政宗はがさがさという音に、四散させていた意識を庭に向けた。茂みが不自然に揺れている。明らかに誰かがその中にもぐっている。侵入者であればこれ以上間抜けな忍びはいないだろう。さて、どうしたものか、と政宗は億劫そうに息を吐いた。
茂みの中の人物が動きを止めた。葉のすれる音が多少は小さくなったのだ。その一瞬の空白の後、その人物はゆっくりとし茂みの中から顔を出した。幸村であった。
「…幸村、おぬし何をしておる。」
政宗は我ながら、と思ってしまう程呆れた声を出してしまった。あの真田幸村がこんなにもわざとらしく政宗の屋敷へと忍び込んだのだ。曲者だ、無礼だと思うよりも、ああこやつはまたどうして変なところが抜けているのだろう、と思ってしまった。しかし幸村は己の間抜けっぷりが理解できないのか自覚していないのか、四つんばいの体勢で茂みから這い出、ああ政宗どの、といつもと変わらぬ笑みを向けた。髪には葉が数枚付着し、淡い色を好む幸村の着物はところどころ土で汚れていた。が、頓着せぬ幸村は軽く裾をはたいただけであった。
「かくれんぼをしておりました。」
「どこに隠れようかと探しておりましたら、どうやら政宗どののお屋敷にまで辿り着いてしまったようで。」
幸村の言葉に、政宗は繕うことも忘れて呆れた視線を幸村に注いだ。
「兼続どのが言い出したことなのですが、何分懐かしく思えましたので、ついつい。」
つい、ではないわ馬鹿め。政宗は条件反射のように言葉を返した。大の男が寄ってたかって何をしておる、隠れ鬼など童の遊びであろう。政宗はたたみ掛けるように言うが、幸村はその切り替えしを予想していたのか、ええそうですね、私もそう思いますよ。と笑っている。
「気晴らしには丁度良いではありませんか。どうです?政宗どのも参加されませんか?」
馬鹿めどうしてわしがあやつらと馴れ合わねばならんのだ!政宗がそう叫ぶのと、遠く三成や兼続、更には左近や慶次の、幸村の呼ぶ声が聞こえてきた。政宗はあからさまに顔を顰めて見せた。
「早く去ね、幸村。わしの屋敷が跡形もなく消え去ってしまうわ。」
「はいそうですね。では私は隠れ場所を探してさ迷いますので、くれぐれも私の行き先は告げぬようにお願いしますよ。」
幸村はそう言って微笑むと、来た時と同じように茂みの中へと入っていく。
「幸村。」
「はい?」
「隠れ鬼は好まぬが、目隠し鬼なればいずれ付き合ってやらんこともないぞ。」
幸村は振り返って政宗の顔を見た。表情は変わってはおらず、さっさと帰れわしのところで騒動を引き起こすでない、と言っていたが、幸村はくすくすと笑いながら、約束、取り付けましたからね?と念を押して姿を消したのだった。
段々と近付いてきた声は大方兼続辺りだろう。不愉快極まりない大音声で、
「この先には伊達屋敷がある、もしや幸村はそこに誘拐されたのではないか?!」
との台詞に、政宗は頭を押さえて大きくため息を吐いたのだった。
***
この後、塀を爆破して突入してきたご一行に、政宗は理不尽な尋問を受けると思います。「幸村はどこだ幸村をどこに隠した?!」「それを見つける遊びだろうが!!」とか、そんな会話。左近と慶次は巻き込まれただけなのに、慶次はその状況を楽しんでると思います。
どこがダテサナだ、って感じですが。
ううん、目隠し鬼辺り、かな?(曖昧)
03/30