不慣れ
「幸村ー、」
がらりと返事も待たずに障子を開ける。武蔵と幸村の関係はそういった気安さがある。幸村はこの気安さを不快とは思わないし、武蔵はどこかおかしなところがあるだろうか、とすら思っている。
が、流石の武蔵も、障子の先の幸村の姿に動きを止めてしまった。幸村を指差して口をぱくぱくさせていたが、幸村が、なんだ?と微笑むと、「悪かった!」と言いながら、ぴしゃりと障子を閉めてしまった。
「武蔵どうしたというのだ。」
幸村が障子を開けようと力を込めるのだが、外から武蔵が押さえているのだろう、びくともしない。
「お、おまえ、鎧着てろ鎧!」
「無理を言うな。今は一応は停戦状態だ。いつまでも臨戦態勢のままだと、折角の扱い(和睦)も泡になってしまう。似合うとは思っていなかったが、先日秀頼様より頂いた召し物だ。一度は着ておこうかと、」
「誰も似合ってないとか言ってないだろ!」
では何が気に入らないと言うんだ。幸村は問い詰める口調であったが、口許には笑みすら浮かんでいた。武蔵の狼狽する姿に楽しんでいる節すらある。
今、大阪城は微妙な立場にある。とりあえずは徳川とは和睦を果たしたのだが、いつ徳川が言いがかりをつけてくるとも限らない。しかし、その中でいつまでも鎧を着ているわけにもいかないだろう。幸村は入城からこれまで、常に鎧を身に着けていたが、今日とうとうそれを脱いで、平時の服装に変えたのだ。秀頼公から賜った紅の着物は、幸村によく映えた。
「女の格好なんて、今更すんじゃねぇ!」
「私もこのような動きにくいものは身に付けたくないのだが、折角頂いたのだ、着ねば勿体無いな、と。」
ほら、開けるぞ、会話が少し遠い。と幸村は力づくで障子を開けた。武蔵は、裾を引き摺る幸村の姿を見ぬように、とこちらに背を向けて座り込んでいた。
「それで武蔵、用は何だったんだ?」
「手合わせでもしようかと思ったんだよ!呑気に女になりやがって!」
「それならば、私は着替えてくるとしよう。少しばかり待っていてくれ。それとも、着替えを手伝ってくれるか?どうも女の着物はややこしい。」
ゆきむら!と武蔵は振り返った。振り返ってから、幸村の姿に茫然として、赤面をした。真田幸村は共に戦場を駆けた仲だ。気が合うし、何かと趣向も合う。が、困ったことに真田幸村という武将は女だったのだ。戦場では勝る者がいないほどの働きをするくせに、こうして着物を纏うと女人にしか見えない。武蔵は女が嫌いというわけではなく、ただ今までに別段親しい女が居たわけでもなく、ただ単純に免疫がないが為に苦手なのだ。
幸村は手を口にあてて、くすくすと女の顔で笑う。
「…意地が悪いぞ、幸村。」
「私を女と意識するなと何度言えば分かる。すぐに着替える。お前はこの姿では目すら合わせてくれないから、この衣もお返しするしかないな。私にはやはり過ぎた物だ。」
「別に、」
似合ってないとは言ってない。と武蔵は言おうとしたが、女の幸村には多くの言葉は紡げず、ああ返しちまえ!お前には鎧の方が似合う。と幸村しか喜ばないであろう言葉を吐いたのだった。
***
これに又兵衛殿も混ぜようとして、無謀だということに気付いてやめた。
無双の武蔵は女慣れしてないといい。たまに女らしい格好をしてると、又兵衛は幸村をからかって、「相変わらず淋しい胸だな」とか言うんだけど、幸村は「戦場では邪魔になりますから丁度いいのですよ。」とか言い返したり。武蔵はその場に居た堪れないだろうなと。又兵衛殿は酒好きで更に女好きっぽいイメージ。いい女が好きなので、冗談めかして幸村にプロポーズしてるんだけど、いまだ色好い返事はいただけない様子。幸村総受けサイトですから、木村殿×幸村だって妄想してますよ。
あと、史実一切シカトで、清正、正則コンビと幸ちゃん絡めたい。喋らせたい。
この対武蔵の幸村の口調がいまだ掴めない。難しい。
06/10/12