『淋しいという字』


私はお前と共に居ると、時々無性にかなしくなってしまう。

兼続がそう言って、つらつらと紙に文字を綴った。和紙にじわりと墨が滲む。既にあて先を失った文の行方はどうなるのだろうか。幸村に見向きもしない彼を横目で眺めながら、幸村は言った。

わたしはあなたと共に居ると、時々無性に苦しくなってしまいます。

そうして、幸村は笑みを作った。兼続は幸村の表情を見ていないはずなのに、気付いていないはずなのに、その眸に薄っすらと涙を浮かべて、ああ、ああ、と呻き声を上げながら、筆の先を紙にぐりぐりと押し付けた。その視界に、幸村はいないのに。

兼続どの兼続どの、わたしは知っていますよ。

なにを?

兼続は最早使い物にならぬ、濃く薄く墨で染まってしまった紙の上に、そう言葉を重ねた。けれども幸村は、彼がどんな台詞をこの真っ黒な世界に乗せたのか分からなかったから、その先を言うことが出来なかった。





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淋しいという字をじっと見ていると
二本の木が
なぜ涙ぐんでいるのか
よくわかる

寺山修司 『ダイヤモンド』より
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08/14