「おまえは俺に、死ねと命じろと言うのか!」
幸村は膝をついた体勢のまま、真っ直ぐに三成を見つめた。三成がその視線の愚直な程の真剣さに、思わずたじろいだ。
「どうか死ねと命じてください。私の命をあなた様の為に。」
「おまえの命は俺のものではない!豊臣のものだ!俺にはその権限がない!」
勇気もない!三成はそう続けたが、幸村はゆるやかに首を振った。あなたは優しいお方。ですが大局を見誤ってはいけません。幸村はもう一度言う。
「どうか私めに、ここで討ち死にしろと、開城など認めない、最後の一兵になるまで戦って死ねと。」
幸村は言って平伏した。三成の手にしている扇がみしりと音を立てて軋んだ。
「こんな城など捨てればよい!確かにここを陥とされれば、今後の戦はつらくなるだろう。しかし、最後に勝てばよい!」
「三成殿!戦はそのようにするものではありません。詰め将棋のようなものでございます。」
幸村の視線に三成はたじろいだ。それでもなお、三成はその言葉に頷くことが出来ない。
「許可できぬ!城は捨てる!それでよい!俺にはそのような命は下せぬ!」
「家康は、命じました。命じることができる器なのです。その家康と戦をしているあなたに、それが出来ずして如何いたします!」
幸村!
三成は衝動のままに扇を投げ捨て、幸村の名を叫んだ。幸村は再び頭を垂れ、どうかどうか、ご命令を、と繰り返すばかりだ。
「幸村!そればかりは聞けぬ。おまえがいくら頭を下げたとしても、俺は聞いてやることができぬ!」
しん・・と空気が止まった。三成の肩で息をする音だけが場に響いていた。幸村はゆっくりと顔をあげ、射抜くような真摯さで三成を見つめた。迷いなどどこにもない。幸村の決意には揺らぎ一つなかった。
「三成殿。」
「いくら言ったとて無駄だ幸村。俺の方針は変わらぬ。」
「戦を私物化なされますな。勝つ為に何を成すべきか、見えているのでしょう、分かっているのでしょう!なれば、それがどれだけ穢れた道であろうとも、進むべきなのです。」
それでは失礼!幸村は三成が止めるのも聞かず、その場を後にしたのだった。
***
関ヶ原の前の戦の、伏見城の話。にいつも感動します。鳥居殿…!ってなります。泣ける。
この話になる流れがまったく分かりませんが。
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