久しぶりにBASARAを書いてみた


慶次と幸村
政宗と佐助で幸村サンドイッチ
































 慶次は決して己の来訪が歓迎されていないことを、重々に承知していた。決して、部屋へと案内する屋敷の者が無愛想なわけでもないし、出される茶菓子も素朴な味ながらもおいしい。むしろ屋敷の人間はとても親切で明るく、話し掛ければちゃんと受け応えをしてくれる。屋敷の、彼に仕えている人々、は。
 慶次の唐突の来訪を聞き、嫌々ながら姿を現す屋敷の主に、慶次は負けてなるものか、といっそうにこやかな笑みで手を上げて挨拶をする。足を崩した体勢の、振り向き様の挨拶に、彼は不機嫌を更に加速させる。
「此度はまた、どのような用向きで。」
 無感情な声にも、慶次は表情を崩さなかった。これは彼との我慢比べだ。そう言い聞かせて、彼にとっては至極迷惑であろう能天気な声を発した。
「んー、用っていうか、幸村の顔が見たくなったから寄ったんだけど。」
 幸村は慶次の言葉に、理解できないと、言外に表情で告げた。
「かんざしをね、貰って。幸村に似合うかなーと思ったら、居ても立ってもいられなくなっちゃって。」
「酔狂な。」
 これが、それなんだけど。と懐から取り出したかんざしを幸村は一瞥しただけで、幸村はすぐに視線を元に戻してしまった。慶次を見るわけでもなく、庭先へと真っ直ぐに注がれている。
「着けてあげよっか?」
「結構。さっさと仕舞ってくだされ。まっとうな相手に贈るがよろしかろう。」
「ねえ、どうしておれからの贈物は何一つ受け取ってくれないの?あの、忍びみたいにさ、どっかの竜のお殿様みたいにさ、おれもあんたの日常の一部に溶け込まさせてよ。」





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「今の肩書きなんて捨てて、どっか遠くに行かない?」
 恋の一つも知らないから、そんな疲れた顔してるんだよ。慶次はごろごろと畳の上を移動しながら、幸村の鼻先に指をつきつけた。幸村はぼんやりした視線を、慶次の指と顔の間を行ったり来たりさせている。ここ数ヶ月戦もなく、似合わないことこの上ないが、文机とにらめっこの毎日が続いているらしい。
「前田どのは、身軽でよいな。」
「なら、」
「だが、それがしは前田どののようにはなれぬ。それがしには、逃げているようにしか見えぬのだ。」

 反論をしたくて慶次は口を開いた。だが、その先を言わせぬように、幸村が畳み掛ける。

「まこと、そなたは前田の家を捨てることが出来たのか?違うだろう、いくら逃げ出そうが、捨ててしまおうが、いつまでもいつまでも、追って来る。逃げても逃げても、逃げ出せぬものが、この世にはあるのではなかろうか。」
 もう来ないでくだされ、八つ当たりだとはそれがしも分かってはいるのでござるが、どうもそなたを見ていると、苛々してしまうのだ。





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10/09
































 羨ましい、まではいかずとも、刹那、あ、いいな、と気の迷いを抱く程度の嫉妬を、あの男に抱いていることは間違いない。それはあちらも同様だろう。

 例えば戦場での邂逅。今の今まで、彼と言葉を交わし、彼の視界の大半を占めていたのは自分なのに、あの男が自重もせずに殺気を振りまき、彼の前に現れた時、佐助という存在がすぐ隣りに居たことすら、主の頭から抜け落ちてしまう。あの戦の熱に浮かされた、獰猛な殺気立った鋭い目が捕えるのは、たった一人の存在だ。その、人の生き死を嘲笑うかのような、魂の昂揚を誘う、人を射殺してしまえそうな視線が佐助に向けられる日など永劫やってこないだろう。

 代わりに、あの男は主がどのように笑うのか、どのようなだらだらとした日常を過ごすのか、その眸が一体なにを見つめているのか、彼が唯一おびえるものとは何なのかを、一切知らない。佐助があの獰猛な獣の眸と正面から対峙する日が永遠に訪れないように、あの男は永遠に主の狂ったような戦場での顔しか見ることが許されぬのだ。こわい夢を見た時、どのように顔が引き攣るのか。嬉しいことがあった時、どのように佐助と喜びを共有するのか。顔の顰め方、表情の作り方、癖や会話の合間にこぼれるさり気ない動作に隠された感情を、あの男は読み取る術を知らない。


「じゃあな幸村。また来る。」
「はいはいさっさと帰ってよねぇ。片倉さんも心配するだろうし、当分、てか、一生来なくていいのに。竜の旦那は相当お暇なようで。」
「てめぇに会いに来てんじゃねぇよ。保護者ヅラして一々口出すんじゃねぇ。」
「あーやだやだ、口が悪いったらないね。旦那にうつったら大変だよ。」
「てめぇは幸村のおかんか?口うるさくて仕方ねぇな!」

 矢のように飛び交う会話を、その真ん中に立ち聞いていた幸村だが、ぽんと手を打った。またこの子はくだらないこと考えてるんだろうなあ、と思いつつも、佐助は何?と振り返る。

「二人は仲が良いなあと思って。そうやって騒いでいると、佐助も若く見えるぞ!」

 にこにこと二人を見比べる幸村に、二人は抗議の声を上げるのだった。

(全く!人の気も知らないで!若隠居みたいな格好の旦那に言われたくないね!)





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幸村の普段着は、くすんだ、と言うか、落ち着いた感じの色の着物です。これは譲れない(…) でもお出掛け用は派手。というか赤。真紅。躑躅色。普段着が地味なのは、兄上の着物を貰ってるからです。兄上は落ち着いた色を見事に着こなしてるのに、幸村が着ると、あれ?ってなります。顔は似てるのに、空気が違いすぎるせいだと思われます。多分、触れるところはここじゃないよね。
10/10