさんの叫びと祈りの壮絶さに、静かに目を閉じた。戦場の悲鳴が、まるで今もまだ合戦の最中のように、幸村の頭に響いている。
(わたしは、あなたの諸刃の剣のような強さに、何度も助けられて、何度もころされているのです。)
それは幸村にとっては無理な話だったが、三成の声がにぶく幸村の心に沈んでいったものだから、はい、はい、と今にも泣きそうな顔をして、頷いたのだった。
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06/08/11