私的趙幸を考えてみた
その1
その1の蛇足。
真剣に打ち合った二人は、倒れ込むようにしてその場に寝転がった。大陸の空気は幸村が慣れ親しんだ風よりも乾燥しているような気がする。
しばらくは乱れた息を整える二人の呼吸しか聞こえなかったが、先に落ち着いたらしい趙雲が身体を起こしながら口を開いた。
「これから水浴びでも行かないか?」
幸村も趙雲に倣ってその場に座り込みながら、いいですねぇ、と相槌を打つ。鍛練後の汗を流したいのもあるし、旅の埃も落としたい。特定の拠点を持たぬ蜀軍では湯浴びは手間がかかる。そこら辺の川べりで身体を清めるのがせいぜいだ。
では準備をしてこよう、とまず趙雲が立ち上がり、幸村に手を差し出す。幸村は、ありがとうございます、とその手に掴まり、こちらも腰を上げる。行こうか、と先を促した趙雲の声に、あっ!と幸村の声が重なった。
「今日の食事当番でした!趙雲どの、申し訳ありませんが、」
「いいよ、行っておいで。私は、そうだな、孫市どのに付き合って貰おうかな。」
「はい。それでは!」
まさに颯爽と言うべき素早さで幸村は駆け出し、簡単に張られている天幕へと消えて行った。趙雲はその後ろ姿をにこやかな笑みを浮かべつつ、手を振りながら見送るのだった。
***
11/15
幸村にお誘いを断られてしまった趙雲だが、運よく孫市を見つけ、二人で川べりで水浴びをしていた。一人が水をかぶっている間は、もう一人が見張りをしている。というのは形だけで、先に水浴びを終えた孫市は、ぼんやりと頬杖をつきながらの、全くの無防備な体勢だ。男の裸に興味はない!と言わんばかりに、趙雲に背を向けている。
「そう言えば、」
「あ〜?」
「幸村どのは、中々手強いな。」
「まぁ、そうだろうなあ。あんたと対等に打ち合える人間なんざ、そう多くはないだろ。」
趙雲は頭から水をかぶりながら、そうではない、とどこか笑い声を滲ませた調子で言う。薄っすらと笑っているのが、付き合いの短い孫市にも分かった。
「あなたに真面目な鍛練の話などしないさ。あなたが好む類の話を振ったつもりだったのだが、案外にあなたも鈍いようだ。」
そう言って、今度はくすくすと笑っている。
「幸村どのは、私の下心に気付いているのだろうか。気付いているにしろいないにしろ、彼は至極巧妙だ。ごくごく自然に、私と距離を置いている。そういう意味で、彼は手強いよ。」
***
11/15