1 兼続と幸村
2 伊達と真田
幸村は荒い息を吐きながら、だるい腕に鞭打ち、どうにかその槍を引き抜いた。抜いた途端、じわりと血が滲む。
「幸村、そこは心ノ臓ではないよ。」
「……、」
「急所でもない。そこを突いたとて、私は死ねない。」
「……、」
幸村はただただ、荒い呼吸を続けるばかりで兼続の言葉には答えない。酷使された腕は、すでに握力がなくなりつつあるのか、かたかたと小刻みに震えていた。
「いたずらに時を過ごして、お前はどうするのだ。早くしなければ、お前も炎に巻かれてしまうぞ。ああそうだとも!私はお前がそれを望んでいることを知っている。知っているが今のお前には、命よりも大事なものができてしまったからな、その選択ができないのだ。」
「…兼続どの、もうやめましょう。上杉は豊臣に降って下さい。今となっては、それが上杉を繋ぐ道ではありませんか。」
「お前はかわいいことを言う。だが、それも叶わぬよ。お前は時として、三成以上の理想論者だな。」
「、あの頃をもう一度と、そう願う私は愚かでしょうか。」
***
ひどい文章…。
武蔵の章の江戸城です、多分。
08/31
後ろ手に縛られた手首が今更になって痛んだが、幸村は表情には表さなかった。戦場で負った傷には丁寧に手当てが施されており、息をするにも身体全体が軋んだ数日前とは雲泥の差であった。幸村は強い意志をともした瞳を、じっと目の前の人物に向けた。座らされている体勢であるから、自然見下ろされる形ではあったが、幸村は彼の人の鋭い眼光を受けても怯みはしなかった。流れるようによどみのない、見惚れるほど堂に入った動きで、その人物は静かに刀を抜いた。曇りなどまったくない、研ぎ澄まされた刀の切っ先が幸村に突きつけられる。しかし幸村は動揺はしなかった。先と同じ視線を向けるばかりである。
「…何故私を死なせてはくれませなんだ。なにゆえ、豊臣と共に死なせてはくれませなんだ。」
ふん、と息を吐き出した彼の人は、突きつけた切っ先を微動だにすることなく、短く笑い声を上げた。不愉快ではないと言えば嘘になるが、こうして人を煙に撒いてしまうのがそもそも彼である。幸村は言葉を待った。
笑いの衝動が去るのは早かった。伊達政宗は、あの声であの笑みで不遜に吐き捨てた。
「貴様の命、わしが拾ったわ。なればこそ、豊臣なんぞの為に死ぬなぞ、まかりならん。貴様は伊達の為に生き伊達の為に武働きをし、わしの為だけに死ねばよい。」
***
伊達の章の大坂の陣の後。の設定でちょっといじりました。でもダテサナの幸村は大坂の陣で死んでこそ幸村だと思うのでこの設定は使いません。
09/02