「幸村、今帰ったぞー。」
左近が玄関の扉を開けた。幸村も台所からスリッパの音をぱたぱたと上げ、左近を迎えた。帰宅を知らせるメールが届いたのは五分程前の話だったろうか。幸村も帰宅したのか左近一人だったら、ここまで慌てはしなかったが、何分、左近からの連絡には、
「「幸村、すまんな邪魔するぞ。」」
上司の三成と兼続が一緒だ、ということであった。幸村も二人とは個人的に親しくしており、夕飯を温めるだけのもてなしでは、幸村の性格が許さない。幸村は三人を迎えながら、こっそりと左近に耳打ちをする。
『いつも言ってるじゃないですか。お二人をお連れする時は事前に教えてくださいよ。』
『帰りに急に決まったんだ。仕方がないだろう。』
内緒話をする仲の良い二人に、三成がわざとらしく咳払いをし、何とか中断させた。幸村はすぐに、すいません!と軽く頭を下げ、どうぞリビングへ、と二人を促す。何度も家に上がっている二人だ。慣れた様子で部屋の奥へと進んだ。
「大したものはありませんが、どうぞごゆっくり。」
幸村はそう言いながら、今晩のおかずだったのだろう、煮物や和え物、漬物などを酒と一緒にテーブルの上に置いた。急ごしらえで何品もおかずが出てくる辺り、大したものだろう。三成は幸村の料理に感心しながら、テーブルの下から左近の足をつねる。毎日食事に気を使っている幸村の様子を見、ちょっとした腹いせがしたかったのだろう。三成は二人の仲を応援しているが、よりにもよって左近と添い遂げなくとも…という想いがないわけではない。高校、大学の後輩だけあって、幸村を大切に思っている。兼続もそれは同じだが、義と愛を掲げる彼だけあって、二人の仲を純粋に祝福していた。無意識に彼らの口から零れる惚気話をもう片方に報告しては、からかって遊んでいる。
「あの、それでご飯の方はどうしましょう?」
「俺と兼続は軽く食べてきたが、左近は付き合いが悪くてな。酒しか呑んでいない。」
「では、左近殿には茶漬けでも…、」
そう言って幸村が立ち上がった時であった。間抜けな腹の音がリビングに響いた。特別大きな音ではなかったが、あまりテレビを好まぬメンバーゆえ、テレビの音量はほとんど消えているようなものであった。
幸村は己の腹を恨みながら、この沈黙に耐えかねて、顔を赤くして声を上げた。
「す、すいません。お恥ずかしい限りで…。すぐにお持ちしますね!」
幸村はそそくさとその場を去る。
左近は幸村の様子に笑いをかみ殺していた。自分の帰りまで食事を待っている幸村が可愛くて仕方がないのだろう。
三成はその間抜けな左近の横顔をちらりと見た。その幸せそうな横顔が妙にイラッときた三成は、とりあえず、左近が食事をすませなかった理由が、『幸村が待ってますんで』と言ったことを、幸村には教えないでおこう、と思った三成だった。
***
基本設定。
左幸コンビはらぶらぶ(人が見る限り) 時々くだらない喧嘩をして、惚気か!と他人にツッコまれる。
三成は、何かひねくれ。幸村大好き(弟みたい、という意味で)
兼続はフリーダム。義と愛を掲げながら、「浮気するならうちにおいで。」と左近の目の前だろうと構わず口走る。
06/17