塞き止めろ  as far as I know


せ  接触は駄目、心臓を盗られるに違いない 佐和山主従と幸村
き  軌跡をなぞる応酬は、不意に未知の軌道へと 兼続と幸村
と  徒労感があなたの声で、低く囁きかけてくる 左近と幸村
め  迷走する視線の最後、必ず在ったただひとつ 三成と幸村
ろ  篭絡された心臓は、ひときわ熱く高鳴った 佐和山主従と幸村

心の堰の決壊まで。どうしようもなく。
せ...近づいただけで壊れちゃうんだから。/ き...いつものやり取りが、いつもと少しちがって。/ と...とまらない。/ め...だめだまっすぐみちゃいけない、/ ろ...盗られてしまった。






























せ  接触は駄目、心臓を盗られるに違いない


――呼吸が止まった。

左近は、隣りに立つ三成の息をのむ音を、この銃弾が激しく飛び交う中確かに聞いた。左近は思わず三成を見、そして、三成の呼吸を忘れて凝視している存在に、思わずため息をついた。殿、と呼ぶが返事はない。殿、殿、と今度は身体を揺らした。三成は茫然とした顔を左近に向けた。

「左近、あれは、なんだ、」
三成が言うあれとは、今まさに銃弾の雨をかいくぐり、敵の陣に突撃をきめた幸村のことだ。
三成は、恐怖と紙一重にあるのだろう、武者震いにも似た戦慄を覚えていた。あの眸は何だ あの声は 槍をふるうあの人間のかおをみたか。三成はそう表情で物語る。
幸村には殺気がない、怒気もない。代わりに全身を包んでいるのは、何よりも気高い闘気だ。三成が呼吸をするのと同じように、幸村は槍をふるう。三成が息をつく度に、幸村はただただ殺気のこもらぬ、激しい気をたたえた眸で敵を見る。そう、みるだけだ。睨むわけでもない見つめるわけでもない。三成は彼の横顔に戦慄した。三成の心が震えたのだ。
「あれは、ほんとうに幸村か、」
先程まで、隣りで微笑んでいた幸村か、と三成は問う。三成が自身の目で幸村の戦いを見たのは初めてだったのだ。

「幸村ですよ。あれこそが武士ですよ。殿とも俺とも違う、武士という生き物ですよ。」

その時幸村の声が、空気を大地を振動させ、三成の肌をびりびりと刺激した。





***
『城/塞』で木村殿が幸村のことを、「佐どの」って呼んでたことに、激しく悶えた記念。『城/塞』の、木村殿、又兵衛殿との絡みが非常に好きです。でもって、秀頼様がものすごいいい。秀頼様が喋るだけで、にやける私。
06/09/28






























き  軌跡をなぞる応酬は、不意に未知の軌道へと


兼続は、先の戦で重傷を負った幸村の見舞いに来ていた。真田幸村という男は、戦が終わると、必ずと言っていいほどの頻度で、数日は部屋で療養している。それ程までの怪我を毎度毎度負うのだ。

「幸村、戦で怪我をするな、というのは無理な話だが、少しは無茶をやめてはくれないだろうか。」

三成はよく、幸村の無謀にも見える突撃を"無茶"と表現する。なるほど、それは三成の目からみれば、無茶としか映らないのだろう。が、幸村の言葉を聞くと、案外に彼なりの理屈あってのことらしい。
真田幸村という男は、何よりも戦が得意であった。敵がどのように仕掛けてくるのか、それをこうこうこのように回避すれば、敵はこのように動くでしょう、そこへ私たちがこうこうこうして動けば勝利は自然と手に入るものです。幸村は敵から味方まで、戦の流れがまるで手にとるようにわかるらしい。それは何も諜報が優れているから、というだけではない。幸村は、本能的に戦場での人の心理を知っているのだ。

そういうわけであるから、幸村の突撃はどこか無謀に見えて、毎度見事な戦果をあげている。その度に重傷を負うのだが、幸村は本陣に担ぎ込まれる時はいつも笑っていた。戦場に生きることしか出来ぬ男なのだ。己の策の成功に何よりの喜びを覚える男なのだ。

「兼続どのは、優しいです。けれど、あなたはこちら側の人ではありません。」
「ああそうだ。私はお前の武を誇ることを知っているが、お前の戦場での傷まで誇る術を知らない。」
幸村はそして、兼続を見た。兼続も思わず見返す。兼続は、幸村の漆黒の瞳が、戦場でどれほど壮絶に輝くのかを知っている。

「ご忠告、ありがたく頂戴いたします。お忙しいのに、申し訳ありません。」
「幸村。」
「はい。」
兼続が真剣な表情で膝をつめても、幸村は穏やかに笑っていた。好青年にしか見えぬ男が、戦場ではあのように変わるのだ。兼続は幸村が戦場で纏う、この世の不浄をかぶりながらも、何ものにも侵せぬその凛とした空気が好きだ。血に塗れても、どんな罵声を浴びせられても、幸村が纏う空気は、どこまでも世俗から離れたものだ。そこには生すらも超越した、幸村の魂があるような気がしたのだ。
「お前は、自分が無茶をしているという自覚があるか?」
幸村は返答の変わりにふわりと笑った。三成だったならば、はぐらかすな!と八つ当たりをしていただろうが、兼続は幸村に全てを話してもらう必要はないと思っていた。この男は自分が死んではいないから、無茶はしていないと思っているのだろう。傷がなんだ怪我がなんだ。鉄砲の弾が掠ろうが、槍に刀に斬られようが、私は生きているのです。私はこうして傷付けられたと同様に、誰かを傷付けたからこそここに立っているのです。もしこれを無茶だとお思いでしたら、それは違います。私が死んだその時こそを、あああの男は無茶をして死んでしまったのだと、そう思ってください。
幸村の声が聞こえるような気がして、兼続は目を閉じた。

「私から、一つ質問してよろしいでしょうか?」
「なんだ。」
「兼続どのは、私がもし死んでいたらどうしますか?」
お前がそれを訊くのか、と兼続は思わず言いそうになってしまった。お前は死なぬのだろう、無茶をしていないということはそういうことなのだろう。お前はその生の淵で踏みとどまり、死を眺めているのではないのか。
「兼続どのは、あまり他人に依存いたしません。あなたはよく、三成とご自分は似ているとおっしゃいますが、私は違うと思います。三成どのは、人の存在に依存します。けれどあなたは」
「三成は、お前がいなくなれば、それはそれはひどいことになるだろう。あの男はああ見えて情に厚い。あれは、もうお前をただの他人だとは認識していないからな、もしかしたら、気が狂うてしまうかもしれん。」
幸村の漆黒の瞳が、ゆっくりと兼続を射抜いた。では、あなたはどうなのです?そう問い掛けられているのは重々承知していたが、兼続は生憎気の利いた言葉が出なかった。直江兼続らしくはない、何ともお粗末な返答だった。
「悲しむよ、私はお前がとても大切だからね。」
「けれど、」
幸村がその先を紡いだが、言う前に口をつぐんでしまった。ああ知っているよ、私は薄っぺらい人間なのだ、冷たい人間なのだよ。悲しむだろうし嘆きもするだろう。数日は塞ぎこんでいることだろう。けれど、すぐに慣れてしまうよ。お前のいないその空気に、すぐに慣れてしまうのだろう。

ああ、私は、
(私は、冷たい人間なのだよ。)

兼続の目はそう訴えながら、けれどもその手は優しく幸村の髪を梳いたのだった。





***
左近でホントは予定してたんですけど、何か違うなーってなってかねっつにしてみました。この二人は敏いので、時々目で会話して、みっちゃんが一人悶々してればいい。多分このサイトで一番真っ直ぐなのはみっちゃんだと思われ。
かねっつも幸村もにせもんだな、これ。
06/10/01






























と  徒労感があなたの声で、低く囁きかけてくる


左近は、どうしても手が離せない三成に代わり、幸村の姿を探していた。家風なのか、彼独特のものかはわからないが、ふらりといなくなって、どこかで数日を過ごすことが多い。その癖を知らなかった頃は、幸村に女が出来た!と三成一人で青ざめていたものだが、実際はそうではない。野を駆けて育った男は、山に入りそこでうっかり温泉などを見つけてしまえば、そこで野宿をするのも厭わない男だった。

「そんなとこにいて、落ちないか?」
樹齢何百年とありそうな巨木の枝を、左近は見上げる。幸村は寝転がっていた態勢から身体を起こして、慣れですよ。と笑っていた。
「殿が呼んでる。降りてきてくれ。」
はい、と幸村は快く返事をして、するすると木を降った。左近が手を貸すまでもなく、軽やかに着地をした。

「毎回毎回大変ですね。」
「そう思うんなら、誰かに言付けをするなりしてくれ。」
しかし幸村はくすくすと笑うばかりで、今後も改善の余地はなさそうだ。左近はあからさまにため息をつき、たまっている仕事を思った。こうしてのんびりとしていることが三成に知れたら、更に余計な仕事が追加されるに違いない。

「左近殿も、女人と逢引でもしたいのではないですか?それも、三成殿と私のせいで叶いませんけど。」

まるで悪びれた様子を見せない幸村の笑みに、けれども怒りはなく。ただ、
(ああ、やられたなあ。)
と思うばかりだ。





***
こんなん幸ちゃんじゃない!と書いてて思いましたが、三分の二ぐらい書いちゃってたので、そのままいってみました。
左近の口調がいまだに分からない。
幸村は好奇心が旺盛なので、眼を放すといつの間にかいなくなってる人。
06/10/03































め  迷走する視線の最後、必ず在ったただひとつ


三成の考える策は、常に夢想だった。兵がそんなにも都合よく動きはしないし、敵はそこまで優しくはない。幸村は三成の思う策が無謀であると知っていた。決して成功しないだろうと、負けはせずとも苦戦を強いられるだろうと、そう分かっていた。けれど幸村は、最後まで首を横に振らなかった。

「反対せぬのか。」
「致しません。」
「止めぬのか。」
「止めません。」

何故だ、と三成の唇が動いた。幸村は、当然のことでございます、と微笑む。俺はそうやって穏やかに微笑むお前を、戦場に送ることしかできぬ。幸村の笑顔は、戦を控えている身にはあまりに優し過ぎたのだ。

「あなたはただ、己を信じ義を信じ、同志を信じて進んでください。私はあなたの後に必ずついて行きます。ですから、前を向いて歩んで下さい。不安に思うことなどありません。私では役不足でしょうが、必ずあなたについていく者が、少なくともここに一人おります。」

ゆきむら、と呼ぼうとしたのだが、声がかすれてしまった。お前は戦場の無情や無秩序を体感している。人の生きる場所ではないあれは地獄ですよ、と言ったのはお前だ。お前は、戦の醜さを知っている、知っていながら、お前は未だ清らかに眩しい笑顔で言うのか。

「石田三成殿らしく、生きて下さい。私は、そんなあなただからこそ、とても好ましく思うのです。」





***
うちのみっちゃんは、戦の指揮をするのが非常に下手です。戦っていうものを、まず分かってないと思います。でも、兵糧とか弾薬とかの補給部隊の確保は右に出る者はいないぐらいです。
06/11/13






























ろ  篭絡された心臓は、ひときわ熱く高鳴った


暑い日であった。幸村が真田の兵を率いて着陣した日は、蒸すような暑さで包まれていた夏の盛りであった。
三成はその日、真田の隊が続々と進んでいく様を、山の上から眺めていた。辺りを一望出きるその高台では、人の判別は中々に困難だった。それでも、真田の隊は、武将から一般兵まで、目の覚めるような朱を纏っていた。真田の赤備えである。
三成はその中に、確かに幸村の姿を見た。共に戦場に立ったことはあっても、軍を率いている姿を見るのは初めてのことだった。
三成は、ただ一点を見つめたまま動けなくなってしまった。粛々と、粛々と、軍は進んでいく。暑い日だ。立っているだけでも汗が吹き出す、蒸すような暑さの日だ。だが、幸村が率いる真田の兵士たちは、その素振り一つ見せず、乱れることなく進んでいく。粛々と、粛々と。幸村はただ真っ直ぐに目の前を見据えている。鎧に光があたったのだろう、三成は眩しさに目を細めた。凛とした空気が、なんとも心地がよい。

「左近。俺は今この瞬間ほど、幸村が味方でよかったと思ったことはないだろう。」
幸村が三成にもたらしたものは、戦慄だった。まるで、幸村の手足のような兵達だと三成は強く感じた。この者達が全て、幸村と同様に、生を恐れず死を拒む働きを見せるのだろう。それは、幸村の武勇を知っている者なれば誰しもが感じるだろう、戦慄だ。
「流石真田、とでも言いましょうかね。本来行軍とは、こういった厳粛さを言うのかもしれませんよ。」

粛々と、粛々と、幸村は、その手足のような兵達は進んでいく。





***
BGMは『KING KNIGHT』で。

『いざ行かん甲冑の鋼を照り返し』

のフレーズに心惹かれて書きました。絵を想像するだけで、鳥肌が立つ感じがします。表現の仕方が分からなかったんですが、書きたい!っていうのが物凄かったんで、誤魔化しちゃいましたが…。いつかリベンジ!
06/11/26