「左近殿、」
背中に幸村の声がぶつかった。出来るだけ会わないように、出来るだけ二人きりにならないようにしていた左近だったが、今回ばかりは先回りをされたようだ。
「何の真似だ幸村。」
それはこちらの台詞です。幸村が左近との距離を詰める。左近もついには観念して、幸村の方へと振り返った。
「俺はあんたの傷を抉りたくないだけだ。実際、しんどいんじゃないか?」
「左近殿は、私を幼い上に弱いと記憶していらっしゃるようで。」
それは仕方がないだろう、武田に居た頃のお前さんはいくつだったか覚えてるか、俺も結構若かったし、お前さんも相当幼かったぞ。
では、その幼い子どもを押し倒したのはどこのどなたで。
俺も若かったからな。それに、あんたは素直に押し倒されるたまじゃない。
でも、素直に押し倒されたじゃないですか。
不毛な会話だ。左近はため息を吐いてその言葉の応酬を切ってしまった。
「別に今、そのことに触れる必要はありませんでしたね。認識を違えていたのなら、訂正して覚えておきますよ。」
左近はそう言って、さっさと会話を終わらせようとする。幸村の脇を通り抜けようとした、その瞬間、幸村は左近の腕を握った。思わず左近の歩も止まる。
「私はあなたが思っているより、弱くはありませんし、幼くもありません。ほら、あなたにも自ら触れることも、できるようになりました。」
幸村はそう言って笑った。その笑顔だけは左近の記憶と変わらなかった。左近は幸村の成長が何よりも嬉しかったが、どうもこれではこちらが負けているような気がして、ついつい意地を張ってしまった。ぐい、と掴まれている腕を引けば、幸村が左近の方へと引っ張られた。
「まだまだ甘いぞ幸村。隙あり、だ。」
ぴん、と幸村の額を指で弾いた左近は、予想外の反撃に驚いた幸村が思わず離してしまった手から、ひらりと逃げ出したのだった。
***
初心に戻るどころか、何か自分設定を入れすぎた気がする…!下品だ!
04/22