境界線
「死んじまったよ。」
武蔵はゆっくりと転がっている死体を見下ろした。雨に濡れた幸村の死に顔は、泥と血とで汚れていた。雨は先程から激しさを増しているが、雨ですら彼の穢れを拭えないのだ。武蔵はどうしてやるべきか迷ったが、何をしても真田幸村という武将の死を蔑んでいるだけのような気がして、彼が満足をして死んでいった顔をそのままさらしていた。
背後から刀を突きつけられた。手練れだか、武蔵が勝てない相手ではない。武蔵は背を向けたまま言葉を続ける。
「幸村は死んじまった。それでもあんたは俺に嫉妬するのは何故だ。」
「最後の最後で、あの子の一番を持っていってしまったのはお前だからだろう。」
「あいつは、共に戦い、笑い合いふざけ合い、励まし合うことの出来る相手だった。だが、だが、共に死ぬことだけは、許してくれなかった。」
「それでもあんたは俺に嫉妬するのか、直江兼続。」
「私はあの子を奪ってしまった、死という存在ですら嫉妬をするよ。」
***
武蔵を出したかったはずが、なんかひどいことになりました。
06/10/29