一人左幸祭り。の前哨戦


1 それは、キミへのあいでしょう
2 何か見つけたかったんだ
3 『人間が存在するその理由はなんだ?』
4 『オレンジの電車 いちごの匂い』
5 (無題)
6 『左胸で踊り狂う』女体化!






























それは、キミへのあいでしょう


左近は夜も更けた時分、縁側に腰掛け、書を読んでいた。月明かりがほのかに手元を照らしている。目で字を追うには少々心もとないものがあったが、内容は暗記している、大した問題はなかった。

そこへ、である。ふらりふらりと、明らかに酒に浮かされた足取りで、幸村が現れた。どうやら酔いを醒まそうと廊下を歩いていたようだ。幸村は左近に気付き、にこりと微笑んで、その手元にあるものへと視線をやった。途端、酔っ払いらしからぬしっかりとした足取りで左近へと近寄り、左近が視線を落としていた書物を覗き込んだ。
「こ、これはもしや、お館様直筆の…!」
「ああ、信玄公に頂いた孫子の、」
「ください!」
え、と思う間もなかった。幸村はゆるく掴んでいた左近の手を振り払って、その書物を奪い取ると、さっさと懐にしまってしまった。そして、ではこれにて、とでも言う風に背を向けてしまった。待ったをかけたのは、左近の右手だ。素早く立ち去ろうとする幸村の着物を背後から掴み、ぐい、と力任せに引いた。そこはやはり酔っ払いである。左近の力には敵わず、ぐらり、と左近の方へと幸村の身体が倒れた。
「頂いてはいけませんか?!お館様が写本したものなのでしょう?!是非是非!」
「最ッ初から貰う気満々のヤツが何言ってんだ。ほら、返せ、幸村、いい子だから…!」
「いいじゃないですか!どうせ内容は頭に入っているのでしょう?!」
背後からがしりと捕まえられている幸村だが、中々に抵抗は激しい。左近の腕を振りほどこうと暴れていた。左近も、幸村がここまで強引な手段をとらなければ二つ返事で了承しただろう。大人気ない、と左近自身も思ったが、人とは不可思議なもので、誠意のない行動には手厳しくなってしまうようだ。左近の選択肢から、幸村にあげる、というものはなくなってしまったようだ。
返せ、嫌ですください欲しいのです、だから駄目だと言ってるだろう。そう押し問答が続く。左近はああもう、これではきりがない、と実力行使に移った。背後からなので少々困難だが、幸村の着物の合わせ目に手をすべりこませたることに成功した。そのまま抵抗の激しい幸村の懐を探る。が、中々それらしいものが見つからない。もう少し大人しくしていてくれ、と更に声を張り上げようとした、その時であった。


「左近、お前、幸村に何をしている。」


幸村にばかり神経を使っていて、背後のおそろしい気配には全く気付かなかったようだ。左近の動きが止まる。幸村も三成の殺気にも似た気配に、そのままの体勢で顔だけを三成へと向けた。そこで初めて、今自分達がどういった風に他人に見えているのかを知った。
(これはどう見ても、嫌がる幸村の胸元をまさぐってるようにしか見えませんよねぇ…)
しかし立ち直りが早い幸村は、乱れている胸元を直すと、懐の書を取り出し、ではこれは頂いておきますね、とさも嬉しそうに微笑み、三成殿、部屋に戻って飲み直しませんか?と、修羅か阿修羅のような三成を恐れることなく声をかけた。
(どうせならそのまま酒を浴びる程飲ませて、今夜のことなど吹っ飛ばしてくれ、幸村。)
その思いが通じたのかは定かではないが、幸村は三成の背をぐいぐいと押し、ほらほらお早く、と部屋へと誘うのだった。





***
くだらない話が書きたかったのだ…!(そんな)
糖度はありません。うちの幸村は子どもだ、左近は大人気ない。こんな調子の話が続くと思います(ちょ、おま)
05/01






























何か見つけたかったんだ


「左近どの。」
突然そう呼びかけられて、左近は足を止めた。振り返ってみたものの、人の姿はない。はて、気のせいか、と首を前に戻す、と、そこにこそ左近の名を呼んだ張本人が、目と鼻の先で立っていた。振り返った体勢を戻すと同時に足を踏み出していたら、確実にぶつかっていただろう。
「…幸村、あんまりからかって遊ぶな。」
「左近どのともあろうお方が、私なんぞの児戯のような気配の消し方で気付かずにいらしたので、ついつい面白くなってしまって。」
「…。」
左近はため息を一つ吐いて先を急いだ。三成に呼ばれている。遅れても大して怒りはしないだろうが、それが幸村と談笑をしていた、とでもなったら、確実に仕事は二倍三倍となって返ってくるだろう。
「以前、私の気配の消し方はなってない、とご指摘いただいたので、数年の成果を見て頂きたかったのです。」
左近は、三成の目に幸村がどう映っているのか知らない。だが、左近に言わせれば、まだまだ遊び盛りの悪戯盛り、悪ガキのくそガキに大差なかった。
「はいはい、成長しましたよ。気配の殺し方は大したもんだ。だがな、」
左近は後ろをついてきている幸村に気付いていて、ぶつかりそうな距離まで引きつけてから、勢いよく振り返った。幸村は先程の自分と同じことをされたのだが、やはり突然に顔が目の前に現れるというのは、中々びっくりするものらしい。目を丸くして左近を見つめている。左近は幸村の目に映る自分を見ながら、ぴん、と幸村の額を指で弾いた。
「あんたの目は素直すぎるから、こういった駆け引きはまだまだだな。あんたはまだまだ、青二才だ。」


丁度この場面を、兼続に見られていたとは、左近もまだまだ詰めが甘いのだった。




***
オチは大概一緒(駄目だ!)
幸村が幸村じゃなくなってきた…(超今更だネ!) シリアスでも出来るネタでしたが、明るい話にしたかったので、誤魔化しました。
楽しいのは私だけだと気付いてますが、止める気はありません。
お風呂入ってネタしぼり出して来ま〜す。
05/01






























『人間が存在するその理由はなんだ?』


左近は何ともなしに振り返った。背後の気配が動いたような気がして、多少気になったからだ。だが、背後の彼は、動いたような、ではなく、確実に距離を詰めていた。詰めるというよりは、接近していた。膝をついたまま身を乗り出し、左近の方へ腕を伸ばしている。片腕で身体を支えているものだから、その片腕をちょいとつつけば、ごろりと畳を転がるだろう。そう思ったがやめた。そんなことをしたら、多分に彼は自分の方へ倒れこんでくるに違いない。

きょとんとした顔をしてた幸村が、その数瞬の沈黙に、ついには耐えられず噴き出した。幸村の吐息が左近の顔にかかる。なにゆえ、こんなに顔が近いのだろう。
「幸村、接吻されたいのか。」
「そんな、冗談でも言わないでくださいよ。真昼間から不埒です。」
「俺も殿に殺されるから御免だ。」
ふふ、そうですね。幸村はこれこそ冗談だと思ったようで、顔をほころばせた。己がどれだけ三成に影響を与えているのか、全く分かっていないのだ。毎度毎度理不尽な仕打ちに耐えている自分の身を少しは考えて欲しいものだ。そう思った左近は、意趣返しも込めて幸村の腕に軽い衝撃を与えてやった。倒れる方向までは自分では操作できぬ程度の衝撃である。と言ってもこぶしでちょいとつついただけなのだが、幸村は簡単に畳の上を転がった。伸ばされたもう一方の手が、まるで縋るように左近の髪を掴む。痛い痛い、引っ張るな。あ、抜けてしまいますからね。そこまで歳じゃない!と言葉の応酬の後、幸村は引っ張っている手を緩めた。手の平をすべる左近の髪の感触を楽しんでいるようだった。
「左近どのの髪は相も変わらず、きれいですねぇ。」
「そう言うあんたは、相も変わらずガキくさいな。」
思わず左近の髪に触れる手に力を込めてしまったものだから、左近のきれいな髪が二、三本抜けてしまったのだった。




***
左近の髪は美しいなあと言いたい話。
幸村は左近の髪で鬘を作ったらきっと綺麗なものができるんだろうなあ、と何となく思ってます。いや、売ったり誰かにあげるわけじゃないけど、なんとなく。
05/01































『オレンジの電車 いちごの匂い』


野良だろうか。縁側でぼんやりとしていた幸村に寄ってきた猫は、我が物顔で庭を横断し、幸村の膝の上に座り込んでしまった。元々小動物は好きであったし、動物もそういうことが分かるのか、向こうから寄ってくることもしばしばあった。幸村は人に慣れた様子の猫に気をよくし、その喉元を撫でる。ごろごろと気持ちの良さそうな音を立てて、そのまま幸村の膝の上で丸くなってしまった。

春の陽気である。ついつい幸村も膝の上のぬくもりに感化され、うとうととしていた。が、今まで大人しく眠っていた猫が突然に立ち上がり、幸村が引きとめようと思う間もなく、居なくなってしまった。猫は気まぐれだから、と思い、さて書でも読もうか、と腰を上げかけたその時である。にゃーにゃーと猫の声と共に、覚えのある気配を感じた。

「あの、左近どの、何をしてるのですか?」
左近が猫を引き連れて現れたのだ。左近は困ったように肩をすくめた。
「あんたの屋敷に寄ったら、この猫がしつこく付いてくるんだよ。」
その猫は、先程まで幸村の膝でぬくぬくとしていた、なんとも無遠慮な猫ではないか。さっさとどこかへ行ってしまったと思ったのに。幸村は今更ながら、左近と猫との組み合わせのちぐはぐさがおかしくなって、ついつい笑ってしまった。左近もその辺りのことは自覚しているのか、苦笑をもらすばかりである。
「そんなことより。ほら、団子だ。あんたが好きな甘味屋のものだぞ。」
「ありがとうございます。わざわざ行ってくださった、わけではないとは思いますが、とても嬉しいです。」
どうせなら今食べてしまいましょう。こういうものは早めに食べた方がおいしいですよ。と幸村は自分の隣りを指した。左近にも断る理由はない。じゃあお言葉に甘えて、と幸村の隣りに腰を下ろした。

包みを開けると、ふわりと甘い匂いが漂う。幸村は何度嗅いでも飽きないその香りに頬を緩ませながら、左近に一本、自分にも一本団子をとった。

先程の猫である。幸村がさあ口に運ぼうとした途端、幸村の膝に乗り上げ、幸村から団子を奪おうとしてくるではないか。幸村は猫が前足を伸ばしても届かないところにまで持ち上げるが、このままでは自分も食べれない。
「こら、私の団子はやれないぞ。そっちの優しそうなお兄さんはきっとお前にくれるだろうから、そっちにねだってくれ。」
猫相手に通じぬ言葉だが、幸村も必死だ。左近は猫と幸村とのやり取りをにやにやと眺めるだけで助け舟を出してはくれなさそうだ。彼の手の団子が半分程消えている。幸村はそんな左近をうらめしく思いながらも、猫との攻防は続く。
「だから、私ではなく、そっちの、」
ちょっと腹黒そうな、と言いかけたのだが、声にはならなかった。幸村の人差し指と親指とが支えていた団子の串が、とうとう団子の重みに耐え切れずに、幸村の手を離れてしまった。あ、と慌てて掴みなおそうとするのも間に合わない。そのまま地面へと一直線。見事に猫のものになってしまった。
「あー…。」
「残念だったな幸村。だが、まだ団子はあるだろう。そっちで我慢しろ。」
「ですが、みたらしはこれと左近どのの分とで、二本しかないのですよ?!」
非常に残念そうな幸村の声に、左近も流石に可哀想かな、と思ったのだろう。幸村の食に対する執着は、昔から少々行き過ぎたところもあった。左近は仕方がない、とため息をついて、
「ほら、口開けろ。」
と団子を差し出した。別に左近に食べさせてもらう理由はなかったが、みたらしのたれが付着していない串の部分は非常に狭かったから、渡すよりもこちらの方が手っ取り早い。幸村は顔を輝かせて口を開いた。団子はみたらしが好きだ。けれど三色団子ももちろん好きだし、餡がかかっているものも、もちろん好きである。

もぐもぐ、ごくん。と一連の動きを見守った左近は、一口でいいのか?と問う。左近の手にある串には、あと一口分だけ残されている。幸村は一瞬迷ったものの、団子の誘惑には勝てず、もう一度口を開いたのだった。





***
あーん、パク を少し具体的に書いてみました。猫に団子取られる幸村ってお間抜けですね(コラ) うちの幸村は暇すぎますね。でも暇だと思うのですよ。人質生活なんて特にすることないだろうし。きっと隠れたところでちゃんと槍の鍛錬をしてると思いますよ。
05/01
































幸村は左近に背をつけて、抱えた膝の間に顔を押し付けていた。合わせている背が小刻みに振るえている。左近は幸村の今の心情を悟る。
「幸村。」
声をかければ、ぴくりと僅かに反応した。が、顔を上げた気配はなかった。

「泣け、とは言えん。泣くな、とは言えん。
 だが、笑え、とも言えん。笑うな、とはいっそう言えん。
 うらめ、とも言えん。うらむな、など尚のこと言えん。
 だが、だがな幸村。うらんでもいい、とだけ俺はお前に言ってやる。」

その言葉が、左近の立場から言えるただ唯一の許容である。空気が揺れた。幸村は泣いているのか笑っているのか。それとも心が喘いでいるのか。左近からは見えないし、最初から覗く気はない。幸村は、そこまでの許容を望んでいないだろう。

「あなたは、卑怯です。」
幸村は人を恨む術を知らぬ。人を憎む術を知らぬ。ゆえに、苦しいのだろう。左近はその苦しみを解き放つ方法を知らぬ。その苦しみを軽減する方法を知らぬ。分かち合う方法すら知らぬ。

「あなたは卑怯です。卑怯です、と言いながら、うらむ術を知っていればよかった、憎む術を知っていればよかった。あなたでなくとも、何かを忌むことができればよかった。」
「幸村、だがお前は、」

「私は知っていることがあまりに少なすぎました。あなたは、知っていることがあまりにも多すぎました。それゆえの、共有です。」

幸村はそう言うと、再び顔を伏せて、泣いているのか笑っているのか、それとも笑いながら生を呪い、泣きながら死を喜んでいるのか分からぬ顔を、誰からも見えないように蓋をしたのだった。
左近は幸村の衝動が治まるまで、じっと幸村の聞こえない喘ぎ声に耳を澄ませるのだった。




***
ひっどい話だ。ギャグも書けてシリアスも書ける人は本当にすごい人ですね。ニュアンスで読んでください(またかよ)
05/02






























『左胸で踊り狂う』


薄暗い灯りの中、二人は向き合って沈黙を共有していた。幸村の膝の上、無意識に握っていたこぶしに自然力がこもる。左近はそんな緊張した幸村の様子に微笑ましさを感じながら、話を切り出した。

「幸村、俺はお前の夫である前に、主に仕える家臣だ。よって幸村よりも殿を優先することは当然だ。お前のことは二の次三の次になってしまうこともたくさんあるだろう。」
はい、はい、と幸村は神妙な様子で左近の話を聞いている。
「だが、お前には常に家を守っていて欲しい。お前のことを疎かにするかもしれん。だが、厭うているわけではない。むしろお前のことを信頼している。だから、周りに何を言われようが、お前との時間が少なかろうが、無闇な勘ぐりはやめてくれ。お前を妻にしたいと思った気持ちは、一生のものだと思っている。」
「それは覚悟の上です。左近どのは存分にお仕事に励みになってください。私はどこまでもお供致します。」
「悪いな幸村。」
「いえ、これも妻の務めなれば。むしろ誇りに思います。」
幸村、左近どの、自然と二人の距離が縮まり、影が重なる、まさにその時であった。深夜であるにも関わらず、近所迷惑な音と共に、障子が小気味良い音を立てて開いた。突然のことに、二人の動きも止まった。

「左近!幸村を不幸にするとは不届き千万!幸村に寂しい思いをさせるぐらいならば、出仕などせんでもよい!よし!決めたぞ。月に一度は家族の日を設けよう。」
「幸村、見事な愛だ!流石だ!だが島殿は忙しい身!もし別居と相決まったら、私の屋敷にいつでも身を寄せるがいい。いつでも歓迎するぞ!」

ぽかん、と同時に発せられた二人の言葉を聞いていた左近と幸村だが、早々に立ち直った幸村は、お二人らしいお気遣いですね、と笑っていた。とりあえず、石田家家臣である以上、左近にプライバシーやプライベートといった言葉は無縁であるらしい。




***
やっぱり明るい話で締め。眠いのだ、寝ます。
05/02