ひどいはなし。
ひ 引っ掛かる。 兄上
ど どうしても止められなかったのです。 十勇士
い いちばんのりはだれでしょう 左近と幸村
は はいつくばる 武蔵と幸村
な なあ、の続きが繋がらない。 三成と幸村
し 死にたくない、と言ってみたい。 兼続と幸村
引っ掛かる。
では、そろそろ。
と兼続が腰を上げたその時。幸村は、あ、と声を上げた。兼続がどうした?と振り返る。幸村は一つだけよろしいですか?と再び座るように無言で促した。強かに酔っていた三成だけが、遅れて幸村に視線を向ける。
「兄上は徳川につくでしょう。父上が説得しても、兄上の意思は変わらないでしょう。」
幸村は軽い口調で言うが、それは家が二つに分かれてしまうという意味では、真田の命運がかかっている事態である。兼続の顔色が険しくなった。
「その時兄上は、おそらく秀忠の軍に加わることになるでしょう。」
幸村はやはりなんてことはない、と言った様子で言葉を続ける。
「臆病な徳川のこと。兄上を先発にするようなことはできますまい。兄上に限って寝返るようなことはありませんが、徳川は兄上のことを信用できていません。ですから大丈夫だとは思いますが、」
「幸村、何が言いたい?話の流れが読めないのだが。」
幸村はにこりと二人に微笑んで、続きをつないだ。ああお前も意外に酔っ払っているなあ、と兼続はのんびりと思った。大概自分も酔っているらしい。
「もし兄上と戦うことと相成りましたら、私は迷うことなく撤退いたします。お二人にはそのことを了承していただきたく思います。どうかご容赦のほどを。」
***
01/07
どうしても止められなかったのです。
ばさり、と陣羽織を翻して、幸村は床几から立ち上がった。手勢は既に少なくなっている。一戦交えた後だった。
「これより三成殿の援護に向かう!死にたい者はついて参れ!」
ひらり、一歩を踏み出す度に、ひらりひらりとその背後には気配のない影が、ゆらりゆらりと増えていく。
「佐助、才蔵。道を切り開いてくれ。小助、十蔵、六郎。援護を頼む、自侭にやれ。他の者は私と共に、さあ死のう。」
ばさりと陣羽織を落とし、いつもの鎧が姿を見せた。辺りから小さな歓声がした。流れるような動きだったのだ。
「幸村さまぁ〜、あ・た・し・は?」
ぴたりと背後についたくのいちに、幸村は振り返ることなく言う。
「もちろん、私の背後を護ってくれ。私もお前の背を護ろう。」
口許が笑っている。ああ楽しいんだこの人は。負ける気などさらさらない、この負け戦をひっくり返すのが。くのいちの目にも笑みが広がる。
「りょ〜・かい!冶部少の怒った顔が目に浮かぶにゃ〜。」
まず小助がくのいちにつられて笑い出した。ついで望月の六郎、十蔵に移り、幸村の周りをかためている者全員にその笑いが感染した。幸村もさも楽しそうに笑っている。
「そなたらの命をくれ。さあゆくぞ。」
真田隊出陣の法螺貝は高らかと鳴ったのだった。
***
幸村の隊は最強なんですよ!と言いたかったんです、うん。
01/08
いちばんのりはだれでしょう
名を呼ばれ、幸村は振り返った。常に気を配っているわけではないが、声の具合からして少なくとも一丈は離れているだろうと思ったわけなのだが、振り返るとすぐそこに声の主の顔があった。予想外のことに幸村も驚き、少しあとずさってしまったのだが、困ったことに声の主は追い撃ちをかけるように、幸村の身体を壁に押し付けた。
「あの〜、左近どの?」
無意識に逃げようとしたのだが、遮るように左近の腕が壁に立てられた。壁と左近の腕とで小さな牢屋のようなものが出来てしまった。しまったこれでは逃げられない。
「これは、あの、いつぞやの復讐かなにかでしょうか?」
武田の頃、今と同じように左近に迫られた時、あろうことか幸村は左近の股間に蹴りをお見舞いしてその窮地を脱したのだが。もしや、それを未だに根に持っているのでは、と幸村は思ったのだ。
実はあの時と今とでは若干理由が異なっている。武田時代の真実は、左近が同僚とした賭けが原因なのだ。酔っ払った左近が謀れた賭けで見事に負け、それの罰ゲームとして、何故だか幸村を襲う、という形になってしまったのだ。いや、襲うということよりも、その結果もたらされるだろう幸村を可愛がり隊のメンバーからの強烈な折檻こそが罰ゲームだったのだが。あれはひどかった、こわかった、と左近は思わず思い出してしまい、ひとりぶるりと身震いをした。
その様子を不審に思ったのか、拘束されている立場でありながら幸村は「大丈夫ですか?」と左近の顔をのぞき込んだ。ああきっと、幸ちゃんは自分が何をされるのか分かってないんだ。うわぁすっごい悪いことしてるんじゃね俺?と左近は思ったが、何しろこちらも賭け事の最中である。手を抜いてはいられない。
「左近どの?具合が悪いようですし、部屋に戻られたらどうですか?」
「少しばかり俺に付き合ってくれたらな。」
ああそういうことでしたら。幸村はにこりと笑った。同時に腹部に強烈な痛みを感じた。
「そちらが実力行使なら、こちらも同様の手段をとるまでですよ。」
あまりの痛さに腹を抱えざるを得ない。その隙を幸村が見逃すわけもなく、ひらりと壁際から退く。
「では、左近殿、色々とお大事に。」
ぺこりと頭を下げ、幸村は去っていったのだった。
左近が悶絶している背後では、同じように何かしら手ひどい報復を受けた者々が、ああやっぱり駄目だったか、と疲れた顔で左近を見下ろしているのだった。
***
誰が一番に幸ちゃんにちゅーを出来るか闘争。だといいなあ。
色んな人でやりたい。とりあえず三成とかねっつはやりたい。
あと、左近は幸村のことを幸ちゃんって呼んでるといいなあ妄想が突然に発生したんで、それで。武田の頃にみんなにそうやって呼ばれてたから、左近もうつった。で、幸村はみんなに呼ばれてたから気にしない、っていう。
あ、この幸村最ッ高に可愛くないね!(いい笑顔)
当サイトは、受けにS気があります(なんて設定だ!)
01/08
はいつくばる
幸村は最後の確認の為、鎧や槍を磨いていた。これで最後の戦になるだろう、と思うと自然に丁寧な手つきになる。
その時だった。無言でがらりと襖が開き、珍しく怒りで顔を歪めている武蔵がそこに立っていた。幸村は一瞥をくれただけで、また再び手元に視線を戻した。
「道明寺に軍を進めるんだってな。」
ああ、と素っ気なく幸村が返事をする。武蔵は幸村の目の前に立ち、手にしているものを全て奪い、横に乱暴に置いた。幸村は咄嗟に武蔵に目を向けたが、それも一瞬のこと、顔を反らしてふふ、と笑った。今の武蔵の神経を逆撫でするような、穏やかな笑みだった。
「霧で進軍不可能だって話だったろうが!何でお前らはよってたかって死にたがりな連中なんだよ!ああ豊臣は負けるだろうよ、お前ら頭のいい連中がそう言ったんだ、間違いねェ!それならよォもっとやるべきことがあるだろうが!」
幸村は何も言わず、武蔵が横に除けた武具に手を伸ばした。武蔵は幸村の名を喚きながら、鎧を跳ね除けた。勢いあまって壁まで転がっていった武具が、やけに大きな音を立てて柱にぶつかった。幸村はそれでも何も言わず、今まで鎧が並べてあった布をじっと凝視している。
「何も死ぬことはねェ!生きろよ!俺はお前ほどの奴をみすみす見殺しにするのが惜しくてならねェ!又兵衛の旦那もそうだ、勝永もそうだ!何よりあの大将を、お前らは殺すことになるんだぞ!それでもいいのか!」
「 武蔵。 」
静かな幸村の声であった。怒り心頭の武蔵をゆっくりと冷ましていく、穏やかな声であった。
「お前は何に対して私たちを惜しいと言う?戦ばかりの生涯に、お前は何を惜しいと言う?たとえ生き残ったとて、既に血塗れだ。どのように生きればいいのかすら、見当がつかない。」
「そんなもん、俺が教えてやらァ。死んじまったらそれで終わりじゃねェかよ。戦以外の生き方見つけることも出来ねェよ!」
ふふ、と幸村は声を出して笑った。冷ややかな笑みであった。武蔵は思わず口を閉じてしまったが、すぐにまた言葉を継いだ。
「もう武士の肩書きを捨てていいんじゃねェのか?!あんたらは出来た御仁だ!いくらでも、生きていく術はある!俺が保証してやらァ!」
だん!!と幸村は利き足を踏み出した。それは一瞬のことであった。武蔵の腰に差してある刀を抜き、武蔵を押し倒して畳に突き刺した。ぎりぎりと、幸村の力で柄が呻いていた。馬乗りになった幸村が武蔵の顔を覗き込みながら、ぎりぎりと歯軋りをした。
「武蔵、それ以上私たちの誇りを汚すな!何も、何も言うな!」
畳に刺さる時に頬を掠っていったらしい、ひりひりと痛んだが、武蔵はそれには構わず、幸村に手を伸ばした。おそらく切れているだろう頬の箇所を、幸村の頬に見立てて撫でた。
「お前、馬鹿だなあ。捨てちまえばいいのに。」
「容易に捨てられるものではない。ましてや、捨てる気などさらさらない。いや、持ち続けていてもここで捨てたとしても、私は苦しむだろう。」
武蔵は手合わせを終えた後のように、にかりと笑った。そして、やっぱお前大馬鹿!と笑ったのだった。
***
幸村がプッツンするの書いてみたかったよ、っていう。
武蔵と幸村の考え方の違いを表現したかったんですが、やりすぎた感があります。
01/08
なあ、の続きが繋がらない。
はらはらと桜が舞っていた。三成はその姿にただ焦燥する。何故だかは分からなかった。あんなにも淡い桃色をした花びらが、その儚いままの色で、咲いたそばから散ってしまう。待て、と手を伸ばしたかったが、何を引き止めたいのか分からず、結局毎年その散り様を心苦しく見つめているだけだ。
三成の屋敷の庭には、だからこそ桜がない。城にも一本とて植わっていない。三成が頑固拒否したからだ。それなのに、三成は毎年のように桜を見ている。
「気分が優れませんか?」
幸村の声だ。どうやら幸村は桜なり草木なり、自然を眺めることが好きらしい。殊のほか桜は別格なようで、庭に植わっている桜を、春といわず夏といわず、よく障子を開け放して眺めている。蕾すら色づいていない時期から、それこそ葉を全て落としてしまった寒々とした枝すら、幸村は愛でているようであった。
「肌寒いですか?でしたら障子を閉めましょうか。」
幸村は膝の上の花びらを払いながら、立ち上がった。
「三成殿、閉めますので、どうか中へお入りください。」
片方の障子を閉める。もう一方へと手を伸ばした時に、
「いい。」
とぶっきらぼうな声がかかった。
「お前はまだまだ見足らぬようだ。お前の好きにすればいいだろう。」
三成は早口で言い、素早く立ち上がった。幸村がどちらへ?と訊ねれば、雑務に戻る、と返答。幸村の部屋には息抜きで来ていただけに、幸村も引きとめる言葉がない。幸村は去っていく背中に、お疲れのようですから程ほどに、とだけをぶつけた。
幸村は柱に背中を預けて、ゆっくりと桜を見上げた。はらはら、はらはらと花びらが散っていく。強い風が吹けば、たくさんの花びらが散って、幸村にまで運ばれた。
(あの方はおそれているのだ。この桜のように死んでいくのが、おそろしいのだ。ああ、ああ、)
幸村はその場に蹲る。廊下の板は冷たかったが、反面舞い降りてくる桜の花弁は温かかった。
(私も、桜に取り憑かれてみたいものだ。あの人のように、この儚さをおそれることができたらいいのに。)
***
ひどいはなし、だ。意味が分からない!
うちの幸村は、縁側でぼんやり桜を眺めてるのが好きなんですよ、というはなし。ではありませんが。
01/08
死にたくない、と言ってみたい。
『拝啓 兼続どの
米沢での生活はどうですか?
九度山の春はとても寒いです。
春という季節の意味を忘れてしまいそうな程です。
米沢ではまだ雪が続いているのでしょうか?
兼続殿のことですから、仕事に忙殺されているのではありませんか?
・
・
・
ではまた、文を書きます。
どうかご自愛の程、お忘れなきよう。
幸村。』
幸村はしたためた書状を一瞥し、ぐしゃりとにぎり潰してしまった。迷惑だろうかそれとも少しは気を紛らわしてくれるだろうか。そう思いながらしたため始めるのだが、書いていくうちに段々と表情が消えていく。最後にはああこんな意味のないものを、とぐしゃぐしゃにしてしまうのだ。
「ねぇ幸村様、それで何回目?」
くのいちが目の前でそれを問う。言葉の通り、目の前である。何とか眼球がくのいちの姿を認められる程ちかくに。
「……。」
幸村は無言でそっぽを向き、ごろりと畳に寝転がった。その数刻後には、自分が無残にもぐしゃぐしゃと潰してしまった書状を、とても大切なもののように扱い、皺の一つ一つを伸ばす。そうして出せない手紙を、宝物のように桐の箱にしまうのだ。
「ねぇ、」
「私はこわいのだ。」
「裏切ったのはあっちでしょ。狸になんか尻尾振っちゃって。」
幸村はゆっくりと起き上がり、皺くちゃになった、墨の這った紙をするりと撫でた。捨ててあげる、とくのいちは手を出したが、幸村は首を振ってしまった。
「裏切ったのは私の方だ。くのいち、私が死んだら、兼続殿の目の前で、積もりに積もったこの紙束を、燃やしてくれないか。」
届けないの?届けないでくれ。
今、届けてあげよっか?小助に頼めば書き直してくれるよ?いいや、私が死んだとしても、これは届けないでくれ。
幸村はそう言って、奥にしまっていた桐の箱を取り出して、胸に抱えて眠ったのだった。
(きっとこの人にとってあの箱は、悪夢を見るためのものなんだ。幸村様は、あの男が地獄の閻魔様を引き連れて復讐しに来るのを、今もじっと待ってるんだ。)
くのいちはしばらくの間幸村の寝顔を見下ろしていたが、諦めたように息をつき、幸村の隣りに彼と同じようにごろりと寝転がったのだった。
***
兼←幸ではありません、断じて!
九度山での話。にゅ、ニュアンスで読んで!
01/10