幸村は突然に兼続の部屋へと呼ばれた。部屋へと来てみれば、茶の用意が既にされていて、あとは幸村の来訪を待つのみとなっていた。どうしたものか、と部屋の入り口で戸惑っていると、何をしているのだ、入りなさい、と兼続が手招きをする。仕方なく腰を下ろすものの、正直、兼続の点てる茶には集中できないだろうな、と幸村は思っていた。兼続が使用する茶器は高価な物が多く、茶器を持ち上げるところから、飲み干して更に元の通り畳の上に置くところまで、気が抜けないのだ。そう簡単に落とすものか、割れるものか、と思ってはいるものの、中々どうして手は震えてしまうのだ。
「兼続殿、私はどうも茶は…、」
兼続が茶を点てる前にそう切り出したが、作法を知らぬわけではあるまい?と逆に勧められてしまった。
「何、緊張する必要もないよ、相手は私なのだから、多少の端折りも親しいからこそだろう。」
兼続はそう笑いながら、軽やかな動作で茶を点て終えてしまった。幸村は目の前に置かれた茶器を恨みがましくにらみつけながら、ではいただきます、と手を伸ばしゆっくりと手にとった。ああやはり、これはかなり値のはるものでしょう、三成殿であれば気を配ってくださいますが、兼続殿はどうも無頓着ですので、ああ私なんぞにこんな高価なものを出してしまって。幸村は心の中で嘆くが、ちらりと兼続に視線をやれば、何が楽しいのかにこにこと笑っている。ああもう、私は小心者なのですから、緊張するのですよ。言ってやりたいが、言ったとて通じないことなど分かっていた。きっと兼続には緊張で手が震えたり足が震えたりする経験などないのだろう。

「それでだな、幸村。呼び出した理由なのだが、ああそう身構えるな、完璧な私用だ。」
姿勢を正そうとする幸村に兼続の制止の声をかける。幸村は兼続の言葉に従って、少しばかり背筋を伸ばす程度にとどめた。
「不義の山犬との関係はどうだ?良好か?」
幸村と政宗は、傍目からすれば恋仲と呼んでも仕方のないことだろう。しかし本人たちにあまりその意識はなかった。何より二人は情を交わしたこともなければ、接吻の一つもしたことがない、せいぜい幸村で暖をとろうと引っ付いている程度である。幸村は返答に困り、曖昧に笑った。
「ふん、あの山犬もうまくやっているようだな。早くぼろを出してしまえばいいものを。」
兼続は、妙なところで大人げがない。これが三成の言葉であれば、己の思いはどうであれ、幸村と親しい者をこうも見下して呼びはしないだろう。けれど兼続は、そういう意味では容赦がない。幸村が政宗に好意を向けていようが、お構いなしである。
「では、兼続殿。」
幸村は常日頃穏やかな性であるが、時折、子どものような悪戯を仕出かすこともあった。からかうというよりは、言葉遊びを楽しんでいるようでもあった。
「いざと言う時は兼続殿のところに泣きついてもいいということでしょうか?」
突然の幸村の言葉にきょとんとしていた兼続だったが、ああそれは面白いな、と思ったのだろうか、そうだとも幸村!不義の山犬は討たねばならんからな!と高らかに叫んだのだった。





***
幸村は子どもじゃないし、兼続三成にとっても親族というわけではないので、そこまで介入してこないけど、やっぱりいい顔はしないだろうなあとか。
どこがダテサナかって話ですが。相手が三成だったら、かねっつもここまでひどいことにならないと思ったので。
私きっと、兼続書くのが好きなんだと思います。こいつの矛盾したところとか、意味わかんないところとか、書いてて楽しいのかもしれません。

色々中途半端ですが、うう眠い…。
02/11