年の功


「三成。」
と聞き慣れた声で呼ばれた。三成はその声の持つ、条件反射にも似た力で無意識に足を止めてしまった。おねね様、これは俺の問題ですので、余計なお節介はおやめください。三成はそう言ってさっさとこの場から立ち去ってしまおうと思い、振り返りもせず息を吸った。声は、

「三成。」

おねね様の声で塞がれてしまった。

「お前のことだから、あたしは何もしてあげられないし、あたしがしてあげることでもないよ。でもね、」
「そう仰るのであれば!」
三成は勢いよく振り返る。おねね様が、穏やかな眼で三成を眺めていた。三成は、母の表情を見せる時のねねには何も言い返せなくなってしまう。

「お前は、言葉は言葉だと言ったよね?こんなものに力はないって。逃げるなって。でもね、三成。言霊っていう言葉があるの。あたしはね、言葉には力があると思いたいの。お前はそうやって否定しているけれど、あの子が今一番求めてるのは、曖昧なものじゃなくってね、はっきりとした形じゃないかな、って思うの。」

幸村と喧嘩をした。正確に言えば、三成が思ってもないことを喚いてしまったのだ。三成はすぐさま後悔をしたが、幸村はただ悲しそうに笑うだけだった。違うのだ幸村、俺は本当はお前のことが好きで本当に本当に大切にしたいだけなのだ。ただ、俺は思っていることを口にすることが下手な男なんだ。分かってくれ分かってくれ。だから俺のこんな言葉などにお前こそ振り回されてくれるな。
そう思っていながら、明確な言葉にしたことなどなかった。

「ねえ三成。お前はそう言うけれどね、それならどうして、好きっていう言葉一つあの子に言ってあげられないの?何におびえてるの?きっと不安なのはあの子の方だよ。」

三成はふい、と顔を振ってさっさと歩き出してしまった。ねねのため息が背にあたったが、三成は振り返ることなく曲がり角を早足で曲がったのだった。





***
おねね様が書きたくなった話。史実の関ヶ原ではおねね様の存在が結構キーになってますが、無双だと曖昧な感じになってるので、色々困ってます。きっと無双のおねね様だったら、三成が襲撃された時点で喧嘩両成敗にしてると思うんだけどなあ。絶対に豊臣を二分させたりしないと思います。夢見すぎかなあ。
06/12/20