左近は三成の部屋へ、頼まれていた書簡を届けに来たのだが、珍しくも主は筆を放り出して縁側で一息入れているようであった。いつもは左近がいくら注意をしても自ら進んで休息をとろうとしない三成だけに、左近も、ああこの人も自分で体調の管理が出来るようになったのか、としみじみと思ったものである。そうして黙って出て行こうとも思ったのだが、ある一点を凝視したまま動かぬ主に、はて?どうしたことか、と左近は三成に声をかけた。
「殿、殿、しかめっ面で何を眺めているので?」
三成の隣りに立ち、ようやく合点がいった。いや、本来ならば疑問符が増えるところだが、そこは左近である。理解は早かった。
「幸村に会いたかったら、呼べばいいじゃないですか。」
そこまで差し迫った仕事はありませんし。
左近は言いながら、呆れたように笑った。三成の視線の先には、鍛錬の汗でも流しているのか、上半身をさらしながら水浴びをしている幸村の姿があった。
「あいつは、いつものことながら、あまりに無防備すぎるのではないだろうか。」
「それは本人に言ってください。左近は知りません。」
「あのように肌をさらして…。背後から突然襲われたらどうする。」
「その時は鳩尾に一発、でしょうな。」
「笑顔の大安売りも感心せんな。押し倒されたらどうするつもりだ。」
「まあ、普通に投げ飛ばしますよ。」
「……。」
「……。」
三成は小さくため息をつき、ついでに舌打ちをした。左近に聞こえるような、わざとらしい舌打ちであった。左近も慣れたもので、三成の行動一つ一つに一々目くじらをたてたりはしない。
「お前はそれでも俺の同志か?!貴様の言葉が一つとして響いてはこぬぞ!」
「いや、幸村の様子を見てれば自然と分かると思ったんですが…。この前も城下で五、六人と大立ち回りを演じてましたよ。」
「何?!貴様、それで、もちろん助太刀に入ったのだろうな?!城下も物騒になったものだ!これではおちおち幸村を使いにやることも出来ぬではないか!」
「いや、あの、殿。お願いですから現実見てください。」
「今後は護衛をつけねばなるまい。いや、だが、それこそ信頼できる者でなければ、余計に不安になるな。左近、も、いやいや、この男とていつ何時どう転ぶか分からぬ。やはり、俺が…!」
「とのー、その辺りでお仕事に戻ってください。」
***
馬鹿な殿が書きたかったんだ…!(言い訳)
うちの幸村はバイオレンスです。襲われたら無意識に投げ飛ばしてから、現状に気付くタイプです。
08/21