あっ、と思った時には、既に幸村の眸から雫がこぼれていた。三成をその眸に映した瞬間の喜びと絶望とがない交ぜになった複雑な表情のまま、嗚咽をもらさず、静かに泣いている。まるでそこだけ雨が垂れているようだった。
三成は彼の歓喜と絶望を知っている。生きていてくれて嬉しい、失わずにすんでほっとしている。そういう安堵がある一方、戦が終わってしまった乱世が終わってしまった、わたしは一体いつどこで討ち死にすればよいのだろうと嘆いていることも確かだ。
(なんて淋しい なみだ だろう)
そう、三成は思う。いっそのこと、叫んで呻いて、己の中にくすぶる不満も喜びも感情のままに吐き出して、わんわんと泣いてしまえばいいのに。感情がふき出して己すら知らない間に流れる涙の存在が、苦しくってかなしくって可哀想だった。
幸村、と声をかけることも出来ず、三成はゆるゆると手を伸ばして、睫毛の涙をそっとすくった。幸村はひどく驚いた顔をして、睫毛を掠めていった指先を見、ゆっくりと三成へと視線を向けた。おまえが縋ることをよしとしない、己の存在がくやしい、と三成は少しだけ顔を顰める。幸村は三成のその表情よりも三成の行動に驚いたようだった。意外だと思うな、己に触れたがる者などいないと、何故決めつけるのだろう。いつだって彼は崖の端で立ち往生している。そして三成は、いつだってそんな彼の腕を引っ掴んですくい上げて、おまえの勘違いで間違いでただの被害妄想だ!と、彼が分かってくれるまでいつまでも説いてやりたい。さびしい自己完結は、いつだって三成から言葉を奪う。
ようやく己が泣いていたことを自覚した幸村は、無意識に、ぼやける視界を覆っていた涙をぬぐおうと腕を持ち上げたが、その手首を三成が掴んだ。幸村がびくりと身体を震わせたことに気付いていながら、三成は知らん顔をして、もう一度、彼の目じりに浮かぶ涙をすくい取ったのだった。
***
みっちゃんはヘタれてなんぼだと思ってます。三成ルートの関ヶ原後辺り。
あっぷりふと すぱいすの『未完成』から、
「涙は堪えなくたっていい 無くなるまで飲みほしてやる
そう胸で思っていても涙を拭うくらいしか出来ないでいる」
がまんまイメージです。
09/12/10