バイオレンスお題(自前)


1 平手 三成×幸村
2 グーパンチ 兼続×幸村
3 首を絞める 政宗×信繁(現代)
4 後ろ手に縛る ?と信繁
5 刀傷沙汰 武蔵と幸村






























右の頬を殴られたら、左の頬を出しなさい。


パン!と高らかな音が鳴り響き、その余韻が耳からも消え去ってようやく、己の頬が熱を持ったようにじんじんと痛む事実に気付いた。己の頬を打った、顔の部品の一つ一つが作り物のように整った男は、そのきれいな顔に無様な表情を浮かべ、幸村以上に驚愕を露にしていた。腕は不恰好に振り上げられたままだ。

「ゆき、」

パン!と先程と同じように、高らかに頬を打つ音が響いた。じんじんと痛む頬、同様に、じんじんと熱を持つ右手。彼が幸村に対して、何らかの不快を感じ手を上げたのではないことを、幸村はちゃんと見透かしていた。あまりにも脈絡なく、衝動的に、―――魔が差した、という表現に限りなく近いその衝動に突き動かされたに過ぎない彼と、幸村の今の行動は全くの別物だろう。殴られたら、殴り返してしまうのが幸村の困った癖だ。

容赦なく幸村の頬を打った男は、同じように幸村からの報復をくらった。幸村は相手の男――三成の表情を窺う。彼の顔に浮かんでいた驚愕は、『どうして幸村に乱暴を働いてしまったのか』から、『どうして幸村に殴られてしまったのか』に摩り替わっていた。遅れてきた痛みがようやく頭にまで浸透したのか、今度はその整った顔をぐにゃりと歪めた。目には薄っすらと涙の膜が張っている。

「すまぬ、すまぬな、幸村、」
「いいえ。わたしも、とんだ無体を致しました。」
「いや、お前は俺を窘めてくれたのだ、」

(ええ、そうですよ、あなたはわたしと対等でいたい、と、そう仰っておりましたから。)

けれど幸村はそれを口に出すことはせず、崩れ落ちるように嗚咽をこぼし始めた三成を支え、その背をまだじんじんと痛む掌でさするのだった。





***
うちの幸村には殊勝さが足りない。
07/09






























やられたら百倍返し。


骨と骨とがぶつかる硬質なはずの音は、骨を覆う柔らかな皮膚がその硬い音をくぐもらせて、二人の耳へびりびりと響いた。彼がこういった行為に性的興奮を覚えてしまうのなら、幸村とて仕方がないと割り切り、相手を間違えておりますよ、と指摘することが出来るのだが、彼のこぶしが幸村の頬骨に強かに振り下ろされるのは、そういった簡単な話ではない。いいや、ある種とても安易な、子供の癇癪のように単純且つ厄介な問題であるのかもしれない。幸村は彼がこの行為に性的倒錯を感じていないことを見透かしていたのだから、幸村の中でこの問題は完結していた。手本がそもそも間違っているのだから、手習いに丸が付けられる日はきっと来ることはないだろう。

(痛い、なあ。)

そう思い、見下ろしている兼続の目をじっと見つめた。兼続は無言の抵抗とも取れる幸村の視線に、その行為を止めた。可哀相に、彼のこぶしは赤くなってしまっていた。同様に、己の顔の惨状を考えて、幸村は憂鬱になってしまった。人と顔を合わせるのは避けなければならないなあ、とぼんやりと思う。

「兼続どの、」
「、うん、」
「痛い、です。」
「ああ、そうだな。」

再び振り下ろされたこぶしを、幸村は手の平で受け止めた。びりびりと互いの腕に振動が走る。まさか避けられるとは思っていなかった兼続は、その一瞬動きを止めた。その隙に幸村の容赦ない追撃が入った。骨と骨とがぶつかる、硬質な、それでいてくぐもった音。幸村のこぶしが、兼続の頬骨にぶつけられた音だ。

「、痛いぞ、幸村。」
「わたしも、痛い、です。」

互いに赤くなった箇所に手をやり熱を感じ、そしてどちらともなく、「すまぬ」「すいません」と二度三度会話を繰り返した二人は、涙を押し殺して抱き合って眠るのだった。





***
07/11






























(あの頃と比べて)非力で無様なわたしと彼


パタパタとうちわが風を送る度に、信繁の、正確には信繁の記憶を持った人間、の首筋が露になる。細い細いその首の。
うなじには薄っすらと汗が浮かんでいた。政宗が扇風機を占拠してしまっている以上、彼は己で風を作り出すしかないのだが、いかんせん、ぬるい室内の空気が作り出す風など、気休めにもなっていないようだった。

「細い首よのう。」

政宗の、正確には、政宗の記憶を持った全くの別の人間、を信繁は恨みがましい目で振り返った。うだるような暑さの中、うちわで乗り切らねばならぬ人間の負け惜しみだ。

「政宗どのの方が、どこもかしこも、わたしより細いんですけど、」

みなまで言わせず、政宗は信繁の腕を引き寄せ、強引に組み敷いた。そして首筋に触れる。喉仏をやわやわと撫でている。
身体をくっ付けている分暑さも増したが、政宗の身体が遮っていた扇風機の風が信繁の髪に触れた。涼しい、とは言えないが、幾分かマシになったかもしれない。いや、身体が触れ合っている箇所から生まれる熱と合わさって、事態は先程と大差ないだろう。暑いことに、なんら変化はない。

「政宗どの、暑いです、」
「まっこと、細い首よ。簡単に折れてしまいそうじゃのう。」
「それはあなただって、」
一緒です、と政宗に伸ばされた手は、乱暴な動作ではたかれてしまった。面白くなくて抵抗しようと身体を硬くした瞬間、今まで触れているだけだった彼の人差し指が、ぐっと信繁の喉を押した。咄嗟のことに驚いて、信繁は動きを止めた。政宗は人差し指から指全体、ついには手の平、両の手に、己の体重を乗せて、信繁の首を締め付けた。信繁は抵抗する方法を忘れて、ただ政宗の暴挙に身を任せている。苦しい、という感情が置いてけぼりになっている。呼吸が出来なくて不便だ、とぼんやりとした頭がそう信号を送ってくる。政宗の細い腕には、筋肉のスジが走っていたが、記憶の中の彼の魅力には到底追いつけなかった。しなやかな けもの の様な身体をしていたあの頃の、



「お前殺して俺も死ぬ。」


陳腐な言葉に、いっそ笑い飛ばしてやりたいぐらいだった。粋を死ぬまで愛し続けた男の台詞としては、あまりにもお粗末ではないか!
けれども信繁は、その台詞を吐き出した男の表情を、至近距離で見てしまっている。頬を強張らせ、眉を寄せて、唇を噛み締めて、ああ泣きたいのか、と信繁はすんなりと彼の内心を読み取った。
信繁は喉にリアルな彼の指のでこぼこを感じながら、力を振り絞り言葉を吐き出した。細い、折れてしまいそうな首は、繊細な傷一つない指が締め付けているに過ぎない。


「そ、の、こころ、は?」

「あの頃に戻りたい。あの、不潔で、不衛生で、土臭く荒涼としていたあの時代に、」


信繁は、その瞬間のことをあまりはっきりと認識していない。ただ己の中に突如わき上がった衝動のまま、己の首をぎゅうぎゅうと容赦なく締め付ける男の手を掴み、強引にその拘束から剥ぎ取り、乱暴に彼の身体を放り投げた。畳の上を無様に転がった男は、信繁と同じぐらい呼吸を乱して、必死に酸素を取り込もうとしていた。

信繁は息を整えながら、ゆっくりと身体を起こした。政宗の背は未だ激しく上下していて、つい信繁も気の毒なことをしたなあ、と思ってしまった。被害者意識が薄いのは昔からだ。信繁は政宗を見下ろすように彼の近くでしゃがみ込んだ。政宗はうつ伏せに転がっていて、信繁からは彼の表情は窺えない。それにため息をつきながら、手探るように言葉を吐く。

「別に死んでもいいですよ?ただ、わたしとあなたがここで死んで、この たましい が開放されたとします。でもきっと、今以上に遠い遠い、あの頃の"におい"など全くなくなってしまった世界へ飛ばされるだけで、あなたの願いは叶わないと思いますよ。」

それでは、駄目じゃないですか。と締めくくり、動きが見られない政宗を見捨てて、信繁は立ち上がった。一気に暑さが舞い戻ってきたような錯覚に、ついに耐えられなくなったのだ。動いたら余計に暑くなったじゃないですか、とぶつぶつ独り言を呟きながら踵を返そうとすれば、がしりと足首を掴まれた。

「…暑い。」
「わたしだって暑いです。扇風機、首振りにしますからね。」
「駄目だ、暑い。」

けれど信繁は、容赦なく彼の拘束から逃れて扇風機の前に陣取り、代わりに、先程まで使っていたうちわをぽいと政宗に投げつけた。首には彼の指の跡など残ってはおらず、ただ触れた熱ばかりが染み付いているだけだった。





***
いつの間にか、政宗視点から信繁視点に話が摩り替わってる。Oh! It's magic!(…)
07/14































大人になるタイミングを逃しました。


抵抗する間もなく、幸村はいとも簡単に拘束されてしまった。彼の側近たちは、幸村に遠慮する様子すらなく、骨が軋んでいるのではないか、と幸村が思う程強く、幸村の両の腕を縛り上げてしまった。身じろぎをする度に、縄が腕に食い込む。後ろ手に縛られたまま正座をさせられ、けれども頭が高いと身体は伏したままだ。そうして主が命じるままに幸村に無体を働いた側近たちは、主が命じるままに幸村を部屋に転がしたまま、一人残らず退室した。部屋には無様に地に伏す幸村と、彼らの主が居るだけだ。

「左衛門佐、」

そう三度繰り返されて、幸村はようやく首を持ち上げた。不恰好な体勢のせいで、ぎしぎしと背骨が軋んでいる。

「わたしは、別段お前を辱めようとしているわけではないのだ。」
「存じ上げて、おります、」

どうやら腕だけではなく、胸まで圧迫されているようだ。呼吸が拙くなってしまう。

「○○さま、」

幸村の無感動な、感情の起伏が読めぬ目が、彼を静かに射抜いた。こうして幸村を貶めている原因は間違いなく"彼"であるのに、幸村はそのことに対して、何ら感想を抱いていないらしい。むしろ、その目に小さく悲鳴をあげたのは"彼"であった。怯えたような悲鳴は、二人きりの室内に殊の外大きく響いた。

「うらぎられることが、そんなにもおそろしいですか。」

ああ、ああ、と嗚咽をこぼしながら、"彼"はさめざめと涙をこぼした。おそろしいとも、こわいとも、たとえ雑兵一人であっても、わたしの前から居なくなってしまうことは、

幸村は"彼"の涙にさっと視線をそらしたが、その先に映ったものに、もそもそと身体を寄せた。至近距離である、僅かに首を伸ばすだけで、それは事足りた。
顔を覆い、泣いていることしか出来ぬ"彼"の足元は非常に無防備であった。日に晒されぬ彼の足首は、遊女の肌のように白かった。焼けていないそれは作り物めいていて、幸村が己がしようとしていることが、それほど大したことではないような錯覚を感じた。薄い唇から舌を出し、そっと彼の足先を舐め上げた。"彼"は当然びっくりして、悲鳴を上げることすら忘れているようだった。だが、行為をやめぬ幸村におびえて、やめよ!と大声で幸村をいさめた。幸村は直ぐにその行為を止め、再び"彼"を見上げた。"彼"は矜持の高い幸村が晒す醜態に怯えているようだった。更には、そうしてまでして示される忠義の重さに呻いているようでもあった。"彼"は人一人の命の重みすら受け止められぬのだ。

(生きよと命じるのは簡単だ。けれども、このお方は死ね、とわたしの為に死んでくれ、と、そう命じなければならぬのに。このお方は、この時点ですでに、敵方の大将に負けている。)

幸村は、"彼"が泣きながら謝りながら縄を解いていくのをぼんやりと眺めながら、"彼"の胸中を鬱々と思った。"彼"はそんな幸村の同情には気付かずに、やはり、泣きながら謝りながら、怯えながら、幸村をその大きな身体ですっぽりと抱きすくめ、赤くなってしまった幸村の腕をさするのだった。





***
お相手は秀頼さまでござるよ。うちのバイオレンスは暴力振るった側の後悔が早すぎる。でもって、幸村に対して打撃を与えられない(あれ、おっかしいなあ)
なんでお相手に秀頼さまを選んだのかっていうと、信繁さんが無条件に頭を地面にこすり付ける相手が、秀頼様ぐらいしか思いつかなかったからです。別段、秀頼さまに無二の信頼を置いているわけじゃなくって、筋を貫き通したいだけですが。うちの子はどうしてこう、可愛げがないのか。
07/19






























薄皮一つ切れたところで、脅しにもなりはしない。


だん!と床を打った音は、びりびりと二人の肌に伝わり、すぐに消えてなくなってしまった。幸村が武蔵の刀を床に突き立てた音だ。幸い刀は抜かれてはおらず、丈夫な鞘には傷一つつかなかった。

「退けよ。」
「断る。」
「退けって言ってるんだよ!」
「断ると言っている。」

武蔵が幸村に飛び掛る。幸村は刀を持ち替えて、掴みかかろうと伸ばされた手をひょいとかわした。獣のような目をする男だ。野生的、などという生温いものではない。この男は、事実牙を剥いたら、野生の狼そのものの目をして、幸村を睨み付けるのだ。

「そいつ返して、そこを退いてくれ。今ならまだ、お前を許してやれる。」
「返してやるのは構わないが、ここを退くことはできない。第一、お前に何を許してもらうのか、毛頭見当もつかない。」

武蔵が地を蹴る。幸村もさっと後退するが、武蔵の方が早かった。一瞬のうちに間合いを詰めた武蔵が刀を強引に掴み、後ろに重心のかかっている幸村に足払いを仕掛けた。幸村に回避するいとまはなく、幸村は尻餅をつく格好でその場に倒れ込んだ。手を咄嗟に付いたことで、辛うじて強打は避けることができたが、武蔵が更に圧し掛かってきたものだから、幸村は起き上がることができなくなってしまった。主導権は、もうこちらにはない。

武蔵がこうまで怒り狂っているのは、何も愛刀を人質にされたからではない。武蔵は、刀に愛着を持っているものの、執着は全くと言っていいほどなかった。どの得物も平等に好んだし、どの得物も同様に憎んでいた。ただ、幸村が道を塞ぎ、幸村自身の行く末を一本道にしてしまっている現状に、彼は怒りを抱いているのだ。その道は、本来ならば武蔵と隣り合って歩いていける程、太い大きな道であったのに、幸村が途中でこうして通せんぼしているせいで、武蔵は幸村と共に行くことができない。

すらりと刀を抜き放てば、研ぎ澄まされた刀身がどこから忍び込んだのだろう、陽の光を反射させた。月を連想させる白銀だ。武蔵は、先程の幸村にならうように、刀を床に突き立てた。その際、幸村の右頬を掠めていった。幸村の戦の汚れが染み付いた頬に、一筋、鮮やかな赤い線が引かれた。

「お前は弱い、弱いんだ。俺なんかより、よっぽど弱いくせに、そうやって強がって、馬鹿じゃねえか。」

武蔵はそう言って、小さく鼻をすすった。既に刀にこめられていた力は抜け落ちていた。武蔵の腕をすっと撫でる、幸村の視線にも、筋肉の筋はほとんど分からなくなっていた。
そうして、もう一度、「なあ、退いてくれよ。」と繰り返した。先程の強気はその調子にはなく、なあ頼む、頼むよ、といかにも弱々しかった。幸村は彼の優しさを好ましく思いながらも、その言葉を受け入れることはできなかった。圧し掛かっている武蔵の腹目掛けて足を蹴り上げ、武蔵の身体を吹き飛ばした。武蔵が受身を取り立ち上がっている頃には、幸村が体勢を整え終えた後だった。武蔵が突き刺した刀を抜き、その切っ先を武蔵へと向ける。


「武蔵、お前には狡猾さが足りない。わたしはそれが、うれしくて、くるしい。」


この男は、戦の狂気を知る男は、それなのにわたしと同じように薄汚くはならない。それが、どうしようもなくうれしいのに、薄汚くなってしまったわたしは、その別離が、どうしようもなく哀しくて淋しいのだ。





***
躍動感ある話が書けません(…)
07/20