政宗が、大坂に宛がわれた部屋の襖を開ければ、そこには幸村が座っていた。縁側から庭を眺めつつ、背後の気配に気付いたのだろう、振り返った幸村はふわりと笑って「ああ政宗殿、お邪魔しています。」と悪びれた様子もなく言ってのけた。
政宗は正にその一言で機嫌を悪くした。多忙な政宗なのだが、今日は偶然にも一日空きができたのだ。それなのに幸村は、先約がありますので、ときっぱり政宗の誘いを断ってしまった。三日前の話である。その当の本人が、今ここで見るからに暇そうに庭を眺めている。
「何のつもりじゃ幸村。」
「今日は、三成殿、兼続殿と城下へ参る予定でした。」
政宗は会話にその名が飛び出しただけで眉を寄せたが、幸村は気付いていながら知らん振りをして、つまらなさそうに庭に視線を戻した。政宗が隣りに腰掛けたのを、気配ではなく板が軋む音で知った。
「けれどもあのお二人もお忙しい。どうしても外せぬ仕事が出来てしまったので、私は一人暇を持て余しているのです。」
時々、どうしたらいいのか分からなくなります。あの方達と共に居ることに、息苦しさを覚える時があります。それは、あの方達が私とは違う空気を吸っているからなのでしょう、違う音を聞いているからなのでしょう。私はただただ、息苦しくなるのです。

幸村はただ身体を弛緩させ、ぼんやりと庭を見つめている。

あの方達は、あまりにも私と生き方が違うのです信念が違うのです。戦の中を育ってきた私に、三成殿は戦を捨てろとおっしゃいます。血と硝煙が入り混じったにおいを懐かしがる私に、兼続殿は忘れてしまえとおっしゃるのです。

けれども幸村は何も言わず、「暇な者同士、良いのではないかと思いましたので」、と呟いた。政宗も同じタイミングで幸村を見たが、ふんとつまらなさそうに鼻を鳴らしただけであった。

兼続や三成との付き合いをやめろ、と政宗はいつも言っている。しかしそれが本心でないことを互いに知っていた。政宗は生まれた時から嫡男であり、伊達家を盛りたてる為に生まれたといっても過言ではない。幼い頃から父親のその願いを背負ってきたからこそ、今の政宗がある。同じように、幸村は生まれた時から次男であり、決して家を継げぬ立場であった。幸村はそれを当然のことのように思っているが、だからなのだろう、幸村は己という壁が薄い。自分がいなくなったとしても、家は続いていく、という認識が根底にあるものだから、自己が薄いのだ。政宗は伊達政宗という名である限り己を見失いはしないだろうが、幸村は護るべきものを落としてしまった途端、自分が無くなってしまうのだろう。三成や兼続は、幸村のよき歯止めでもあるのだ。そう考えるのであれば、感謝こそすれ嫌う対象になるのはおかしな話だが、あの二人は幸村の支えになると同時に、幸村の牙を削いでいるのだと、政宗は思っている。幸村の眸が戦場で、背筋がこおるほど見事に光ることを、あの者達は知らぬのだ。

「幸村。一度あやつらと手合わせをしてみろ。もちろん本気で、じゃ。怪我の一つ二つぐらい負わせてやれ。」
幸村が、ひやり――笑った。
「おまえの勝ちはその場におらずとも分かるがな。」
幸村の眸に竦み上がれ怯えてしまえ!
わしはその幸村の眸を好いたと言えるが、貴様らにはそんな度量すらあるまいからな!
政宗はそうした妄想の中で笑った。政宗は己のように生きろと言う二人がどうしようもなく嫌いなのだ。

幸村は想像でもしてみたのだろうか、うっすらと笑ったが、すぐにその妄執を振り払った。私を知っているあなただからこそ、私は今日、誰よりもあなたに逢いたかったのです。そんな甘い響きすらある声で幸村は言った。
「できませんよそのようなこと。ええ出来ぬのです、出来ぬのです。」
ふふ、と幸村が笑うと、政宗は憮然とした表情でごろりと寝転がり、幸村の膝に頭を乗せたのだった。





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もう、書いててよく分からなくなった。ダテサナ週間だぜ!と思って何かをやろうとしましたが、何かよく分からなくなってきてやめました(カミングアウト) 最近頭つかった話が書けない。無理矢理考えようとすると、自分でも収拾できない話に発展する。ああいやだ、馬鹿が進行してくよ。
01/13