衝動に忠実な男


三成は乱暴な動作で天幕を開けた。血のにおいと汗のにおいとが混じり合う、決して衛生的とは言えないにおいの渦に、三成の顔は一瞬険しくなる。が、三成はその中に、目的の人物を見つけると、躊躇いもなくその中へと一歩を踏み出した。本陣を守っていたおかげで、負傷兵の中、土埃で少しだけ汚れてしまっただけの三成の姿は浮いていた。

「幸村。」

鎧を脱いで、包帯を身体中に巻きつけた幸村に、三成は掛ける言葉が見つからず、ただ名を呼んだ。幸村は、いつもと変わらぬ笑みで三成に微笑み、どうしたのですか?と少し掠れた声で三成を見た。先程まで最前線で声を張り上げていたのだ、当然の結果だった。

「お前が負傷したと聞いた。」
「はい。」
「だから、居ても立ってもいられなかった。」

愚かな男だろう。俺は、武士を名乗る資格すらない。お前を失うのが怖いなど、死んでいった兵達に申し訳が立たぬ。だが、だが、これ以上の真実はない。お前を失いたくないという思いの真実以外に、俺をここまで突き動かした衝動はない。

三成はそう言うと、幸村のそばに腰を下ろし、おそるおそる幸村の頬に手を添えた。泥と汗と血で汚れたそこは、決して手触りのよいものではなかったが、三成は構わなかった。むしろ自分の服の裾で、そこを拭おうとした程だった。
しかしそれを幸村は、静かに、けれどもきっぱりと遮ってしまった。

「他の者達が見ております。いけません。私にそのようなことをなされば、他の者も等しく扱わねばなりません。ですから三成殿、心遣いは無用でございます。」

「しかし幸村、

 俺は、何よりも誰よりも、お前がたいせつなのだ。」





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どうしようもなくタイトルので書きたくなったので。
私の書くみっちゃんは、この時代の人ではないな。
06/08/14