オロチ妄想、です。
幸村がガチでオロチ側な話です。
どんな幸村さんでも大丈夫!って方はお進み下さい。
ここの幸村は特に、幸村−(可愛げ+受らしさ)+辛辣×殺伐 状態です(…)
1 スパイス程度のダテサナ
2 慶幸未満+伊達
3 カルシウム足りてないくのいちと幸村
4 気まぐれに、三成と妲己の罵り合い
5 距離間が崩壊した武蔵と幸村
6 三成→→→←幸村
政宗は敵の陣形を見下ろした。あれに見えるは曹子桓率いる曹魏の軍。その傍らには、おそらく石田三成の姿もあるだろう。流石に陣の動きは見渡せても、一人一人の姿までは捉えられない。さて、この戦、どう動くか。しかし政宗の意識は、隣りに佇んでいた男の横顔を何気なく見てしまったせいで、そちらに持っていかれてしまった。名を真田幸村という言う。無表情で、先程の政宗同様、敵陣をじっと見つめている。考え事をしているのだろう、瞳の奥の光がしきりに動いていた。
幸村は、三成が離反をしてからすぐに、こちら側へ加わった。今まで沈黙を保っていた彼の出現に、政宗は一人動揺したものだ。
(お久しぶりです、政宗どの。)
政宗はその時の幸村の声を、今でもしっかりと記憶している。幸村の異常な程に穏やかな声を、どうして忘れることができようか。彼はそうやって、いつも嘘をついていたことを、政宗はよく知っていた。幸村の嘘ほど、白々しさと清廉さと、そして何より本音を抱えたものはあるまい。
「政宗どの?」
幸村が政宗に顔を向け、そう呼び掛けた。睨み付けるように見つめていたせいで、幸村も居心地が悪くなったのだろう。ただそれを表面に出すことはなかった。幸村は迂闊に己の感情を表には出さない。だから、言葉が白々しくなってしまうのだ。
「私の顔に、何か付いておりますか?」
「そなたの考えが分からぬ。」
顰めっ面を晒した政宗を、幸村はくすくすと笑った。そんな些細なことをお考えになっていたのですか。そう言われた気がして、政宗の機嫌は下降した。どうやら、何度も浴びせかけた政宗の言葉は、何一つとして届いていなかったようだ。
一頻り笑った幸村は、すっと指を持ち上げた。兵の規模からして、おそらくは本陣であろう箇所を指差した。そこに、あの石田三成はいるだろうか。政宗はそう考えてしまってから、軽く頭を振った。どうも邪推し過ぎてしまう。幸村の心情など、当事者ではない己が考えるべきではないのだ。
「兵数はこちらが有利。なれば、彼らは一当たりしてすぐに撤退するでしょう。釣り野伏せかもしれませんが、我らの任務はこの砦を守ること。貝の如く砦に閉じこもれば、勝利は我らのものです。追撃は、形までに留めるべきでしょう。」
幸村はそうすらすらと語ったが、そんなことは政宗も承知している。また幸村も、政宗がそんなことを聞いたわけではないことを分かっているはずだ。避けたい話題ゆえ、摩り替えようとしている。が、政宗は追撃をせぬほど、優しくはない。少なくとも、戦巧者の幸村には。
「長篠、小田原、関ヶ原、大坂、」
じろりと残された片目で幸村の表情を窺えば、幸村はにこりと笑った。あくまで、その奥底を隠している。
「そなたは、どこまで見知っておる。」
「さあ?おっしゃる意味が分かりません。」
政宗は鋭い眼光で幸村を見据えた。一睨みだけで人を竦みあがらせることの出来る眼光にも、幸村はにこにこと笑っていた。食えぬ人間だとは、政宗も承知の上だ。この外面の良さに何人が騙され、何人がほだされ、何人が絶望したことか。
「まあ、よいわ。」
ふん、と鼻を鳴らしながら、政宗は踵を返した。長期戦は嫌いではない。時間はまだまだあるのだ。幸村も最期までこちら側で戦うだろうことを、政宗は肌で感じ取っていた。謀略は得意だが、裏切るという行為は嫌う男だ。その辺りは信頼できた。何より、己の勘を政宗は信じていた。
「今はそなたとの共闘を楽しむことにしよう。そなたの軍略、楽しみにしておるぞ。」
そう言い捨てるや、政宗はその場を後にした。
幸村はその後ろ姿をじっと見つめている。目を細めたその様子は、いつかの彼とを重ねようとしているようにも見えた。変わらぬものの愛しさと残酷さは、幸村にとっては何よりもおそろしく、けれどもそれ以上に好むものであった。不変のうつくしさは、愚かさと優しさを持っているのだ。
(魔王はいつか滅ぼされる。その足音が私にははっきりと聞こえている。終焉を――――。)
幸村は、魔王が未来の英雄の為に用意された駒だということを知っているのだ。
***
04/14
「一当たりしてみるか。」
政宗がぼそりと呟いたのは、たった今の思考の結論であって、誰かに意見を求めたものではない。政宗が出した結論は、伊達軍であったならば、いつだって絶対のものである。それがいかに愚策であったとしても、決行させるだけの意地と度胸とが政宗にはあった。他人の助言は聞き入れるが、自分が押し通すべきことは譲れない性分であった。
「私も賛成です。士気の低下は防げましょう。」
その政宗の独り言への返答だ。政宗は途端顔を顰めた。一人きりの思考の時間を邪魔されるのは好きではない。しかし相手は政宗の不機嫌さに気付いていながらも笑顔を保ったまま、政宗の隣りに並んだ。本陣の中には、二人以外の人影はない。
「そのお役目、是非とも私に。」
政宗は咄嗟にその声の主を振り返ろうとして、それこそ彼の思うがままであることを覚り、何とかその衝動を押し留めた。相手は曹魏である。当然、三成もその中にいるだろう。三成以外にも、幸村と懇意にしていた人間がいるはずだ。真田幸村という人間が、こちら側にいるという事実だけで、動揺するに違いない。政宗は、唇だけを動かして彼の名を呟いた。真田、幸村。この名は真に彼のものだろうか。彼は本当に真田幸村だろうか。姿形は記憶と寸分の狂いもない。だが、真田幸村という男は、今のように露骨な男ではなかったはずだ。
探るような政宗の視線を、何を勘違いしたのか、幸村は言葉を続けた。
「私はこちらの世界では、まだ無名です。なれば、私が出撃しても、敵方は油断するはず。そこを突き、戦況を動かして、
「やめい。」
幸村は静かに言葉を止めた。途切れたというよりは、発することを己からやめてしまったように感じられた。
「冶部がおる。そなた、外面を繕わずともよいのか。ええい、よいわ。そなたには頼まん。慶次、どこにおる慶次!」
「慶次どのは着陣なされたばかり。疲労も溜まっておりましょう。」
「あの男に疲労などあろうものか。ええいおらぬのか慶次!早う姿を見せい!」
「そう何度も呼ばずとも、ちゃんと聞こえてるぜ政宗。ちょっくら出てくりゃいいんだろ?」
本陣に顔を出した慶次は、政宗の姿を認めるなりそう言った。だが、幸村と顔を合わせた途端、機嫌の良さそうに動いていた大きな瞳が、すっと細められた。幸村の心情を見透かそうとしているのか、それとも、幸村の瞳の奥底の闇を覗こうとしているのか。
「私も行きます。一兵卒として扱って下さい。」
「そう急がずとも、戦の機会はすぐにでも巡ってくるだろうよ。お前さんが出るには、まだ時期尚早だ。」
「そうは思いません。時期を逃してしまいます。」
「よく考えるこった。一度あいつらを敵に回しちまうと、もう後戻りは出来ないぜ?あんたには、まだ戻る場所があるだろうよ。」
「その言い方だと、慶次どのには戻る場所がないように聞こえます。それは、彼らに失礼です。」
はっは、そうさなあ。
慶次は一段と高く笑い、会話は終わりだ、とでも言うように、踵を返した。二百ばかり借りてくぜ、と政宗に告げ、慶次はさっさと退散してしまった。すぐにでも、戦の喧騒が聞こえてくることだろう。
政宗は隣りの空気の振動を、敏感に感じ取った。慶次と幸村の会話など、直視できたものではなかった。慶次同様踵を返した幸村が辿る道は、想像に容易い。
「待て。」
幸村が動きを止める。政宗はまだ振り返ることができない。
「誰が許可をした。自儘は許さぬぞ。」
「あなたの許可が必要なのですか。」
穏やかな声ではあるが、同時に無表情でもある。感情が分からない声音だ。
「この軍の総大将はわしじゃ。わしの命に従わねば、軍規違反で首をはねるぞ。」
土を踏みしめる音がする。幸村が政宗の言葉に構うことなく、一歩を踏み出したせいだ。
「ならぬと言うておろうが!」
政宗は思わず突き出した手で、幸村の腕を掴んだ。流石に幸村も、この行動は予測できなかったようで、咄嗟に言葉が返って来ることはなかった。
「…離して、くださいませんか。」
「そなたの言葉は信用できぬ。」
「そのように警戒せずとも、慶次どのの後を追うようなことは致しません。」
その声音には、慶次に向けた闘志はなかった。政宗はあっさり彼の言葉を信じ、その手を離した。幸村は振り返ろうか逡巡したようだったが、結局、政宗に背を向けたまま、本陣を後にしたのだった。
***
04/15
本陣を後にした幸村は、人の気配を避けて、陣営から離れた場所まで辿り着いてしまった。どうも、調子が上がらない。無意識に吐き出した溜め息に、聞き慣れた笑い声が重なった。
「にゃは、幸村様ったら、超イライラしてますね。あの伊達っ子のせい?それとも傾奇者のせい?まあ分からないでもないですけどね。死んだ人間がふっつうに闊歩してりゃ、あたしだってイライラしますよ。」
「くのいち、からかうな。」
「からかってなんかないですよぅ。折角、幸村様の心、代弁してあげたのにぃ。奥州王も大概、臆病もんだったんですねぇ〜。あんなに気ぃ遣っちゃって。」
「くのいち。」
「はいはい、そろそろ黙りますよ。あたしもイライラしてるんですから、ちょっとは解消させてくださいって。それにしても、伊達っ子も可哀想に。幸村様ったら、ホントひどいヤツですよねぇ〜。」
「…くのいち。」
「はいはい分かってますって。幸村様もあの狐も、男なんてみ〜んな臆病もんだってことぐらい、あたしはちゃーんと分かってますって。んじゃ、あたしはここらで退散退散。次はも少し、そのイライラ解消しといて下さいね。そんな殺気ギラギラだと、女の子はこわくて近寄れませんぜ。」
***
04/15
「あの娘も気の毒にな。貴様に利用されるだけ利用され、結局知りもせぬ存在の為に身を滅ぼしてしまった。」
それは三成の精一杯の嫌味であった。同時に、三成の心からの言葉でもあった。あの娘はこの女狐のことを何と呼んでいただろうか。友などという清らかな言葉は、この女には似合わぬ。
三成は女の甲高い笑い声を聞いた。動揺を誘う為の言葉を、この女は嘲笑っているのだ。
「三成さんってな〜んにも分かってないんだから。あたしたちは、今だってちゃんと繋がってるのよ。これだから男って嫌。」
にやり、といやらしい程に彼女らしく、妲己は笑った。この窮地であっても、彼女の余裕は消えない。
「女はね、友情よりも愛を迷うことなく取る存在なのよ。」
***
04/16
足音をわざと響かせて、彼の背後まで近寄った。土を蹴る音は、必ず彼に届いているはずだ。それでも反応を示さない彼に苛立ちを感じ、軽く殺気をぶつける。この距離だ、お前を討ち取るなんて簡単だ。そう言葉を飛ばす代わりだったのだが、彼はやはり振り返らなかった。結局、根負けした武蔵が、彼の無表情の背中に言葉をぶつけた。
「何してんだ、―――幸村。」
幸村はゆっくりと振り返った。その見慣れた懐かしい顔には、笑みすら浮かんでいた。穏やかな、あの日あの時の、
「見ての通り、本陣を守っている。」
「本陣つっても、お前一人きりじゃねぇか。」
幕の張られた本陣には、幸村以外の人影がいない。忍びの気配すらなかった。これを本陣と呼べるものか。
「一騎当千の武士が攻め寄せると分かっていたら、兵を下がらせるのが当然だろう。」
先程、慶次が出陣をした。だがすぐさま伏兵に囲まれ、壊滅の危機に陥っている、と報が届いた。流石の慶次も、2倍3倍の敵には太刀打ちできない。慶次一人ならばどうということはないだろうが、兵を率いている分、身動きが取れない。当然援軍が派遣されたが、本来ならば幸村が指揮をとるところだが、総大将自ら救援に向かってしまった。幸村は本陣の守りに残されてしまったのだ。その虚を突かぬ手はない。手薄になった本陣を攻める兵があるだろうことを、幸村は覚った。その兵が武蔵であったとは、流石に幸村も予想できなかったが。
***
武蔵は、ある一定の距離を空けたまま、その場に立ち止まった。会話をするには、少々遠い。互いの顔は判断できるが、その細かな表情を読み取ることはできない。躊躇いなく触れていたあの頃とは、お互いの胸にうずくまっているものがあまりに違いすぎたのだ。
「来いよ。この軍はお前には似合わない。俺と一緒に来い。」
「似合う、似合わぬで属す軍を決めていたわけではない。」
空気が揺れた。幸村が穏やかに息を吐き出したせいだ。小さい笑い声は、この場にはあまりに不釣合いだった。
「後悔しているのか。」
何を、とは言わぬ。何が、とも問わぬ。武蔵は幸村が言いたいだろうことを分かっているつもりだ。けれども、それはあくまでつもりであり、武蔵の憶測の域を脱しない。こうしてお互いに探り合い、決め付け合い、自己満足をぶつけ合った相手だ。
「してねぇよ。俺は後悔なんて御大層な言葉を知らねぇ。俺は、そんな出来た人間じゃねぇんだ。」
知ってるだろ、と暗に訊ねれば、そうだったろうか、と幸村はわざとらしく首を捻った。武蔵が、幸村は常に己の斜め上を行く存在だと決め付けているように、幸村もまた、武蔵を過剰に評価しているのかもしれない。出来た人間になれなかったからこそ、幸村を放っておけないのだ。幸村がどこで何をしてようが、どういう風に死んでしまおうが、己には関係ない。そう貫くべきなのだ。それなのに、武蔵はそれができなかった。無駄だと分かっていても尚、その衝動を止めることができなかったのだ。後悔、などという言葉では到底表せぬ。出来ることならあの日あの時、愚かな選択をしたあの日に戻りたい。けれどもきっと、あの日に戻ることができたとしても、武蔵は同じ選択をするだろう。後悔ではない。諦めに、少しだけ似ている。諦めきれないのは、己の不甲斐なさの全てを諦観したわけではないからだ。
スッと目を細めて、幸村は武蔵の心を覗いた。いいや違う、それは武蔵の錯覚だ。そんなことで人の心が覗けてみろ、幸村は当に狂ってしまっている。
***
04/18
刃の交わる甲高い金属音が二度、三度、手に痺れをもたらして消えた。周りの喧騒が、些細な音など飲み込んでしまう。戦の最中だ。戦だからこそ、このような物騒な得物を握り締め、鎧を纏い、血と汗と泥と硝煙と、様々な不衛生なものが交じり合ったにおいの中に身を置いているのだ。
考え事をしている余裕などありますか?!
まるでそう言っているかのように、いっそう強く、三成の鉄扇に槍の刃先がぶつかった。否が応でも、現実に引き戻される。あまりの攻撃の激しさに火花が散った。三成はその勢いを受け止めきれず、思わず後ろへよろめいた。そこへ容赦のない追撃が、更に二度三度、繰り返される。ついに三成は、尻餅をついた。辛うじて、手にはまだ得物が握られている。三成は決して前線で戦うような武人ではないが、それ相応の鍛練を積んでいる。このように無様にやられるようなことはない。相手が、悪いのだ。三成が今まで鼻で笑ってきた者たちと同様の言い訳を、三成は心の中で吐き捨てた。
「何故だ、何故お前が俺に槍を向ける、……幸村!」
幸村は無表情に三成を見下ろした。三成は、戦場での幸村が、戦の狂気に取り憑かれ、その瞳に炎を宿すことを知っている。だが、今の幸村はどうだ。あくまで静かに、この戦場の狂気の中を佇んでいる。けれども、これは平時の彼ではない。このように、表情を殺したりする人間ではない。
「何故、とは三成どのらしくない、とても適当な問いですね。」
幸村!と声を発するつもりだった。だがそれよりも早く、幸村は三成の足元に立ち、その槍を振り上げた。咄嗟に目を瞑った。幸村の槍が切り裂いた空気が、三成の頬にぶつかった。
しかし、その刃先が三成を貫くことはなかった。代わりに、無防備な三成を押し倒した幸村は、その上にまたがった。これほど確実に、首を取る方法はないだろう。三成は、ゆっくりと目を開けた。三成の視界には、ただ幸村だけが存在している。その表情が、今は苦痛に歪んでいた。三成は、再び繰り返した。なぜ、と問えば、幸村の表情は更に険しくなった。
「応えろ幸村、何故だ。何故―――」
その先は続かなかった。幸村が三成の武器を奪い、土の上に横たわっている三成の顔の真横に突き立てたからだ。頬を掠めた鉄扇は、三成の顔に小さな傷を作った。幸村がようやく三成に負わせた傷は、所詮この程度であった。
「何故と問われても、何を問われているのか私には皆目見当がつきません。けれど、あなたの問いにあえて答えるのでしたら、」
場の空気が、唐突に動き出した。今までは聞こえてこなかった喧騒が、思い出したかのように三成の耳に届いた。それは幸村も同じだったようで、素早い動作で三成の上から退いた幸村は、三成を振り返ることなく去ってしまった。援軍が到着したようだ。幸村たちは、退くだろう。三成は撤退する彼らを追撃しなければならない。だが、何とか立ち上がった三成は、その場に立ち尽くすことしかできなかった。曹丕が三成の許に駆け寄り、彼に声をかけるまで、三成はじっと幸村の後ろ姿を見つめていた。
(死人に口なし、とは、どういう意味だ、幸村。答えなどになってはいないではないか。)
***
大坂夏の陣で死にぞこなった幸村さん、だとでも思って頂ければ。別に三成を憎んでるわけでもないんです。ただ死んでしまった人が、今も必死に生きようとしている情熱に、幸村が付いていけないだけなんです。生の輝きに置いてけぼりにされちゃったんです。ということを書きたかったけど書けなくって、多分書くこともないだろうと思いました。幸村さんが最初から最後まで可愛くなくてすいません。
04/21