廊下の角を曲がると、丁度幸村の後姿があった。三成は一瞬躊躇ったものの、幸村の身体半分は部屋へと入りかけていて、慌ててその腕を掴んだ。幸村、と名を呼べば、はい、と幸村が勢いよく振り返った。
三成は思わず、強く幸村の腕を引いてしまった。力の加減がつかなかったのだ。幸村の身体は引っ張られるままに少しだけ三成の方へと傾いたが、そこは鍛錬を怠らぬ幸村である、すぐに反応を示した。けれども、縮まった距離はどうしようもなかった。幸村は咄嗟のことに反応しきれず、三成は彼がもう少し踏ん張れると思っていたこともあり、強く腕を引いてしまったのだ。

(、近い、)

二人とも、この距離にそう思った。相手の吐息が触れるほど近くに、互いは身体を寄せていた。
時が止まった。三成はまさに目の前に存在する幸村にかけるべき言葉を失っていた。何分、近すぎる。もっと離れなければ、俺はらしくないことを口走るに違いない。三成は己の足が動けぬ代わりに、幸村の身体を突き飛ばそうとしたその時であった。
「三成殿。」
幸村がこの至近距離で三成の名を呼んだ。三成の肩がわざとらしいほど大袈裟にはねた。
「しっかり寝ていらっしゃいますか?私などが心配することではないかとは思いますが、多忙な様子をお伺いする度、やはり気になってしまいます。」
幸村の空いている方の腕が、三成の顔に伸びた。何事だ!と三成は心中思いながら、幸村の更なる言葉を待つ。

「目の下に隈が出来てますよ。今日はお休みになられてはいかがですか?」

触れる、直前に幸村の指先が三成の目の下を示した。え、あ、ああ、と意味を成さない呻りを三成の心がこぼした。
「では、失礼致します。どうぞ、御身体ご自愛の程を。」
幸村は笑顔を浮かべ、一礼をして部屋の中へと姿を消したのだった。





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ヘタレ三成。これ基本。だと思うのですが…!
まあ三幸というよりは、三→幸なのですが。これも基本だと思います。
どうでもいい設定を色々入れようとしたんですが、眠気に負けました。うぉ、眠い…。
02/07