大助のお話。


1 兄上と幸村
2 三成と幸村
3 対幸村
4 対慶次
5 対左近
6 対三成

































談笑をしている最中であった。信幸はふと思い出したかのような口ぶりで、そういえば、と話を切り出した。
「幸村。子はいらぬか?」
幸村はほどよく酒が回っているのか、くすくすと笑いながら、それはどのような意味で?と信幸の眸を覗き込む。幸村の澄んだ黒い瞳に射止められ、信幸はああ我が弟はなんと愛しい存在なのだと思わずにはいられなかった。
「私の子はいらぬか幸村。」
幸村はふふ、と笑いながら、ああ決まりきったことをいわっしゃる、と信幸の杯に酒を注いだ。
「欲しいに決まっておりましょう。兄上の子ならば、当然です。」
そして互いに顔を見合わせ、まるで子どもが悪戯を企むような無邪気な声を立てて、二人は笑ったのだった。





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真 田 太 平 記 の影響を受けてます、と言ったらファンの方に殺されそうな気がする。幸村があまりにもオリジナルになってきた気がしますが。
06/12/08

































「あ、こら大助!」
幸村は、勉強は嫌だ!と部屋を抜け出した大助を追って庭先に飛び出した。少し走り、大助が門をくぐる前に幸村は我が子をつかまえた。物の覚えはいいのだが、その良さが悪戯にしか活かされていないのが大助の特徴であった。まったく誰に似たのだ、と幸村は思わずにはいられない。けれどふと零れる他愛ない言葉が、幼い頃の自分と似通うところもあって、幸村はなんだか嬉しく思うのだ。
(まるで私と兄上との子のようだと感じてはいけないだろうか。)

腕の中で暴れる我が子をなんとか押さえつけながら、ふと門に目をやれば、見慣れた姿がこちらを見ていた。
茫然とした三成と、状況が把握できないと困惑顔の左近だ。幸村は能天気な声で、ああ見苦しいところをお見せいたしました、と腕の力と顔の筋肉が分離しているのではないか、と思わせるような笑顔で二人を迎えた。
「おとうと、か?」
どこかおそるおそる訊ねる三成に、幸村は具合でも悪いのだろうか、と内心首を傾げながら、いいえ、と首を振った。
「息子ですが。」
三成の手の中にあった、おそらくは団子かその類のものであろう包みが落ちた。が、左近が地面に落ちる前にキャッチする。

「 ちちうえ 」
幸村の腕の中に居る存在が、たどたどしい口調で声を発した。ん?と幼子に耳を傾ける幸村の表情が、この幼子がどれだけ大切な存在なのかを如実に語っていた。
「ちちうえのおしりあいは、としよりばかりでつまりませぬ。」
いつの間にか三成の手に握られていた扇が、みしりと音をたてたのだった。





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小田原から帰って、五歳ぐらいの子ができてたらそりゃ誰でも驚くと思います、よ(説明してないどうでもいい設定)
本当は兄上の嫡男と同い年生まれにしたかったんですが。ちなみに史実では関ヶ原が終わった後に生まれたらしいので、それじゃあみっちゃん絡まないじゃないの!と思って変更。まあなんでもあり。
みっちゃんをおっさん呼ばわりさせたいです(ファンに殺される) 左近見ても何にも言わないのに、みっちゃん相手だとごろうたいがわかづくりしてる、とか言います。可愛くない子どもだね。
06/12/08

































「ちちうえ」
と板戸を隔てた向こう側から声が聞こえた。幸村は酒が注がれていた杯を手にしたまま、おいで、と穏やかな声を出した。
「はい。」
と子どもだと思うとその礼儀正しさがどこか不釣合いで面白く感じられる口調で大助は返事をし、僅かに隙間を空けてその間に身体を滑り込ませた。

「母はどうした?」
「おやすみになられました。のみすぎないようにと、わらっていました。」
大人の中で育った大助は、年の割りにかたい言い回しを使う。だが、舌足らずなところはまだ改善されないようだ。幸村は我が子の頭を撫でながら、ふふと笑い、正座をするように言った。大助は何か叱られることでもしただろうか、と思いながら言われるままに座る。すると、今まで手にしていた杯を畳に置いた幸村は、ごろりと寝転がり、大助の太股に頭を乗せた。

「大助はよい香りがする。真田の庄の香りだ。」
実は大助もそのことを気にしていたのだが、父がとても嬉しそうに言うものだから何も言えなくなってしまった。田舎者だと馬鹿にされます、と言ったら、父は悲しむだろうか。代わりに大助は、
「はやく、おおきくなりたいです。」
と言った。大助は父に早く追いつきたかったのだ。
「ちちうえとさけをくみかわしたいのです。」
幸村は大助の言葉に返事をする代わりに、大きく息を吸い込んだ。幸村が育った、真田の庄の、青々と茂る草や木、花、澄んだ透明な空気が幸村の肺に満たされたのだった。

(ああ兄上のかおりがするような気がする。)





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うちの幸村は兄上が大好きです、と言いたかったらしいよ。五歳ぐらいの子に膝枕強要って。重たいですよね、あれ。

部屋の整理をしていて、やっぱり本棚が足りなくて、ベッドの上がえらいことになってます。現実逃避はやめて、早く買ってこないと。
06/12/10


































大助は屋敷を抜け出しては、慶次のもとを訪ねることが多い。訪ねると言っても正門から入ってくるのではなく、どこからか見つけてくるのだろう抜け道と彼が呼ぶ、小さな穴から侵入するらしい。
大助は慶次によく懐いていた。父である幸村と手合わせをする為に真田の屋敷にもよく顔を出していた。慶次はその時持参した団子が彼に気に入られたからではないか、と思っているのだが、その真偽は大助しか知らない。

大助は慶次の話をいつも楽しそうに聞いている。面白おかしく武勇伝を語る慶次と、団子を片手におお!だとかそれはすごい!だとかの大袈裟な声を上げる大助がそこにはいる。
そんな大助なのだが、幸村の話になるといっそう顔いっぱいに笑みを浮かべて、とても嬉しそうに相槌を打つのだ。
「あんたは本っ当に幸村が好きだねぇ。」
慶次がそう言うと、大助は当然だ!と何故だか胸を張った。
「おれもはやくちちうえのように、やりをもちたい。」
幸村が大助を可愛がる理由はこれではないだろうか、と慶次は思う。父の背中を見て父のようになりたいと笑う子ほど、かわいいものはないだろう。大助は言葉を続ける。
「でも、ちちうえのようなせいかくにはなりたくない。」
「面白い御仁じゃないか。人徳もある。」
それが問題だ!とでも言うように、大助はどん!と湯のみを置いた。歳に相応しくない動作だっただけに、少しだけ慶次は笑ってしまった。が、大助は気付かなかったようだ。
「ちちうえはにぶいから、おれやくさのものがくろうするのだ。」
言って、縁側からひょいと庭に飛び降りた。いつもは陽が暮れる頃まで居座るのだが、今日は早々に帰ってしまうらしい。珍しいこともあるもんだ、と慶次が思っていると、大助は数歩歩いて慶次の存在を思い出したのか、振り返り様こう言った。

「きょうはじぶのしょうがたずねてくるから、おれがもんぜんでおいかえしてやるのだ。」





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大助が暴走を始めてます。楽しい。
慶次とか左近には懐きそう。三成は嫌い。信幸殿は好きになれない。兼続は同じ人間だと認められない不思議な存在、ってところでしょうか。
06/12/10

































「しまのさこん。」
上からそう声が聞こえた。左近は困ったことにこの舌足らずの声には聞き覚えがあった。左近がため息をついていると、それを見つからず困っているのだと判断した大助が、上だ、と言う。ああはいはい、分かってますよ、木の上にいるんですよね、まったく幸村もどういう教育をしているのか。と思ったが声には出さない。まるで言われて初めて気付きましたと装いながら、左近は庭に植わっている、一番巨大な樹を見上げた。流石山で育っただけあって、山登りは得意らしい。

「しまのさこん。おれのけらいになれ。」
はあ、と気の抜けた声を出してしまった。子どもの発言は突拍子もないくせに、下手に誤魔化すと後々自分に厄介な方向へと捻じ曲がって降りかかってくるから、どうにもこうにも困ったものだ。
「それは無理な話ですな。」
「じぶのしょうなどみかぎればいい。おまえほどのおとこには、さなだがにあっている。」
明らかに子どもの言葉ではないが、ところどころ意味を理解していないのか、棒読みになっている。まったく可愛くない子どもだ。背伸びをしたくてたまらない年頃なのだろう。
「まえにじょちゅうをうまくまるめこんでいるところをみた。それほどのしたがあれば、てきをいくらでもせっとくできる。」
そう言って、俺の家来が嫌なら、父上の家来にしてもらえ!と叫んだ大助は、軽々と樹から飛び降り帰っていったのだった。





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島の左近って言い方が好きなので、使ってみた。冶部の少って言い回しも好き。ただ平仮名表記は読みにくい。
06/12/11

































丁度、慶次と幸村が手合わせをしている時に、タイミングが良いのか悪いのか、三成は顔を出してしまったようだ。縁側では、二人の様子を目を輝かせて見つめている大助が居た。最近は門前で何かと妨害を受けているのだが、慶次のおかげですんなり通ることが出来た。

一区切りついたのだろう、二人はその場に座り込んで、何やら談笑している。時折笑い声だけが聞こえた。大助にはその様はつまらなく映ったのだろうか、唇を尖らせている。すると二人は立ち上がり、どうやら井戸で汗を流してくるらしい、大助にしばらく客人(といっても三成のことなのだが)の相手をするように頼むと、楽しげに姿を消した。

しかし、大助は幸村たちが居なくなると、途端に機嫌を悪化させていた。お前はそんなに幸村が好きか、と訊ねそうになった、が、三成は慌てて口をつぐんだ。子どもにまで嫉妬をしている自分が大人気なく感じたからだ。

「じぶのしょうどのはちちうえがすきでしょう。」
確信をもった確かな響きだった。三成はさあどうやって誤魔化してやろうと頭を回転させたのだが、その思考を遮るように大助は言葉を続けた。
「おれはあんたがきらいです。ちちうえはあんたのことを、すばらしいひとだというけど、おれはちっともすばらしいなんておもえない。」
子どもの言うことだ間に受けるな、と三成は一心に念じる。
「それなのにちちうえは、じぶのしょうのはなしをするとき、とてもきれいにわらっておられる。だからおれはあんたがきらいだ。
 ちちうえのあにじゃもすきじゃない。ちちうえがとてもきれいにわらうのだ。」
俺のことは嫌いと言い張るくせに、信幸殿のことは好きじゃないと濁した物言いに、ああなんとも強かな子どもだ、と三成は思った。可愛くない子どもだ。幸村の子だ、と言い聞かせても、可愛いとは思えない。

「じぶのしょう。いくさがはじまるのはいつのはなしだ。おれはやりをもつちちうえのおすがたがいちばんすきだ。いちばんきれいだとおもう。だからはやく、いくさばでのちちうえのすがたをみたい。」

丁度その時幸村たちが戻ってきたものだから、大助は勢いよく立ち上がり、ちちうえ待ちくたびれました!と大きく手を振ったのだった。





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大助は一体何歳設定だったら不自然じゃないんだろう。
詰め込みたいことを詰め込んでみたら、おかしな文章になりました。が、気にしない(少しは気にしてください)

大助は三成のことを呼び捨てにしてればいいな、とおもいます。最初はちゃんと呼んでたけど、面倒になったらしいよ。
06/12/11