だからとてもかなしい as far as I know様
だ だって君が濁ってしまうじゃないか
か 勝手に歩けこっちを見るな
ら 烙印が残るべきは私の方だった
と 途切れ途切れの後悔をつないで
て 適当な記憶じゃ悲しみようがない
も もっと醜い君ならよかったけれど
か かつての現実はいまや亡霊でしかなく
な なんで幸せなんだろう
し 知らないでくれ
い いまなら言えてしまうなんて
だって君が濁ってしまうじゃないか
ばしゃり、と勢いよく水をかけられた。それは容赦なく幸村の顔にぶつかり、鼻の中にまで進入した。つん、と鼻が痛くなったが、幸村は呆然と武蔵を見つめることしか出来なかった。ぽたり、と幸村から垂れた雫は、彼に付着していた泥やら血やら、最早区別がつかぬ汚れをさらっていったようで、透明な水の色ではなくなっていた。幸村は視界の端で、その雫を動きを追う。
「馬鹿なこと考えるなよ、幸村。お前は時々、ひどく傲慢だぞ。」
「そう言う武蔵は、」
いつも傲慢で、でもその傲慢すら優しい。
***
09/09
勝手に歩けこっちを見るな
「追い討ちをかけるぞ。敵は一兵たりとも逃すな。さあ、皆の者、私に続け。」
幸村はそう叫び、武蔵の横をするりと抜けて行った。血を吸った鎧が重い。振るい続けた腕はまるで鉛のようだ。それでも幸村は足を止めなかった。待て、と武蔵の声が確かに幸村の耳を通り過ぎていったが、幸村は聞こえなかった振りをした。
「待てよ。」
武蔵が幸村の腕を掴む。武蔵の指が幸村の腕に食い込んだ。むさし、はなしてくれ、はなしてくれ、そしてわたしのことなどきにせず、さっさとこのいくさばからいなくなってくれ。
けれどその思いを口にすることはなく、幸村の短い吐息が漏れただけだった。
「もう勝敗は決まってる。もういいじゃねぇか。逃げたい奴は逃がしてやれよ。お前が今生きてるのは、天正の頃じゃねぇ。」
幸村は強引に武蔵の腕を振り払った。武蔵が苛ついたように眉を寄せたが、幸村は己の顔を彼に見られるのをおそれて、顔を合わせようとはしなかったから、幸村は武蔵の表情には気付かなかった。傷つけただろうか、落胆させただろうか。幸村はそれを確認しなかった。
「皆、進軍は止めてくれ。本陣に帰還する。怪我をした者には肩を貸してやってくれ。皆でゆうゆう帰ろう。」
ああ、私は、きっとひどい顔をしているに違いない。
***
09/10
烙印が残るべきは私の方だった
武蔵、武蔵、と先程から名を呼ばれ続けているが、その名の主は決して振り返ろうとはしなかった。聞こえていない振りをしているのだ。幸村が彼の名を口に出し、彼の鼓膜を震わせる度、握り締められている拳の力が、強くなったり弱くなったりと反応を見せていた。
武蔵、武蔵、いい加減こちらを向いてくれ。
そうでなければ、とりあえず止まってくれ。
武蔵、私はお前に話さなければならないことがあるから、だから私の話に耳を傾けてくれ。
「なあ武蔵、」
そんなに怒るな、と幸村が続けようとしたのだが、結局その先を彼に告げることはなかった。武蔵が唐突に足を止めると同時に振り返ったからだ。
「うっせぇ!俺は別に、お前からのありがとうもすまないもいらねぇよ!そんなチンケな言葉が欲しかったわけじゃねぇ!」
「ああ、知っている。」
幸村の言葉に、武蔵は再び踵を返して、歩みを再開させた。自惚れるなよ幸村。俺は別にお前の代わりに直江兼続を斬ったわけじゃない。大将の為だ、この戦を終わらせる為だ、そんでもって俺の為だ。ああでも、お前の為、なんて安っぽい感情が結局は俺の根底にはあって、お前の都合のいい眼はどうしてもその事実を真に受けようとはしなくって。お前はすごく強いやつだから、たとえお前が兼続を討ったとしても、お前はきっと笑っているだろうけど、俺はきっと、その笑顔だけは好きになれない。だから、俺はあの男を斬ったんだ。
***
09/13
途切れ途切れの後悔をつないで
「武蔵、私は思ったのだが、」
そう言って話を切り出すことは、幸村にしては珍しいことだ。あまり我を主張したがらないのが幸村だが、武蔵は、きっとこの男は、あまりにも我が強すぎるから、それを抑えよう抑えようとしている内にそうなってしまったのだろうと思っている。
何だ?と言葉を返す代わりに、武蔵は幸村を一瞥した。遠い過去を偲ぶ、穏やかな顔をしていた。
「きっと人は、一生の内に何か大きなことを成し遂げて死んでいくのだろう。」
三成は家康の禄の十分の一も持たぬ身でありながら戦を挑み、それゆえ身を滅ぼしてしまった。
兼続は謙信が育てた上杉を枯らさぬよう、必死に立ち回っている。
幸村はそれを嘆くわけでもなく、ただぼんやりと眺めているようだった。
「きっと、それは武蔵にも当てはまることだろう。お前はきっと、人を活かす剣を見つけるだろう、そしてそれを己の中に埋没させることを良しとしないはずだ。」
武蔵が幸村の思考を断ち切ろうと慌てて口を開いたが、それよりも先に幸村が先を紡いだ。
「私は一度として人の生を羨んだりしたことはないが、ただ、己の中の使命を見つけたお前が、少しだけ、羨ましい。」
ああ馬鹿な話をしてしまった、らしくない話をしてしまった、幸村はそう言って笑った。武蔵がちっとも笑い飛ばしてくれなかったから、幸村がそれをしなければならなかったからだ。
「なあ幸村、お前がそういうんなら、お前の使命、俺が作ってやる。お前は、俺の隣りで、俺がどうやって人を活かす剣を見つけるか、見届けるんだ。」
幸村が目を真ん丸にして武蔵を見たから、武蔵はにんまりとした笑みを浮かべた。
「俺にとっちゃあ、こんな楽な見物人はいねぇ。お前は俺が気を抜いた顔がどんだけ間抜けか知ってるし、昼寝ん時の呆け面も知ってる。」
ああ名案だ!と武蔵は呟いたが、互いにそれがどれ程の傲慢かも知っていた。
***
09/14
適当な記憶じゃ悲しみようがない
その日、空は憎らしい程に晴れ渡り、気持ちの良い風がそよそよと吹いていた。武蔵はその心地良さに酔い、ああ今日は鍛練も何もかもやめて、このまま寝転がって空を見上げながら寝てしまおうか、とふと思ったほどであった。隣りに立っている、同じように空を見上げている幸村も同様に感じたのではないだろうか。幸村の空気は穏やかだった。
「また会おうと別れを告げて、そのままもう二度と会えなくなってしまった人がいる。」
幸村は空を見上げたまま言う。この空の色が何かに重なったのだろうか。幸村が昔話を語る時、決まって彼の表情は穏やかであった。武蔵は、過去に縋ることなく、ただ過去の出来事を思い出として美化している幸村の強さに素直に感心したけれど、反面、その事実が悲しかった。この男は、きっと何でもかんでも受け止めてしまって受け入れてしまって、どんなに悲しくて苦しくて、そんな出来事も全部思い出に昇華してしまう男なのだ。そんなもの、時々は受け入れることを拒絶して吐き出してしまえばいいものを、幸村はそれをしない。武蔵は、だから幸村が穏やかに語る昔話を素直にそのままを信じたりはしない。この男は、きっと何かを受け入れて、何かを捻じ曲げて過度に理解をしてしまって、そうして美化してしまった昔話を語るのだ。武蔵は自分が完璧な人間だと感じたことは一度としてないが、同時に幸村をそつのない奴だと思ってはいても、どこか欠けた人間だとも感じていた。喜怒哀楽の哀が、どうやら"にぶい"らしいのだ。
「私は本当にその人を好いていたのだけれど、どうやら私は薄情らしい。何故だか、最後に見た後ろ姿ですら、おぼろげなんだ。」
幸村の表情を僅かにゆがめた。武蔵は空から視線を一切そらさなかったが、ああきっと幸村は、そうして笑っているんだろうなあとぼんやりと思った。この男は、悲しい切ない、と嘆きながら笑うのだ。難しい奴だと武蔵は感じていたが、武蔵自身、悲しい切ない遣る瀬無いと途方に暮れながら怒るものだから、こちらも難しい男であった。
「だからだろうか、悲しいというよりは、何やら寂しく思えた。」
そう言いながらも、愛しい恋しいと空を見つめるのだ。武蔵は空を眺める振りをしながら、ちらと幸村の顔を見た。
それはきっと、幸村がとった無意識の自己防衛であって、幸村はきっとその人が自分よりも先にいなくなってしまうことを知っていて、だから記憶の隅っこに、けれどもどん!と居座ってしまったのだろう。
(俺は、そんな隅っこに追いやられて満足するような、出来た人間じゃない。)
武蔵は不機嫌そうに唇を尖らせ、ぐいと幸村の顔を両の手で挟みこんだ。強引にこちらに顔を向かせる。幸村は突然のことに驚き、抵抗せずに今まで空を眺めていた瞳に、武蔵の顔を映した。
「武蔵、痛いぞ。」
幸村は笑いながら抗議したが、武蔵は取り合わなかった。誤魔化そうたって、俺はそうはいかねぇぞ!と幸村の顔を挟み込んでいる手の片方で、むぎゅ、と頬をつねってやった。幸村は武蔵の行動の意味が分からないのか、知らん顔を通しているのか、どうしたんだ武蔵、と笑う。
「俺はぜってぇお前より先に死なねぇ。だから、その目ん玉にこれでもかって程、焼き付けやがれ!」
きょとんと幸村が首をかしげたが、すぐに意味を悟ったのか、今度は大きな声で笑い出してしまった。武蔵はああそうだよ、俺は自意識過剰で、更に言うならものすごく自惚れ屋なセリフをお前にぶつけちまったんだよ!と顔を赤くした。
風が幸村の軽やかな笑い声をさらっていく。空は憎らしい程に晴れ渡っていた。
***
09/18
もっと醜い君ならよかったけれど
たとえば、目の前に立つあの男。
ちゃんとした人斬りであったなら、
人を活かすなど夢物語と早々に見限っていたなら、
賊を斬った返す刀で民を屠っていたなら、
その刃が絶えず赤く染まっていたなら、
その時、目の前の、天下無双を背負った男が振り返った。幸村は咄嗟に目をそらしてしまった。武蔵は、なんだよぅと軽口を叩きながら、刀を振って血を払った。
「お前のことを考えていた。」
「冗談言うなよ幸村。お前は俺のこと考えるのに、眉間に皺なんて作るのかよ。」
「冗談ではないぞ。ほら、武蔵、青に赤は合わない。」
今度は武蔵が眉間に皺を寄せる番であった。その色を何に置き換えたのか、幸村は言わなかったし、武蔵も告げなかった。幸村は武蔵の言葉を待ったが、すぐには口を開かなかった。行こう、戦況の報告をしなければ、と幸村が踵を返す。待て、待てよ、と武蔵が咄嗟に幸村の腕を掴んだ。
「でもよ幸村、青と赤を並べると、ほら、互いに引き立て合ってるだろう。」
武蔵は己の羽織りの端を握り、幸村の具足に重ねた。幸村は目を細めて、その異色を眺めた。
(それでも、お前の志に血の色は似合わない。)
***
09/23
かつての現実はいまや亡霊でしかなく
「私はお前のことを何も知らない。だから、少しだけ調べさせてもらった。」
武蔵は遊ばせていた筆の動きを、幸村の言葉でぴたりと止めた。遅れて、武蔵は顔を上げ幸村と顔を合わせる。が、すぐにまた手許に視線を戻してしまった。うん、と気のない声が返ってきた。
「そう思ったのだが、何やらずるい気がしてやめてしまった。」
今度は勢いよく顔を上げて、目が合った途端、気まずそうに顔を顰めた。それを隠す為か、やはり手許へと視線を落とした。どっちだよ、と武蔵はぶっきらぼうに訊ねたが、武蔵の反応を見る限り、彼が望んでいる答えは後者であろう。
「たとえば武蔵が、勝永どのだったり、又兵衛どのだったりに私の過去を聞く。私にもかつては同志がいて知己がいて、過去の私を、お前はそうやって知る。そして無意識に、目の前にいる私と、過去の私を照らし合わせようとする。」
幸村は毎回武蔵が何を描いているのか気にはなったが、決してその途中を見ようとはしなかった。彼の心を覗いてしまうようで、幸村は一歩を踏み出せなかったのだ。
「でもそれは、武蔵の知っている真田幸村ではなくなってしまうような気がして、だから、何となく嫌だと思った。きっと、私が知っている宮本武蔵は、武蔵という男のちっぽけな片鱗なのだろう。けれど私は、その片鱗を武蔵の全てだと思ってこうして会話をしている。それを突きつけられるのが、嫌だったんだ。」
「多分俺は、俺ん中に閉じ込めちまった亡霊を、少なくともお前にだけは見つけて欲しくないんだと思う。俺は、目の前に居る真田幸村だけで手ェいっぱいで、お前の過去まで知っちまったら、きっと色んなものを落っことしちまうような気がする。」
「お前が、武蔵でよかった。」
「何だよそれ。褒めてんの?貶してんの?」
いつもの調子が戻ってきたのか、武蔵は筆を置いて幸村に向き直った。幸村もいつものように笑みを作る。
「さあ、どっちだろう?」
幸村の言葉に、武蔵は何だよぅ、と唇を尖らせた。幸村はその様子を見て、声を立てて笑った。
(けれど、武蔵。三成どのと私が懇意であったことをお前が自然と知っているように、私も、お前と佐々木小次郎の決闘を自然と知っているぞ。)
それを口に出したら、この男はどんな顔をするだろう。幸村はけれど、その思いを口にすることはなかった。幸村もまた、目の前の宮本武蔵という存在だけで、既に手一杯だったからだ。
***
09/26
なんで幸せなんだろう
幸村は寝泊りをしている部屋への道すがら、ぼんやりと考え事をしていた。既に辺りは暗く、夜空にはぽっかりと大きな月が鎮座していた。青白く光っている月が灯り代わりであった。
幸村は先程まで秀頼の近くに侍っていた。久しぶりに幸村を近くに置いた秀頼とは、多くのことを語った。
部屋へと戻ると、そこには珍しく武蔵が居た。きちんとした寝床よりも雑魚寝する方が性に合っている彼は、幸村が誘っても中々夜の酒にまでは付き合ってくれない。武蔵は縁側に腰掛け、ぼんやりと空を眺めていた。青白い月は、けれど、時折雲に隠れてしまって、その全てを晒してはくれない。幸村はこの夜の静かな空気が好きだったから、物音を立てることも厭い、こと静かに武蔵の隣りに腰を下ろした。
幸村は、秀頼がこぼした他愛ない一言を、今も考え込んでいる。幸村の中の理屈と秀頼の論理とが合致しなかったからだ。
「なぜ人は幸せを求めて生きるのだろう。なぜ、求める先が幸せなのだろう。」
声に出したつもりはなかったが、武蔵はその振動を読み取り、幸村へと顔を向けた。顔には呆れたような表情が張り付いていた。
「また面倒なこと考えてんな、お前。」
「、そうだな。」
幸村は決して不幸な生を送ってきた、とは思っていない。むしろ、人よりもたくさんの幸せを感じてきたと思っている。けれど、幸村のそれはあまりに一過性のものすぎていて、幸せとはいつか消えていく思い出なのだと悟っている節があった。それゆえ、あたたかな記憶と共に虚無感がいつも付いてまわる。幸村の難儀なところは、その虚無感を含めて"幸せ"という言葉を形成している所だ。
「なあ、幸せっつうもんは、そんな難しく考えるもんか?俺なんかは安い奴だから、隣りに幸村が居て、このでっかい月一緒に見れたら嬉しいし、ここに団子でもあったら、それが俺にとっちゃあ幸せだ。」
幸村は武蔵の言葉に、ゆっくりと月を見上げた。ああ見事な月だ、と心の中で呟く。
「確かに、そうだな。」
あーそれにしてもいい月だ!きれいな真ん丸だ!と武蔵は隣りではしゃぐけれど、幸村ははて?と首をかしげた。
「しかし武蔵。中秋の名月は、昨日のことだぞ。」
***
09/26
知らないでくれ
「振り返るな。」
幸村のきっぱりとした声に、武蔵は一瞬、何を言われたのか理解ができず、思わず振り返ろうとしてしまった。幸村は武蔵の腕を掴んでそれを押し留め、もう一度、
「振り返るな。振り返らないでくれ、」
と懇願するように言う。
幸村はある種、特殊な琴線の持ち主であった。武蔵の冗談に、どうしてこんなに笑っていられるのだろう、と武蔵自身思う時もあれば、どうしてこの男はにこりともしてくれないのだろうという時があって、きっとそれは幸村の中の特殊な法則に基づいたものであろう。しかし武蔵はその法則が未だ分からない。手探りで何度も試みてはいるのだけれど、未だその法則の欠片すら分からない。
「幸村、」
どうしたんだよぅ、と武蔵は唇を尖らせながら言う。ここが戦場であったのなら、武蔵も何となくは分かるのだ。戦直後の幸村は、それはそれは物凄い顔をしていて、物凄い気を纏っていて、それはもののふと呼ばれるものそのもので、きっと武蔵には理解できないものだから、幸村は必死に隠そうとするだろう。
だが今は違う。普通に談笑をしていて、ふと何気なく武蔵が前に立ち幸村に背を向けて、ぽつりと独り言のような言葉をこぼしただけなのだ。その一言が、幸村の琴線に触れたのだろうか。だが、それを発した武蔵は、己の口から飛び出たはずの言葉を思い出せなかった。それ程までに他愛ないものであったからだ。
「なあ幸村、」
俺はお前の何を見ても聞いても、びびんねぇし幻滅しねぇし、まあ驚きはするだろうけど、でも、
「多分、俺の知ってる真田幸村に変わりはねぇと思うんだ。」
幸村が短く息を吐いた。ああ笑っているのか、と武蔵は空気の振動でそれを感じたが、幸村の手は未だ武蔵をその場に押し留めていて、振り返ることをさせてはくれなかった。
「ああ分かっている。私の知っている武蔵は、そんなちっぽけな男ではないから。」
ああでも駄目だ、駄目なんだ武蔵。私は、お前に見られて聞かれて、お前にそうやって知られてしまうことをおそれているんだ。そうやって知ってしまったことを呪う私に、一番におびえているんだ。
「でも、まだ振り返らないでくれ。ああ頼む、後生だから。」
きっと幸村の言う通り、これはたった一回の後生だろうから、武蔵は決して振り返ることはなかった。武蔵はそんな自分を臆病者だと罵ったが、幸村にはそれこそ伝わらなかっただろう。
***
09/30