矛盾だらけなんです僕ら


幸村は残念そうな顔で、真田丸が壊されていくのを眺めていた。冬の陣ではこの出丸がどれほど徳川軍を苦しめたか、それを知る人々は、名残惜しそうな視線を送っている。
その中で武蔵は、どこか嬉々とした感情があることを隠さないでいた。ここ大阪城に戦の空気で満たされてしまうことが何よりも不快であった武蔵は、和議がなされた今、心が軽かったのだ。

「悲しいか、苦しいか。」
これは幸村の小さな城だ。城を己の手で壊してしまうのは、武将として苦痛を伴うことだろう。
「そういうお前は楽しそうだ、嬉しそうだ。」
幸村は背後の武蔵を振り返ることなく、ただじっと崩されていく真田丸を見詰めている。
「やっと戦が終わったんだ。当然だろ。」
「すぐに破棄されるに決まっている。その時、この城にはもう戦う力など残されていないだろうな。」
幸村はそう言ってようやく振り返った。真田丸の姿は既になく、ただ木材が積み上げられている無残な姿になっていた。幸村の声は、それなのにどこか楽しげであった。
「武蔵、お前は生きる為に戦う。私は、」
私は死ぬ為に戦う。武蔵はその言葉を言わせない。武蔵の盛大なくしゃみが幸村の声を塗りつぶしてしまったからだ。武蔵は鼻をすすりながら、なんだ面倒くせぇなお前は、と幸村の肩に手を置いた。

「お前も、生きる為に戦うんだよ。」

幸村は武蔵の言葉に反論をしようとしたのだが、再び武蔵は大きな口をあけてくしゃみをしたものだから、幸村はただ苦笑するしかなかった。
生きる為にと死ぬ為にと、背中を預け合う矛盾を、どうかまだ言わないで。





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突然に二人のやりとりが書きたくなりました。が、途中で見失いました(またかよ!) 眠いです。
武蔵の唾が飛んでうわ、きたないぞ武蔵!っていうやりとりをいれようと思いましたが、描写が生々しくなるだけなのでやめときました。まだ色々と夢を持ってたいの。この二人には特に。
06/12/28