酔っ払いの話。
幸村は幼い頃から兄と酒をくすねては、こっそりと飲んでいたのだと言っていた。なるほど、幸村の酒の呑み方には、ある意味で無駄がなかった。とりあえず最初に強い酒を呑む。常人ならば酔いつぶれてしまうような酒を最初に仰いで、酔っ払い特有の平和ボケをしたような顔になってしまう。特に何もなくとも、ふふふ、とさも楽しげに笑っているのだ。
しかしそうなっても、幸村の酒を口へと持っていく手は止まらない。ふふふ、三成殿は面白いですなあ。ああ兼続殿、ふふ、ふふ左近殿ももっとお呑みになればよろしいのに。終いには慶次の顔をじっと見つめて、何が面白いのかわからないが、笑い声が止まらなくなってしまう。初めの頃は幸村の酔い方に慣れていなくて、彼の一挙一動に驚かされっぱなしだった面々も、次第に慣れてはきたようだ。
幸村が酒を注いで回り、一通りを終え、ふらふらと座り込むと、背後からなみなみと注がれている杯を取られてしまった。
「呑みすぎだ、幸村。」
幸村は手の中からなくなった杯を求めるように、ふらりふらりと手を振った。
「もう少し、良いではありませんか。」
慶次の手にあるのを思いついた幸村は、身体を反転させ慶次に手を伸ばした。しかし幸村の手が触れる寸でのところで慶次はさっさと杯を空にしてしまった。
「これ以上酔うと、あんた眠っちまうだろ。」
「そんなことありません。慶次殿にお付き合い致しますよ。」
幸村は空になっていることも知らず、ふらふらと手を伸ばす。慶次は一滴足りとも幸村に呑ませようとはしなかった。
「そう言ってこの前も、折角一緒に布団に入ったってのに、さっさと眠っちまっただろ?」
え、と二人のやり取りを聞いていた三人が同時に振り返った。幸村は何が楽しいのか、ふふふと笑いながら、ああそんなこともありましたねぇ。今度はそうはいきませんよ、とまるで慶次に枝垂れかかるように、慶次の腕に指を伸ばした。
「ちゃんと慶次殿の相手を致しますから、今はその杯を返してくださいよ。」
***
幸村は気心知れた仲だったら、もうだらしなく酔っ払うといいのになあ。っていう妄想。色っぽくなんて書いてやらない(酷) まあ書けないんですけどね!
え、これ慶幸なの?
06/12/26